「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き」 が改訂、要点は?
著者

HOKUTO編集部

10ヶ月前

「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き」 が改訂、要点は?

「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き」 が改訂、要点は?

がん患者の一部では、 緩和ケアを積極的に行っても緩和することができない「治療抵抗性の苦痛」を経験する。 特にせん妄や呼吸困難は頻度が高く、 また痛みや精神的苦痛も治療抵抗性となることがある。 これらの苦痛緩和のための治療指針である「がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き」(編:日本緩和医療学会、 以下、 2023年版)がこのたび改訂された。

第28回日本緩和医療学会では、 同学会ガイドライン統括委員会担当委員/鎮静ガイドライン改訂WPG員長で聖隷三方原病院ホスピス科部長の今井堅吾氏が、 同手引きの改訂ポイントについて解説した。

今回の改訂のコンセプト

今回の手引きは、 2005年の初版発行から、 2010年、 2018年に続く3回目の改訂版となる。 また治療指針の名称が、 旧版の2018年版から、 「ガイドライン」から「手引き」に変わっている。 これは、 苦痛緩和のための鎮静の定義そのものが国際的な議論となっていることから、 標準的な診療ガイドラインの作成方法に基づいて作成することには意義が乏しいと判断され、 基本的な考え方を示す手引きとすることになったためであるという。

まず今井氏は、 今回の改訂のコンセプトについて、

①2018年版の手引きの増補版の位置付け

2018年版が大幅な改訂だったため、 その内容を増補する位置付けとしている。 手引きの骨格部分の変更はないが、 全体では結果的に修正箇所は多くなっている。

②患者の苦痛が治療抵抗性と考えられた時の対応について、 基本的な考え方を示している点は、 以前から変わらない。

③少しでも分かりやすくなること、 臨床現場で診療の手助けとなることを目指している。

④「鎮静の要件を厳しくし過ぎて、 患者の苦痛へ対応されずに放置されることがない」および「鎮静の要件を緩和し過ぎて、 不適切な範囲に鎮痛が拡大してしまうことがない」ことの両方を目指すことで適正な鎮痛が行われることにより、 患者が自分の価値観に沿った苦痛緩和を受けられることが目標である。

-を挙げた。

今回の改訂においては、 医師・看護師に加えて、 倫理学・社会学の専門家や異なる専門性を持つ法学の専門家が複数参加している。

大きな改訂点①:手引きの要点とフローチャートの作成

まず大きな改訂点の1つ目は、 手引きの要点とフローチャートが新規に記載された。

これだけは押さえてほしい必須事項について、 35個の「要点」が列挙され、 容易に把握できるようになった。 要点を一通り見るだけで、 本手引きの重要点が把握できる上に、 詳細に関する記載の該当ページが記載されているため、 必要に応じて参照できるようになっている。

また考え方と手引きの概要をフローチャートとしてまとめて示し、 各対応の位置付けが明確化された。 これらは、 本手引がカンファレンスで検討する際のガイド役となることを想定して、 作成されたという。

大きな改訂点②:難治性苦痛の治療アルゴリズムと治療抵抗性判断の作成

難治性の苦痛に対する緩和ケアは、 エビデンスが不十分であったり、 患者にとっての利益と不利益の見積もりができないものが多い。 しかし、 実際に治療抵抗性の苦痛をもつ患者を診療する医療チームが「この患者にはこの方法を検討する価値があるかもしれない」と考えるきっかけになることを意図して、 2018年版から難治性苦痛についても具体的に記載されるようになった。

今回の改訂では、 苦痛に対する緩和ケア(医学的治療)について、 本文の記載をアルゴリズムとして可視化し、 治療の限界を示すことで治療抵抗性の目安を示したという。

大きな改訂点③:鎮静実証研究のレビューの実施

苦痛緩和のための鎮静(薬の投与)に関する概要を把握することを目的とした文献的なあレビューを実施。 各クリニカル・クエスチョン(CQ)の結果について、 視覚的にも把握しやすいようにフォレストプロットを作成した。

大きな改訂点④:複数の法律家による法的検討

鎮静や終末期医療に関して、 学会員の一部から法的懸念が高まっていたことを受けて、 今回の改訂から複数名の法律家が参加し、 特に以下の4点について、 協議が重ねられた。

  • 鎮痛と法(刑法)理論との関係性
  • 精神的苦痛・スピリチュアルペインに対する鎮痛
  • 予測される生命予後が長い場合の鎮静
  • インフォームド・コンセント

なお鎮静に関する法的な問題に関する臨床上の主要な点として、 今井氏は、 以下を紹介した。

🔳生命予後が数日以内で身体的苦痛に対して行われる鎮静

  • 生命予後を短縮していないという立場に立てば、 そもそも問題はない。
  • 仮に、 生命予後が短縮するという見解に立ったとしても、 正当な医療行為であり法的にも許容される。

🔳生命予後が数日以上あり精神的苦痛・スピリチュアルペインに対して行われる鎮静

  • 直ちに許容しうる状況ではない。 臨床上慎重な対応が必要。

最後に、 今井氏は、 HOKUTOの取材に対して、

「多くの人は最期苦しむことなく穏やかに過ごしたいと願っています。 また、 人がどのように最期の数日、 数時間を過ごしたかは、 残される家族の記憶の中にとどまり続け、 家族の励ましにも心の負担にもなると言われています。 このため携わる私たちは、 最期の苦痛に対して最大限の苦痛緩和治療で対応することが必要です。 それでも苦痛が緩和されない場合でも、 鎮静により苦痛緩和を達成することが出来ます」と述べた。

こちらの記事の監修医師
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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