切除可能境界型膵臓癌 (BR膵癌) の術前療法 : 3試験の比較
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HOKUTO編集部

1ヶ月前

切除可能境界型膵臓癌 (BR膵癌) の術前療法 : 3試験の比較

切除可能境界型膵臓癌 (BR膵癌) の術前療法 : 3試験の比較
2005年に米・MD Anderson Cancer CenterのVaradhacharyらは、 Upfront surgery (切除先行) を行った場合にR1 (顕微鏡的切除断端陽性) 切除となる可能性が高く、 予後不良が想定される集団を”Borderline Resectable(BR)膵癌”と名付けた¹⁾。 
この分類に基づけば、 切除対象となる膵癌は 「BR膵癌」 と 「それ以外の切除可能膵癌」 に分けられる。 BR膵癌は他の切除可能膵癌と比較して開腹非切除率、 R1切除率、 早期再発率が高いため、 治療成績向上のためには、 より集学的治療の必要が高いと考えられている。 
本稿では、 BR膵癌を対象とした3つの試験を紹介する。 

BR膵癌の定義と分類

BR膵癌は、 「膵癌取扱い規約 (第8版)」 (日本膵臓学会編) では表のように定義される。 門脈 (PV) 系要因のみでBRになっているものはBR-PV、 動脈 (A) 系要因を含むものはBR-Aと分類されている²⁾。 NCCNガイドラインと一部異なる点がみられるが、 本邦の日常診療では主にこの定義が採用されることが多い。

切除可能境界型膵臓癌 (BR膵癌) の術前療法 : 3試験の比較

BR膵癌の術前治療 : 3試験の比較

JASPAC05 : S-1+放射線療法の術前治療としての有効性を評価

R0切除割合は52%

日本では、 BR膵癌に対して術前治療としてS-1併用化学放射線療法 (S-140mg/m²+RT 50.4Gy/28Fr : S-1+RT) の有効性を検討する第II相試験 (JASPAC05) が実施され、 R0切除割合が52%と良好な成績を報告している³⁾。

GABARNANCE : S-1+RTとGnPを比較

S-1+RT群で長期生存の可能性

JASPAC05の結果を受けて実施された第Ⅱ/Ⅲ相試験 (GABARNANCE) の結果が、 2024年の米国臨床腫瘍学会 (ASCO 2024) で報告された⁴⁾。

BR膵癌に対する術前治療としてS-1+放射線療法 (S-1+RT) とゲムシタビン+アブラキサン (GnP) を比較した。

各群56例が登録され、 主要評価項目であるOS中央値はS-1+RT群で31.5ヵ月、 GnP群で23.1ヵ月であり、 両群で有意差は認められない (HR=0.79、 p=0.32) ものの、 Kaplan-Meier曲線では16ヵ月付近で両群がクロスし、 その後はS-1+RT群が優位な傾向を示した。

本試験からはS-1+RT、 GnPともにBR膵癌の術前治療であると考えられる。 ただし十分な観察期間が得られていないもののS-1+RT群で長期生存者が多い可能性も考えられるため、 長期生存が得られている患者の特徴など詳細な結果報告が待たれる。

PANDAS/PRODIGE 44 : mFOLFIRINOXとmFOLFIRINOX+CRTを比較

R0 切除割合、 OSとも差は認められず

欧米からは、 BR膵癌を対象とした第II相試験 (PANDAS/PRODIGE 44) の結果が2024年の欧州臨床腫瘍学会 (ESMO 2024) で報告された⁵⁾。

本試験はBR膵癌に対してmFOLFIRINOX (mFFX) を2ヵ月実施した後にランダム化が行われ、 術前治療としてmFFX 2コースとmFFX+カペシタビン+RT (CRT) を比較している。

主要評価項目はR0 切除割合であり、 mFFX単独群で50%、 mFFX+CRT群で45%であり、 両群に有意差は認められなかった (p=0.823)。 また、 mOSにおいても両群に差は認められなかった。

3試験の比較

切除可能境界型膵臓癌 (BR膵癌) の術前療法 : 3試験の比較

BR膵癌に対する術前治療は、 国内外でさまざまな選択肢が検討されているものの、 治療効果や有害事象への影響において明確な優劣は示されていない。

治療法ごとに特性が異なる中で、 どのような患者にどの治療戦略が最適か、 またその治療期間をどう設定すべきかといった点については、 依然として臨床現場における重要な課題である。

BR膵癌における適切な術前治療の内容や治療期間などは、 現在も残された臨床的な疑問である。 遠隔転移のある膵臓癌とは異なり化学放射線治療が治療の選択肢であり、 化学療法と同等の治療成績が示されている。 
また、 BR膵癌の治療において化学放射線治療を実施した後に手術を行う場合に周術期の有害事象の増加につながる可能性がある点は留意すべきと考える。 
<出典>
1) Curr Treat Options Gastroenterol. 2005 Oct;8(5):377-84.
2) 日本膵臓学会編 : 膵癌取扱い規約 第8版. 金原出版.
3) Ann Surg. 2022 Nov 1;276(5):e510-e517.
4) J Clin Oncol. 2024 June 05 42(17):Suppl LBA4014
5) Ann Oncol. 2024 Sep;35(Suppl 2):S1252

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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