HOKUTO編集部
10ヶ月前
2023年12月に開催された 「サンアントニオ乳癌シンポジウム (SABCS) 2023」 の注目演題について、 がん研有明病院乳腺内科医長の尾崎由記範先生が厳選する、 4演題をご解説いただきました。
HER2チロシンキナーゼ阻害薬tucatinibは、 小分子であり脂溶性が高いことから脳転移に対しての効果が期待される薬剤です。 HER2CLIMB試験ではtucatinib+抗HER2抗体トラスツズマブ+カペシタビンの有効性が示され、 また脳転移に対する効果が高いことも示されております。
そのため、 tucatinib+トラスツズマブ エムタンシン (T-DM1) の有効性が期待され、 本試験の結果が注目されていました。 HER2CLIMB-02ではT-DM1に対するtucatinib+T-DM1の優越性が示され、 今後標準治療の1つとなると想定します。 なお、 現時点でtucatinibは国内未承認です。
ホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性乳癌に対する1次内分泌療法として、 CDK4/6阻害薬アベマシクリブ+アロマターゼ阻害薬 (ホルモン療法) vs アロマターゼ阻害薬単独の比較を検証した試験です。
無増悪生存期間 (PFS) の統計学的な改善を認め、 既にアベマシクリブ+アロマターゼ阻害薬は日本を含め世界の標準治療となっています。 今回、 全生存期間 (OS) においては両群に統計学的な有意差は示されなかったものの、 ハザード比は0.804、 中央値として12ヵ月を超える差が示され、 同レジメンは引き続き重要な標準治療であると解釈しています。
現在、 トリプルネガティブ乳癌 (TNBC) の周術期で承認されているのは、 KEYNOTE-522試験で有効性が示された抗PD-1抗体ペムブロリズマブ併用化学療法のみです。
IMpassion030試験は、 TNBC術後の抗PD-L1抗体アテゾリズマブ併用化学療法の有効性を評価した試験ですが、 残念ながら主要評価項目の無浸潤疾患生存期間の改善は示されませんでした。 これまでのデータから、 免疫チェックポイント阻害薬は術前化学療法と併用する方が有効性が高い可能性が示されています。 なお、 アテゾリズマブを術前から併用するGeparDouze/NSABP B-59試験が現在進行中であり、 今後の結果が期待されています。
JCOG1607試験は、 臨床試験を実施するのが難しい高齢者を対象として行った貴重な試験であり、 日本の臨床腫瘍研究グループであるJCOGからの報告です。
現在の標準治療であるHPD (トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル) 療法に対するT-DM1 (HPDと比較すると毒性が軽い) の非劣性が示されず、 negativeな結果ではあったものの、 高齢者に対してもHPD療法を実施することの重要性が浮き彫りとなる結果であり、 世界的にもインパクトのあるものでした。 今後は高齢者機能評価などに基づくサブグループ解析の発表が期待されます。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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