HOKUTO編集部
2ヶ月前
広島大学病院 脳神経内科の音成 秀一郎先生による連載 「脳波クイズ ER/ICU脳波-意識障害編-」 です。 第5回は、 倒れていた独居の高齢患者の症例です。 症例は架空の設定となります。
近所に住む息子が訪室すると、 自宅で倒れている本人を発見し搬送。 周りには飲み終えた缶ビールがたくさんあった。 不穏状態で意思疎通は不能だったが、 バイタルサインとしては介入すべき異常はなかった。 ジアゼパムの静注にて鎮静をはかり各種検査を行ったが、 血液検査、 頭部CTなどでは異常を認めなかった。 入院後に脳MRIを実施し、 続けて脳波検査も行った。
「自宅で倒れていた高齢者」、 「飲み終えた缶ビール」 がキーワードとなりそうなこの症例、 皆さんであればどのように脳波と画像所見を読み解きますか?
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▼ビタミン補正も行いつつ精査を進める
意識障害で搬送され不穏状態であったため、 ジアゼパムでの鎮静を行った高齢者です。 自宅での状況を考えるとアルコール多飲歴も想定されるため、 ビタミン補正も行いつつ精査を進めることになります。 脳MRIの拡散強調像では明らかな信号変化はありませんが、 やや側頭葉内側が高信号かもしれない印象もあります。 一方のASL (arterial spin labeling) 画像では左側頭葉内側で潅流上昇が示されており、 この領域の炎症や発作活動の可能性が想定されます。
▼ヘルペス脳炎を想定してアシクロビル投与
そのため辺縁系脳炎も鑑別には入りますが、 左後頭葉皮質にもASLの高潅流が示されており、 どちらかというと、 てんかん性の発作活動を反映した所見の可能性の方が考えやすそうです。 もちろん、 臨床では脳炎+てんかん重積状態の併存はあるので、 いずれにしても、 まずはヘルペス脳炎を想定したアシクロビル投与を行いつつ精査を進めていく形になるでしょう。
▼脳波所見ではPDsを認める
一方の脳波所見については、 左側頭部から後頭部にかけて、 つまりASLでの高潅流の所見の領域に一致して 「周期的に尖った波形」 を認めます。 この尖った波形は、 いわゆる周期性放電 (PDs: periodic discharges) で、 てんかん性の活動を反映している可能性があります。
▼発火低サイクル : 発作活動がほとんどない
このPDsの解釈では発火サイクルが重要です。 つまりどれだけ高頻度にPDsの発火があるかで、 発作活動を推定します。 本例のように、 1秒に1回未満のような低サイクルは、 発作活動がほとんどないことを示唆します。 よって、 病歴を合わせると、 自宅で発生した痙攣発作後の、 てんかん性の活動がピークアウトした状況、 をみている蓋然性は高そうです。
▼「アルコールに起因した脳萎縮による症候性てんかんとしての痙攣発作後の意識朦朧状態」
この症例は、 最終的には 「アルコールに起因した脳萎縮による症候性てんかんとしての痙攣発作後の意識朦朧状態」 として搬送されたものと判断されましたが、 あくまでも除外診断が必要ですので、 感染症や脳炎などの検索が急性期には必要でしょう。
はじめての脳波トリアージ
2ステップで意識障害に強くなる
Antaa Slide Award 2021を受賞した著者が、 背景活動×てんかん性の所見で脳波を切り分け、 意識障害の鑑別を最速化する鑑別のコツを伝授。 ICUでの強力な武器を身につけて、 目指せ!デキるレジデント!
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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