HOKUTO編集部
4ヶ月前
例年6月は米国臨床腫瘍学会 (ASCO) が開催されることから、 腫瘍内科医にとっては1年の中でも非常に刺激的な月となることが多い。 さらに今月は非常に印象的、 かつ今後の治療開発に重要な影響を与え得る臨床試験の結果が論文として報告された。
今月は、
❶第Ⅲ相試験JCOG1109
❷第Ⅲ相試験NETTER-2
❸第Ⅱ相無作為化比較試験ATEZOTRIBE
の3本を取り上げる。
▼背景
術前2剤併用化学療法は局所進行食道扁平上皮癌の標準治療とされているが、 その治療効果は限られており、 治療効果の高い術前療法が希求されていた。
そのため、 未治療の局所進行食道扁平上皮癌を対象に、 術前療法として2剤併用化学療法と3剤併用化学療法、 2剤併用化学放射線療法 (CRT) の有効性と安全を比較する第Ⅲ相試験 (JCOG1109) が実施された。
▼試験デザイン
JCOG1109は、 20~75歳の未治療の切除可能な局所進行食道扁平上皮癌の患者を対象に、 日本の44施設が参加して実施された非盲検無作為化第Ⅲ相試験である。
登録症例は、 CF (シスプラチン、 フルオロウラシル) 療法、 DCF (ドセタキセル、 シスプラチン、 フルオロウラシル) 療法、 CF-RT (シスプラチン、 フルオロウラシル、 放射線) 療法に1:1:1の割合で割り付けられ、 腫瘍の進行度 (T因子) と施設で層別化された。 主要評価項目はintention to treat (ITT) 集団における全生存期間(OS)と設定された。
▼試験結果
JCOG1109には、 601例が登録され、 CF療法群:199例、 DCF療法群: 202例、 CF-RT療法群 : 200例と、 1:1:1に無作為に割り付けられた。
追跡期間中央値は50.7ヵ月であり、 3年OS率に関して、 DCF療法群では、 CF療法群と比較して有意な延長を証明した(62.6% vs 72.1%、 HR 0.68、 95%CI 0.50-0.92)。 一方、 CF-RT療法群では、 CF療法群と比較してOSの有意な延長を証明できなかった (62.6% vs 68.3%、 HR 0.84、 95%CI 0.63-1.12)。
Grade3以上の発熱性好中球減少の発現頻度は、 CF療法群で1%、 DCF療法群で16%、 CF-RT療法群で5%と報告され、 有害事象による術前療法中止割合はDCF療法群で9%と、 CF-RT療法群 (6%)、 CF療法群 (4%) と比較すると高かった。 術前療法における関連死の割合は、 CF療法群で2%、 DCF療法群で2%、 CF-RT療法群で1%であった。
Grade 2以上の術後肺炎/吻合部漏出/反回神経麻痺割合はそれぞれ、 CF療法群で10%/9%/10%、 DCF療法群で10%/10%/15%、 CF-RT療法群で13%/13%/10%であった。 なお、 術後在院死はCF療法群で3例、 DCF療法群で2例、 CF-RT療法群で1例であった。
▼結論
3剤併用化学療法は2剤併用化学療法と比較してOSにおける有意な延長を証明し、 日本における新たな標準的な術前療法になると考えられた。 なお2剤併用CRTは2剤併用化学療法と比較して、 OSの有意な延長を証明できなかった。
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実臨床では有害事象の管理が鍵に
本試験は、 食道癌で最も多い対象である切除可能な局所進行食道扁平上皮癌に対する術前療法において標準治療を確立した第Ⅲ相無作為化比較試験である。
この試験結果から、 術前DCF療法が標準治療となったが、 実臨床で注意すべきはその有害事象管理であろう。 特に好中球減少やそれに起因する発熱性好中球減少、 悪心・嘔吐に関しては注意が必要で、 前者に関してはこの臨床試験でも規定されていたように、 各コースday 5-15でキノロン系の抗生剤を内服すること、 場合によっては予防的なG-CSF製剤の投与も検討することが重要である。 後者に関しては、 本臨床試験実施時には標準的な制吐療法は3剤併用療法であったが、 現在ではそれにオランザピンを上乗せした4剤併用療法が標準的であり、 可能な限り4剤併用療法を行うことが重要である。
術前DCF療法の3年生存割合は7割程度
ただ本試験の結果にあるように、 術前DCF療法の3年生存割合は約70%にとどまり、 いまだに早期再発例も報告されていることら、 さらなる治療開発が求められている。 現在、 術前化学療法にニボルマブを上乗せするJCOG1804E試験も有望な結果が報告されていることから、 今後の展開が期待される。
▼背景
消化器原発の高分化進行神経内分泌腫瘍 (NET G2/3) に対する1次治療に関するエビデンスはなく、 今回、 放射線同位体ルテチウムオキソドトレオチド (177Lu) を標識した放射性医薬品-DOTATATE (以下、 ¹⁷⁷Lu-DOTATATE) によるペプチド受容体放射線核種療法 (PRRT) の有効性が第Ⅲ相試験 (NETTER-2) で検証された。
▼試験デザイン
NETTER-2は、 非盲検並行群間無作為化比較第Ⅲ相試験であり、 新規に診断されたソマトスタチン受容体陽性の消化器原発進行NET G2/3を対象とした。
試験治療群として4サイクルのPRRTとオクトレオチドの併用療法、 対照群として高用量オクトレオチドがそれぞれ設定され、 2:1の割合で割り付けられた。 主要評価項目として、 無増悪生存率 (PFS) が設定された。
▼試験結果
NETTER-2には266例が本試験に登録され、 試験治療群 (151例) と対照群 (75例) に無作為に割り付けられた。 登録症例における背景因子は年齢や性別、 人種、 パフォーマンスステータス (PS)、 原発部位、 Grade等、 両群間でバランスとれていた。
主要評価項目であるPFS中央値に関しては、 試験治療群で19.4ヵ月、 対照群が8.5ヵ月と、 1次治療におけるPRRTの優越性が証明された(HR 0.276、 95%CI 0.182-0.418)。
全Gradeの治療関連有害事象は試験治療群で95%、 対照群で95%に報告され、 治療関連死は認めなかった。
▼結論
¹⁷⁷Lu-DOTATATEとオクトレオチドの併用療法は、 未治療でG2/3の消化器原発の進行NETにおいて、 オクトレオチド単剤療法と比較して有意にPFSを延長した。 ¹⁷⁷Lu-DOTATATEはこの対象の1次治療における新たな標準治療である。
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1次治療での既存治療の効果は限定
消化器原発NETの標準的な薬物療法は、 ランレオチドやオクトレオチドなどのソマトスタチンアナログ製剤、 エベロリムスやスニチニブ(膵原発のみ)といった分子標的薬、 ストレプトゾシンなどの殺細胞性抗癌薬であるが、 どれも腫瘍縮小効果は限定的であり、 特に1次治療に限ったエビデンスやNET G3のエビデンスは非常に乏しかった。
今後本邦での普及に期待も、 NET診療体制整備の課題も
そのような中で登場したPRRTは、 まずNETTER-1でその有効性が証明され、 今回のエビデンスでG2/3 NETの1次治療としての有効性が証明され、 今後本邦でも対象が広がる可能性が考えられる。 ただ施設的な制約もあることから、 国内のNET診療体制の検討も必要であろう。
▼背景
ATEZOTRIBEは、 未治療で切除不能な進行大腸癌を対象に、 FOLFOXIRI (レボホリナート、 フルオロウラシル、 オキサリプラチン、 イリノテカン) +ベバシズマブ療法と、 FOLFOXIRI+ベバシズマブ+アテゾリズマブ療法の有効性と安全性を比較した第Ⅱ相無作為化比較試験であり、 今回はOSに関するアップデート解析が報告された。
▼試験デザイン
ATEZOTRIBEには218例が登録され、 FOLFOXIRI+ベバシズマブ群に73例、 FOLFOXIRI+ベバシズマブ+アテゾリズマブ群に145例が1:2の割合で無作為に割り付けられた。
▼試験結果
追跡期間中央値は45.2ヵ月であり、 ITT集団において、 OS中央値は27.2ヵ月 vs 33.0ヵ月で、 HR 0.78 (80%CI 0.61-0.98) と報告された。
治療群とイムノスコアに交互作用を認め、 イムノスコアが高いアテゾリズマブ群において良好な傾向が認められた。 また、 MMR機能が保たれている (pMMR) のコホートでは、 OS中央値が29.2ヵ月と30.8ヵ月で、 HR 0.80 (80%CI 0.63-1.02) と報告された。 なお、 治療群と遺伝子変異量 (TMB)、 イムノスコアにおいても交互作用を認めた。
▼結論
大腸癌の1次薬物療法としてFOLFOXIRI+ベバシズマブ+アテゾリズマブ療法はOSの改善を認め、 特にpMMRでイムノスコアが高い、 またはTMB-highの症例に対する治療開発が望ましいと考えられた。
💬 My Opinions
大腸癌はICIの恩恵が乏しい癌腫
大腸癌は一般にcold tumorといわれ、 ICIの恩恵が乏しい癌腫と考えられている。 そのため、 大腸癌では特定の免疫学的背景を有する集団、 MSI-high/dMMRといった集団でICIの開発が進められている。
特定集団が成績を押し上げる傾向
そのような中、 ATEZOTRIBEではPFSの延長に加え、 OSでも良好な結果が報告された。 ただし筆者らも記載しているが、 ICIに有利な集団の成績が全体を押し上げている傾向が示唆されていることから、 ある特定の集団に絞って大腸癌ではICIを開発するべきと考える。
個人的な話で恐縮だが、 来月は自分の誕生月であり、 毎年一つの節目を感じる月である。 また来月も新しいエビデンスに出会えることを期待している。
G2/G3未治療NET、 ¹⁷⁷Lu-DOTATATEが著効
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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