HOKUTO編集部
24日前
初発進行卵巣癌に対する1次治療の維持療法として、 PARP阻害薬が注目されています。 なかでもニラパリブ単剤を検討したPRIMA試験は、 高リスク症例におけるPFS延長を示した一方で、 最終OSは有意差なしという結果になりました。
本稿では、 同時期に報告されたPAOLA-1試験との比較を通して、 PRIMA試験の結果をどう読み解くべきか、 東京慈恵会医科大学産婦人科学講座講師の西川忠曉先生に実臨床での位置付けと合わせて解説いただきます。
PRIMA試験 (ENGOT-OV26/GOG-3012) は、 Ⅲ・Ⅳ期の初発卵巣癌*の中でも高リスク症例のみを対象に、 プラチナ製剤ベースの化学療法後の維持療法としてのニラパリブの有効性および安全性をプラセボと比較した国際共同第Ⅲ相無作為化比較試験である¹⁾。
主要評価項目として、 相同組換え修復欠損 (HRD) 集団と全体集団における無増悪生存期間 (PFS) が設定され、 初報ではPFS中央値 (mPFS) がニラパリブ群とプラセボ群でそれぞれ21.9ヵ月と10.4ヵ月 (HR 0.43、 95% CI 0.31-0.59)、 13.8ヵ月と8.2ヵ月 (HR 0.62、 95% CI 0.50-0.76) と、 ニラパリブ群における有意な延長が示された¹⁾。
3.5年のフォローアップ後に示されたPFSのアップデートでも、 mPFSはHRD集団で24.5ヵ月と11.2ヵ月 (HR 0.52、 95% CI 0.40-0.68)、 全体集団で13.8ヵ月と8.2ヵ月 (HR 0.66、 95% CI 0.56-0.79) と、 ニラパリブ群における有意な改善が示されている²⁾。
全生存期間 (OS) は副次評価項目として設定されており、 OSの最終解析結果が2024年の欧州臨床腫瘍学会 (ESMO 2024) で発表され、 同時にAnn Oncol誌に掲載された³⁾。
OS中央値 (mOS) は、 HRD集団ではニラパリブ群で71.9ヵ月、 プラセボ群で69.8ヵ月 (HR 0.95、 95% CI 0.70-1.29)、 全体集団ではニラパリブ群で46.6ヵ月、 プラセボ群で48.8ヵ月 (HR 1.01、 95% CI 0.84-1.23) といずれも有意な改善は認められず、 注目を集める結果となった。
なお、 本報告では、 プラセボ群のHRD集団で約48%、 全体集団で約38%の症例にPARP阻害薬へのクロスオーバーが存在していたことが示されている。
PRIMA試験の結果を読み解くうえで参考になる試験に、 PAOLA-1試験がある。
PAOLA-1試験はPRIMA試験と同様に、 卵巣癌に対する1次治療の維持療法として、 PARP阻害薬の有用性を検討した臨床試験である。 以下に詳細を示す。
PAOLA-1試験 (ENGOT-ov25) は、 Ⅲ・Ⅳ期の初発卵巣癌*を対象に、 プラチナ製剤ベースの化学療法+ベバシズマブ後の維持療法におけるオラパリブ+ベバシズマブの有効性を、 プラセボ+ベバシズマブと比較した国際共同第Ⅲ相無作為化比較試験である⁴⁾。
全体集団におけるPFSが主要評価項目とされ、 初報ではmPFSがオラパリブ+ベバシズマブ群で22.1ヵ月、 プラセボ+ベバシズマブ群で16.6ヵ月 (HR 0.59、 95% CI 0.49-0.72) という結果が報告された。
なお、 サブグループ解析では、 相同組換え修復能保持 (HRP) 集団におけるオラパリブ上乗せの有効性は示唆されなかったため、 本レジメンはHRD集団のみが保険適用となっている。
PAOLA-1試験でも、 OSは副次評価項目として設定された。
最終解析においてmOSは、 オラパリブ+ベバシズマブ群で56.5ヵ月、 プラセボ+ベバシズマブ群で51.6ヵ月 (HR 0.92、 95% CI 0.76-1.12) と両群で有意差は認められなかった。
一方で、 HRD集団のサブグループ解析では、 75.2ヵ月と57.3ヵ月 (HR 0.62、 95% CI 0.45-0.85) と、 オラパリブ+ベバシズマブ群における有意な延長が報告されている⁵⁾。
また、 PRIMA試験と同様に、 プラセボ群の全体集団で約46%の症例にPARP阻害薬のクロスオーバーが存在していたことが示されている。
PRIMA試験のOSは、 主要評価対象であったHRD集団および全体集団に加え、 HRP集団でも有意な改善は認められなかった³⁾。
一方で、 PAOLA-1試験では、 主要評価対象である全体集団でのOSに改善は認められなかったが、 HRD集団においては有意な延長が報告されている。
ただし、 HRD集団における標準治療群のmOSは、 PRIMA試験で69.8ヵ月、 PAOLA-1試験では57.3ヵ月と、 数値上の差異が大きいことに留意する必要がある。
一方、 試験治療群のmOSはそれぞれ71.9ヵ月と75.2ヵ月であり、 標準治療群ほどの差異は認められていない。 これらの背景から、 各試験のOS評価については慎重な見解が求められる。
PRIMA試験ではHRD集団が主要評価の解析対象であった一方で、 PAOLA-1試験ではHRD集団はサブグループ解析の対象であった点にも留意が必要である。
さらに、 卵巣癌における1次治療としてのプラチナ化学療法後の病勢進行後生存期間 (SPP) は長期間におよぶため、 後治療の影響も大きく、 OSの議論については留意を要する。
その他の重要なポイントとして、 PARP阻害薬のクロスオーバーが挙げられるが、 両試験ともにその割合は40%前後と大差はない。
しかしながら、 患者背景については大きな違いがあり、 初回腫瘍減量術 (PDS) の割合はPRIMA試験で約30%、 PAOLA-1試験で約50%、 またPDS後に残存腫瘍0を達成した割合はそれぞれ全体の0%と30%であった⁶⁾。
PRIMA試験は高リスク集団を対象としていたが、 標準治療群のOSがGOG218やICON7といった過去の第Ⅲ相試験 (mOS 約45ヵ月) より良好であった点については、 PARP阻害薬のクロスオーバーや卵巣癌治療そのものの進歩が影響している可能性が考えられる⁷⁾⁸⁾。
PRIMA試験ではHRD集団、 全体集団のいずれにおいてもニラパリブによるOSの有意な改善は認められなかった。 しかし、 主要評価項⽬である1次治療の維持療法におけるPFS延⻑は明確に⽰されており、 PAOLA-1試験と同様にOSも着実に改善している。
各試験におけるサブグループ解析の結果は、 今後の臨床的課題 (Clinical Question) として検討しつつ、 PARP阻害薬の有効性を適切に理解し、 卵巣癌患者にその恩恵をしっかりと届けることが何よりも重要である。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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