HOKUTO編集部
28日前
本連載では、 2022年10月に発刊された『がん薬物療法時の腎障害ガイドライン2022』の要点を解説する。 第3回となる今回は、 第2回に続き、 臨床医が特に押さえておくべきクリニカル・クエスチョン (CQ) の推奨・提案について概説する (解説 : 愛知県がんセンター 呼吸器内科部長/ガイドライン作成委員 藤原豊氏)。
カルボプラチンの投与は当初、 他の抗がん薬同様、 体表面積に基づく用量設計が行われていたが、 目標ROC曲線下面積 (AUC) と血小板減少などの血液毒性が相関することから、 固形がんに対するカルボプラチン投与量設定は1989年にCalvert らが作成した以下の算出式 (Calvert 式) を用いて行われる。
Calvert 式 : 投与量 [mg] =目標AUC [mg・分╱mL] × (実測GFR [mL/分] +25)
血清クレアチニン (Cr) の腎排泄においては、 糸球体濾過のみならず約20~30%が尿細管分泌されるため、 クレアチニンクリアランス (CCr) 値は糸球体濾過量 (GFR) 値よりも高くなるが、 実臨床においては糸球体濾過量(GFR)の代用としてCCrが用いられている。
血清Cr測定法に関しては、 1990年代半ばに日本で酵素法が、 2000年代後半に米国でIDMS法が臨床導入されるまでは世界的にJaffé 法が用いられ、 現在でも一部地域で使われている。 ただし、 Jaffé 法は血清中の非特異的物質の影響を受けるため、 血清Cr 測定値は酵素法やIDMS法による真値に比べて約0.2mg/dL 高値となる。
過去にJaffé 法を用いてカルボプラチンの用量設定が行われた治療レジメンでは、 Cr真値を用いてCalvert 式のGFR 値にCCr 値を代用するとカルボプラチン投与量は過剰に見積もられ、 血液毒性が増えることが問題となった。 このため2010年、 米食品医薬品局 (FDA) はカルボプラチンの過量投与を回避するため、 Calvert 式に用いるGFR の上限値 (125mL/分) を設定して使用するよう通知した。
また 「がん薬物治療時の腎障害診療ガイドライン2016」 では、 酵素法でCr値を用いる場合、 「酵素法による血清Cr測定値に0.2を加える方法が提唱されている」 と記載されていたが、 最近の全世界的な臨床試験においては、 酵素法やIDMS法による血清Cr値をそのまま用いて算出されたカルボプラチンの投与量で安全性、 有効性が確認されている。
酵素法によるCr値に0.2を加えるカルボプラチン投与方法では治療効果が減弱するとの報告もあるため、 実臨床においては、 酵素法によるCr値をそのまま用いてカルボプラチンの用量設定が行われる。
日本において透析患者は、 特定のがんの発症率が一般人口と比較して高いことが知られている。 本領域におけるエビデンスを評価できる論文はほとんどないが、 腎がんにおける有害事象 (AE) 報告から、 透析患者におけるICI の奏効率や免疫関連有害事象 (irAE) の発現率は、 腎代替療法を施行していない対象と比較して顕著な差は認められなかった。
抗VEGF抗体や小分子化合物、 マルチキナーゼ阻害薬の投与に伴う蛋白尿は高血圧に次いで発生率が高いAEである。
過去の臨床試験では蛋白尿のスクリーニング評価において、 試験紙法による定性検査が用いられ、 2+以上が認められた場合は24 時間蓄尿にて1 日の尿蛋白量を評価していた。 しかしながら、 実地臨床においては24 時間蓄尿の実施は困難であることから、 随時尿での蛋白/クレアチニン比 (g/gCr) による評価が頻用される。
血管新生阻害薬による蛋白尿と、 重要なアウトカムである死亡、 およびeGFR低下との有意な関連を認める報告はないが、 少ない腎生検での組織学的所見として血栓性微小血管症 (TMA)、 虚脱性糸球体症、 クリオグロブリン血症および免疫複合体糸球体腎炎などがあるため、 蛋白尿の発現にも注意は必要である。
抗EGFR抗体による低マグネシウム (Mg) 血症は、 遠位尿細管に存在するトランスポーター (TRPM6) 阻害が原因と考えられており、 抗EGFR抗体がEGFにより調節されるTRPM6発現を低下させることでMgの再吸収抑制が起こり、 低Mg血症を発症する。
軽度の低Mg血症では臨床症状がほとんど現れないが、 進行すると悪心、 食欲不振、 脱力、 振戦、 傾眠、 テタニーなどの症状を呈する。 Mg補充療法は、 硫酸Mg補正液1 mEq/mL 20mLを生理食塩水100mLに希釈し60分以上かけて投与する。
本解説は、 腫瘍内科医の視点で日本腎臓学会・日本癌治療学会・日本臨床腫瘍学会・日本腎臓病薬物療法学会編 「がん薬物治療時の腎障害診療ガイドライン2022」 (ライフサイエンス出版) から抜粋、 加筆し要点解説したものです。
がん専門病院として肺癌および胸部悪性腫瘍の標準的診療および治験など治療開発を行っているほか、 若い先生の研修および教育支援も行っています。
薬物療法部など他診療科でのフレキシブルな研修により、 消化器悪性腫瘍、 乳がん含む各種固形がん、 肉腫の内科的治療を学ぶことも可能です。 各個人に合わせた研修後のキャリアサポートも相談可能です。
興味のある先⽣はぜひ、 E-mail: y.fujiwara@aichi-cc.jpまでご連絡ください。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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