【呼吸器感染症領域】2024年9月の注目論文3選 (中島啓先生)
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亀田総合病院

2ヶ月前

【呼吸器感染症領域】2024年9月の注目論文3選 (中島啓先生)

【呼吸器感染症領域】2024年9月の注目論文3選 (中島啓先生)
呼吸器感染症領域で注目度の高い論文を毎月3つ紹介するシリーズです。 9月に注目度が高かった呼吸器感染症関連の論文を3つご紹介します。

成人気管支拡張症の肺増悪抑制にカテプシンC阻害薬が有望

Eur Respir J. 2024 Sep 26:2401551.

Cathepsin C (dipeptidyl peptidase 1) inhibition in adults with bronchiectasis: AIRLEAF®, a Phase II randomised, double-blind, placebo-controlled, dose-finding study.

背景 : 気管支拡張症には実地臨床で使える治療薬がない

気管支拡張症は慢性的な肺の炎症により不可逆的な気管支の拡張をきたす疾患です。 世界で3番目に多い慢性肺疾患ですが、 まだ実地臨床で使える治療薬がありません。 気管支拡張症は制御不能な好中球セリンプロテアーゼ (NSP) 活性によって特徴付けられます。 カテプシンCは好中球の成熟時にNSPを活性化させます。 よって、 カテプシンC阻害薬は、 好中球による肺損傷を減少させる可能性があります。 今回、 カテプシンC阻害薬であるBI 1291583の有効性と安全性を評価した第Ⅱ相二重盲検プラセボ対照無作為化試験 (AIRLEAF®︎ ; NCT05238675) の結果が報告されました。

デザイン : BI 1291583を3つの用量別に検討

AIRLEAF試験では、 気管支拡張症の成人患者を対象に、 カテプシンC阻害薬BI 1291583の有効性、 安全性、 および最適用量を評価しました。 合計322例の参加者が、 BI 1291583の3つの経口投与量 (1mg、 2.5mg、 5mg) またはプラセボを24~48週間投与される群に無作為に割り当てられました。

最大48週までの最初の肺増悪までの時間に基づく非平坦用量反応曲線が、 複数比較手法とモデリングアプローチとして示されました。 さらに、 BI 1291583の各用量の有効性は、 増悪の頻度、 重症増悪、 肺機能および生活の質 (QOL) に基づき評価されました。

結果 : BI 1291583は用量依存的に有意に効果あり

BI 1291583は、 48週間までの最初の増悪までの時間に関して、 用量依存的にプラセボよりも有意な効果を示しました (形状 : Emax、 調整p値 : 0.0448)。

BI 1291583の5mgおよび2.5mgは、 プラセボと比較して増悪のリスクを数値的に減少させました (HR 0.71および0.66、 95%CI 0.48~1.05および0.40~1.08、 いずれもp>0.05)。 BI 1291583の2.5mgは、 5mgと比較していくつかのエンドポイントで数値的に優れた有効性を示しました。 1mgはプラセボと同様の効果でした。

BI 1291583の安全性プロファイルはプラセボと同様でした。

💬My Opinions

Brensocatibでも肺増悪抑制の報告が

気管支拡張症に対して、 ほかにも複数のカテプシンC阻害薬の試験が行われています。 その一つとして、 DPP-1阻害薬であるbrensocatibは第Ⅲ相試験を終了しており、 まだ論文化はされていませんが、 プラセボと比較して有意な肺増悪の抑制効果が報告されています。

第Ⅲ相試験 (AIRTIVITY®︎) の結果に期待

本研究でも主要評価項目である非平坦用量反応曲線による効果の評価は、 プラセボと比較して有意な結果となりました。 今後、 この薬剤の第Ⅲ相試験 (AIRTIVITY®) も予定されています。 私も、 これらの薬剤が実臨床で使えるようになることを楽しみに待っております。

過去10年の市中肺炎に関する論文をレビュー

JAMA. 2024 Sep 16. オンライン版

Community-Acquired Pneumonia: A Review.

背景 : 市中肺炎の入院・死亡の現状は?

市中肺炎 (CAP) は、 入院および死亡の主要な原因であり、 特に65歳以上の高齢者や基礎疾患を持つ症例において発生率が高い疾患です。 今回、 JAMAにおいて市中肺炎に関する論文のレビューが発表されました。

方法 : 既報の137件をレビュー

過去10年間に発表された英文誌を対象に、 2023年12月4日にPubMed検索を実施、 2024年3月25日に更新しました。 検索には、 タイトルキーワード 「市中肺炎」、 およびタイトルや要旨のキーワードとして 「疫学」、 「診断」、 「治療」 を使用しました。

549件の論文が特定され、 そのうち137件がレビューの対象に含まれました。 その内訳は、 57件の観察研究、 32件のメタ解析、 27件の無作為化臨床試験、 10件の非系統的レビュー、 6件の系統的レビュー (メタ解析なし)、 および5件の診療ガイドラインでした。

結果 : 高齢者や基礎疾患のある成人は高リスク

市中肺炎患者のうち最大10%が入院し、 その中で最大5例に1例が集中治療を必要としました。 高齢者 (65歳以上) や基礎疾患に肺疾患、 喫煙、 または免疫抑制がある成人は、 CAPおよびその合併症 (敗血症、 急性呼吸窮迫症候群、 死亡) のリスクが最も高いです。

CAPで入院した患者のうち、 病原体が特定されたのは38%の患者のみでした。 病原体が特定された患者の最大40%ではウイルスがCAPの原因と考えられ、 病原体が特定された肺炎の病因がある患者の約15%では肺炎球菌が確認されています。 すべてのCAP患者は、 COVID-19やインフルエンザが地域で流行している場合、 それらの診断が治療 (例 : 抗ウイルス療法) や感染予防戦略に影響を与える可能性があるため、 これらのウイルスの検査を受けるべきです。

インフルエンザやCOVID-19の検査結果が陰性である場合、 またはそれらの病原体が原因ではないと考えられる場合には、 最も可能性の高い細菌性病原体に対して経験的に治療することができます。 経験的な抗菌薬治療を選択する際には、 疾患の重症度や細菌感染の可能性、 耐性菌感染の可能性、 抗菌薬の過剰使用による害のリスクを考慮する必要があります。

耐性菌のリスク因子がない入院患者には、 セフトリアキソンとアジスロマイシンなどのβ-ラクタム/マクロライド併用療法で最低3日間の治療が可能です。 重症CAPの発症後24時間以内の全身性コルチコステロイド投与は、 28日間の死亡率を低下させる可能性があります。

💬My Opinions

市中肺炎におけるウイルス感染の役割が明確に

世界4大医学雑誌の一つである、 JAMAにおける市中肺炎のレビューです。 ウイルス、 特にCOVID-19やインフルエンザが市中肺炎の主要な原因の一部であることが示され、 従来の細菌性肺炎の知識に加えて、 ウイルス感染の役割がさらに明確に認識されるようになりました。

耐性菌リスクのない患者への併用療法も推奨

さらに、 耐性菌リスクのない患者に対する経験的な抗菌薬治療として、 β-ラクタム/マクロライド併用療法が推奨されています。 また、 重症CAP患者に対する早期のコルチコステロイド投与が28日間の死亡率を低下させる可能性が示唆されました。

肺非結核性抗酸菌症の約半数が5年超の観察期間中に進行

Chest. 2024 Sep;166(3):452-460.

Rates and Risk Factors of Progression in Patients With Nontuberculous Mycobacterial Pulmonary Disease: Secondary Analysis of a Prospective Cohort Study.

背景 : NTM-PD進行率やリスク因子は?

肺非結核性抗酸菌症 (NTM-PD) の臨床経過は多様であり、 一部の患者には経過観察の管理戦略が適しています。 疾患の進行やそのリスク因子を理解することは、 適切なフォローアップ戦略を決定するために不可欠です。 今回、 韓国・ソウル大学における前向きコホート研究からNTM-PDの進行率とリスク因子が報告されました。

デザイン : 前向きコホート研究を解析

2011年7月1日~22年12月31日に、 前向き観察コホート研究に登録されたNTM-PD患者が解析に含まれました。 臨床的、 細菌学的、 検査、 放射線学的データが登録時に収集され、 その後定期的にフォローアップされました。 NTM-PDの進行は、 治療の開始または治療の意図がある場合として定義されました。 進行率が計算され、 進行の予測因子が分析されました。

結果 : NTM-PDの進行発生率は100人年当たり11.0例

NTM-PDは中央値5.4年の追跡期間中に、 登録された477例中192例で進行を認めました。 NTM-PDの進行発生率は100人年当たり11.0例 (95%CI 100人年当たり9.5~12.7例) でした。 疾患が進行した患者の割合は1年で21.4%、 3年で33.8%、 5年で43.3%でした。

最終的な多変量解析モデルでは、 女性 (調整HR [aHR] 1.69、 95%CI 1.19~2.39)、 赤血球沈降速度の上昇 (aHR 1.79、 95%CI 1.31~2.43)、 予測FEV₁% (aHR 0.89、 95%CI 0.82~0.96)、 および空洞の存在 (aHR 2.78、 95%CI 2.03~3.80) が進行の予測因子として特定されました。

NTM-PD患者の約半数が5年以上の観察期間中に進行を経験しました。 進行のリスク因子を持つ患者は、 注意深く観察する必要があります。

💬My Opinions

空洞や肺機能低下がNTM-PDの進行リスクに

前向きコホートによる信頼性の高いデータベースに基づく本研究において、 5年以上の観察期間中にNTM-PDの約半数が進行を認めました。 また進行リスクとして、 女性、 赤血球沈降速度の上昇、 予測FEV₁の低下、 空洞の存在が特定されました。 あらためて、 空洞や肺機能の低下がNTM-PDの進行リスクとなることが確認され、 NTM-PDにおいては長期的に注意深い経過観察が必要なことが示されました。


【呼吸器感染症領域】2024年9月の注目論文3選 (中島啓先生)

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連絡先 : 主任部長 中島啓

メール : kei.7.nakashima@gmail.com

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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