HOKUTO編集部
11ヶ月前
本企画は、 4人の腫瘍内科医による共同企画です。 がん診療専門医でない方でも、 ちょっとしたヒントが得られるようなエッセンスをお届けします。 第6回は、 虎の門病院臨床腫瘍科の山口雄先生からです! ぜひご一読ください。
がん治療の進歩により、 転移がんと診断されても、 多くの患者さんが病気と長くつきあっていけるようになりました。 しかし、 やがては抗がん剤治療の効果は失われ、 ほとんどの方が最終的には緩和ケアに専念することになります。
2010年にTemelらが行った無作為化比較試験により、 転移がん患者さんへ早期から緩和ケアを行うことにより、 QOLが改善し、 生存期間が延長する可能性が示されました¹⁾。 以降、 我々医療者の間では、 早期からの緩和ケアの重要性は認識されています。 しかし、 患者さんなど一般の方々にとって、 緩和ケアに対する負のイメージはいまだ根強いと思います。 これは緩和ケア=「終末期ケア」 「治療を諦めること」 と誤って認識されているからでしょう。
患者さんが緩和ケアという言葉を嫌いにならず、 自分にとって必要なものだと理解してくれるためには、 どのようにすれば良いか考えてみたいと思います。
まず説明するのに適切な時期ですが、 転移がんであり完治は難しく、 薬物療法を主体に治療をしていくことをお話する初診時に、 私は緩和ケアについて説明しています。 治療を開始する前に、 緩和ケアに対する認識を患者さんと一致させておくことが重要だと思うからです。
そして以下の内容を説明します。
初診時にがんによる症状がある方にとっては、 薬物療法と並行して緩和ケアを行うというのは理解しやすいかもしれません。 骨転移に対する骨修飾薬も、 緩和ケアのひとつとして説明しています。 一方、 がんによる症状が全く無い方にとっては、 あまりピンとこない可能性もあります。 その場合は、 今後治療をしていくなかで困った症状がでてきたら緩和ケアで対処しますので何でも仰ってください、 と伝えると良いと思います。
さまざまな治療を繰り返していったのちに、 緩和ケアに専念するべき時期が近付いてきたとき、 その話題を提示する適切なタイミングはいつでしょうか。 がん腫にもよりますが、 残された薬物療法が1~2レジメンとなった時、 保険適用上は処方できるが効果が不確かな治療を行う時に、 私は緩和ケアに専念するという選択肢もあることを伝えています。
患者さんもそうですが、 ついつい我々も、 とりあえず治療を継続するという方針に傾きがちです。 しかし、 治療が後方ラインに近づくほど、 その効果は小さく、 かつ不確かになっていきます。 したがって薬物療法を継続することが本当に患者さんにとって利益になるだろうか、 と自問しつつ、 患者さんと一緒に考える事が必要だと考えています。
他院から転院してきたある乳がん患者さんは、 本当は抗がん剤治療を終わりにしたかったけど、 前担当医から緩和ケアに専念するという選択肢を提示されなかったので、 嫌々ながら治療を継続していた、 と話されていました。
治療に対する患者さんの思いを確認するためにも、 薬物療法をやり尽くす前に、 緩和ケアという選択肢を提案してみてはいかがでしょうか。
海外では 「緩和ケア ; palliative care」 と 「支持療法 ; supportive care」 のどちらの名称を使うのが良いか、 議論されることがあるようです。
ピッツバーグ大学の研究者らは、 進行がん患者にインタビューを行い、 患者は 「緩和ケア」 よりも 「支持療法」 という言葉に好意的な印象を抱いていることを明らかにしています²⁾。
またMDアンダーソンがんセンターでは、 入院および外来サービスの名称を 「緩和ケア」 から 「支持療法」 に変更したところ、 紹介件数が41%増加しました。 さらに、 患者の病院登録から外来緩和ケア紹介までの期間が13.2ヵ月から9.2ヵ月に短縮され、 患者が病気の経過の早い段階で受診できるようになったことが示されました³⁾。
このように名称が与える影響は、 ある程度ありそうです。 個人的には緩和ケアを 「緩和治療」 と言い換えて、 説明しています。 手術、 放射線治療、 薬物療法と同じように、 緩和ケアも治療の柱の一つであるということを伝えたいからです。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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