胆膵癌におけるゲノム医療の現状と今後は? ‐ 上野誠氏が展望
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HOKUTO編集部

1年前

胆膵癌におけるゲノム医療の現状と今後は? ‐ 上野誠氏が展望

胆膵癌におけるゲノム医療の現状と今後は? ‐ 上野誠氏が展望
難治とされる胆道癌、 膵臓癌はいまだ治療選択肢が限定的である。 そのため、 既承認治療の標的となる変異の探索や治験等に繋げるために遺伝子パネル検査を実施することが非常に重要な手段となる。 第43回日本分子腫瘍マーカー研究会では、 神奈川県立がんセンター消化器内科(肝胆膵)部長の上野誠氏が、 自施設における胆膵癌の遺伝子パネル検査の経験を踏まえて、 胆膵癌におけるゲノム医療の現状と今後について展望した。
胆膵癌におけるゲノム医療の現状と今後は? ‐ 上野誠氏が展望

胆膵癌の癌ゲノム医療

パネル検査の出検タイミング

まず遺伝子パネル検査の実施のタイミングについて、 上野氏は「予後が厳しい胆膵癌では、 このタイミングは非常に難しいが、 いかにうまく見計らうかが大事なところだと思っている」と述べた。

現在、 実臨床においては、 膵癌では、 1〜2次治療までほぼ確立してきているため、 2次治療に入った時点、 あるいは2次治療不応あるいはその見込みの時点で実施されている。

一方、 胆道癌では2次治療がいまだ確立されていないため、 1次治療に入ったら、 ゲノム検査の準備をしつつ、 不応あるいはその見込みの段階で実施されているという。

膵癌:2次治療に入った時点、 あるいは2次治療不応あるいはその見込み
胆癌:1次治療不応あるいはその見込み

胆道癌と遺伝子変異

近年、 胆道癌においては、 肝内および肝外、 胆嚢などの亜部位により背景にある遺伝子変異も異なっていることが明らかになってきた。 そのため、 特に癌ゲノム医療については、 亜部位によって分けて考えるべきだという流れになりつつある。

肝内・胆管癌ではFGFR2融合遺伝子変異およびIDH1/2遺伝子変異、 また胆嚢癌ではHER遺伝子増幅、 さらに共通な遺伝子変異としてBRCA1/2遺伝子変異などが挙げられる。

上野氏によると、 特に肝内胆管癌はそれほど症例数が多くないものの、 現在大きく注目されており、 複数の薬剤の治療開発が積極的に進んでいるところだという。

なお、 現在国内で薬事承認されているのは、 FGFR融合遺伝子に対するFGFR阻害薬のペミガチニブとフチバチニブ2剤である。 FGFR2遺伝子の融合遺伝子検出率は、 手術検体では14%であった一方で、 日本人胆道癌患者を対象とした多施設共同前向き観察研究であるPRELUDE試験では、 進行癌で7.4%と、 進行度により検出率が異なることが報告されている(J Gastroenterol 2021; 56: 250-260)。

図.胆道癌と遺伝子変異
胆膵癌におけるゲノム医療の現状と今後は? ‐ 上野誠氏が展望
(上野誠氏提供、Nat Genet 2015; 47: 1003-1010、JCO Precis Oncol. 2022 Jun:6:e2100510、Cancer 2016; 122: 3838-3847、Discov Med; 28: 255-265を基に編集部作成)

膵癌と遺伝子変異

膵癌については、 「ビッグ4」といわれるKRAS、 TP53、 CDKN2A、 SMAD4の遺伝子変異がほとんどであり、 治療標的となるものが限られているのが現状である。 しかし、 厳しい予後を考慮すると、 遺伝子パネル検査による治療標的の探索は重要である。

その中で、 最近の膵癌治療開発の特徴としては、 前述のビッグ4以外の遺伝子変異について、 BRCA遺伝子変異の検出 (PARP阻害薬オラパリブによる治療) がポイントとされる。 また最近ではKRAS野生型(10%以下)の症例ではDruggableな変異が隠れていることが指摘されている。 海外では、 KRAS遺伝子野生型膵癌を対象にNRG1融合遺伝子を標的とする開発が有望視されているが、 国内ではNRG1融合遺伝子同定の報告はまだほとんどないという(海外での検出頻度は0.5%との報告)。 さらにKRASを標的とした治療の開発も注目されている。

自施設における胆膵癌の遺伝子パネル検査

神奈川県立がんセンターでは、 遺伝子パネル検査を全癌腫合計で年間600例前後実施しており、 そのうち胆膵癌は27%を占める。 Druggable変異検出率は、 最近の同センターにおけるデータでは、 膵癌(201例)で8.5%、 胆道癌(116例)では37.0%だった。 治療到達率は膵癌では6.7%といまだ低いものの、 胆菅癌では25.5%、 胆嚢癌では15%と、 近年少しずつ改善はされてきているという。

また最近分かってきたのが、 再生検検体における遺伝子パネル検査解析成功率は決して高くないということだ。 上野氏は「胆膵癌の遺伝子パネル検査においては、 化学療法前に組織をしっかり取っておく、 というのを原則としている」と報告した。

リキッドバイオプシーの使用のポイント

さらに胆膵癌のゲノム医療においては、 充分量の組織検体を確保できない症例におけるリキッドバイオプシーは重要である。 ただし癌ゲノムの検出率は採血タイミングや転移部位等により異なることに注意が必要である。

最近、 肝転移例においてはリキッドバイオプシーの検出率が高いことが報告されている(Br J Cancer 2023; 128: 1603-1608)。

上野氏は最後に、 リキッドバイオプシーの課題として、 以下の4点を挙げた上で、 「リキッドバイオプシーをどのように活かすかも重要である」と強調した。

  • ctDNAの滲出量が少ない症例では、 遺伝子異常の評価が困難
  • TMB-H、 MSI-H、 コピー数異常の結果は診療に用いることができないパネルがある。
  • 採取のタイミングを考慮すべきである (化学療法との兼ね合い)
  • クローン造血(clonal hematopopiesis :CHIP)の鑑別が難しい場合がある

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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