要点のまとめ
成人喘息患者の約30%が食物摂取後のアレルギー症状を自覚しており、 その原因抗原や感作経路は以下のように多様である.
💡乳児期に発症して寛解しなかった 「鶏卵等へのアレルギー」
💡主に学童以降に発症するPFASによる「果物・野菜アレルギ-」
💡中年以降に多いアニサキスによる 「魚類アレルギー」
💡職業性ラテックス経皮感作による 「南国フルーツアレルギー」
気管支喘息と食物アレルギー
食物アレルギーとは?
食物アレルギーの病態はIgE依存性の即時型アレルギーである.
すなわち, 食物抗原に対する特異的IgEが産生されて感作が成立した後に, その抗原を経口摂取曝露して数分間から2時間以内に蕁麻疹、口腔アレルギー症状や各臓器症状を発症する.
口腔内や喉の違和感・イガイガ (口腔アレルギー症状), 皮膚の膨疹やかゆみ (蕁麻疹), 呼吸困難や咳, 持続する下痢や腹痛など
成人喘息の3割が食物アレルギ−もち?
米国では成人重症喘息患者の約30%に食物アレルギーが合併すると報告されている¹⁾. また, 本邦からの報告でも成人喘息患者の食物アレルギー合併率は同じく約30%であった²⁾.
これらの報告は主に自己申告に頼ったものであり, 皮膚テストや血清学的検査による抗原特異的IgE産生の証明を伴っていないため, 有病率を過大評価している可能性はある.
しかし, 喘息患者の約3割は 「食物を食べた後の何らかの症状」を有し, 診断や評価を必要としているという事実が近年明らかになっている.
アレルギーマーチと経皮感作
アレルギーマーチとは?
湿疹・アトピー性皮膚炎, 食物アレルギー, 喘息, アレルギー性鼻炎・結膜炎などのアレルギー疾患が同一患者に連続して発症することを「アレルギーマーチ」と呼ぶ³⁾.
経皮感作との関連は?
2011年に, 皮膚のバリア維持機能を司るタンパクであるフィラグリンの産生に関する遺伝子に変異があるとアトピー性皮膚炎だけでなくピーナッツアレルギーや喘息が合併するリスクも上昇することが報告され⁴⁾, 以後アレルギーマーチの原因として乳児湿疹の発症による抗原経皮感作が着目されるようになった.
経皮感作を主な原因とした乳児期発症の食物アレルギーの原因抗原には鶏卵, 牛乳, 小麦, ピーナッツ, 魚卵などがある⁵⁾⁶⁾⁷⁾. これらの患児に喘息が合併し, かつ食物アレルギーと喘息がともに寛解しなかった際には, 食物アレルギー合併成人喘息としてのフォローアップが必要となることがある.
花粉-食物アレルギー症候群と経気道感作
花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)とは?
感作抗原と曝露抗原が類似のタンパク構造を共有する場合には, 感作抗原と曝露抗原とが異なっていても即時型アレルギー反応が起きる可能性があり, この現象を交差反応と呼ぶ.
例えばハンノキ, シラカンバなどのカバノキ科の樹木花粉は, リンゴ, モモ, ナシなどのバラ科の果実や大豆 (豆乳) とPR-10というタンパクを共有する. そのため, ハンノキ花粉 (主に2~4月に飛散) のPR-10に経気道的に感作された方がリンゴやモモを食べた際にアレルギー症状が起きることがある.
このように花粉への感作を原因とした果物・野菜アレルギーは花粉-食物アレルギー症候群 (Pollen Food Allergy Syndrome: PFAS) と呼ばれる⁸⁾⁹⁾. 主なPFASの原因を表にまとめた¹⁰⁾.
花粉症発症時期が早いほど喘息を合併しやすい?
なお, PR-10を含めたPFASの原因タンパクは加熱や消化酵素に不安定なことが多い. そのため, 症状が口腔アレルギー症状にとどまって全身症状は起きにくい他, 原因食材を加熱調理すれば摂取可能な場合もある.
また, 大豆のPR-10であるGly m 4に対する特異的IgEは保険での測定が可能であり, カバノキ科花粉-バラ科果実のPFASの推定•診断に有用である. 喘息の80%以上に花粉症を合併するため¹⁾, PFASを発症しやすい素因を有している.
実際, 本邦の学生を対象とした質問票調査ではPFASが喘息のリスク因子であることが示唆されている¹¹⁾. さらに, 花粉症発症時期が早いほど喘息を合併しやすいということも報告された¹²⁾.
その他の成人食物アレルギー
頻度が高いものとして, 甲殻類 (エビ・カニ・シャコ) へのアレルギー, アニサキスの感作による魚類へのアレルギー, ラテックスの職業性経皮感作による南国フルーツアレルギー (ラテックス・フルーツ症候群) などがある.
ラテックス由来のタンパクHev b 6.02に対する特異的IgEは保険での測定が可能で, ラテックス•フルーツ症候群の診断に役立てることができる.
おわりに
- 喘息と食物アレルギーはアレルギーマーチやアレルギー性鼻炎の合併など類似の背景を共有するため, 両疾患を合併する患者を診察する機会は少なくない.
- 成人食物アレルギーの病態は感作経路や原因食材が多様であり, 系統立てて学ぶ機会に乏しいために苦手意識のある医療者も多いと思われる.
- しかし, 診療の基本は詳細な問診と抗原特異的IgEによる原因抗原の推定であり, 喘息診療と共通している.
- 喘息 (特にコントロール不良例) の合併はアナフィラキシーの重篤化の危険因子であるため, 万一の誤食・症状出現時に備えて喘息の診断とコントロールに留意することは重要である.
参考文献
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著者
最終更新:2022年7月7日
監修:日本赤十字社医療センター呼吸器内科部長 出雲雄大先生