【頭頸部癌】ICI時代における、 セツキシマブの使いどころは?
著者

仲野 兼司(がん研有明病院 総合腫瘍科)

20日前

【頭頸部癌】ICI時代における、 セツキシマブの使いどころは?

【頭頸部癌】ICI時代における、 セツキシマブの使いどころは?
2025年5月30日、 『頭頸部癌診療ガイドライン2025年版』が発刊されました。 頭頸部癌においても、 免疫チェックポイント阻害薬やチロシンキナーゼ阻害薬の開発が進み、 化学療法との併用を含めた多様な治療戦略が臨床に導入されています。 第2回となる本稿では、 抗EGFR抗体薬セツキシマブの位置付けについて、 主要試験のエビデンスをもとに、 実臨床での適用ポイントや注意点を専門医に解説いただき、 日常診療に役立つ知見をわかりやすくお届けします。 

解説医師

【頭頸部癌】ICI時代における、 セツキシマブの使いどころは?

専門 : 腫瘍内科 (骨軟部腫瘍、 頭頸部腫瘍、 原発不明癌、 希少がん、 その他がん薬物療法全般)

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紹介レジメンと主要試験

【国内単群第II相試験¹⁾】
 - パクリタキセル+セツキシマブ療法

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セツキシマブ併用レジメン開発の歴史

抗EGFR抗体セツキシマブ (Cmab) は、 頭頸部扁平上皮癌に対する初の分子標的治療薬として、 2012年に日本で承認された。 局所進行例に対しては放射線治療との併用 (bioradiotherapy : BRT)²⁾、 再発・転移例に対しては5-FU+白金製剤との併用 (EXTREMEレジメン)³⁾ が標準治療とされていた。

しかしその後、 BRTはシスプラチン併用放射線療法に対して非劣性を示せず、 EXTREMEレジメンもKEYNOTE-048試験⁴⁾において免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 併用化学療法に劣後したことから、 いずれも現在では標準治療として用いられる機会は大きく減少している。

とはいえ、 CmabはEGFRを標的とする唯一の承認薬であり、 他薬剤と作用機序が重複しないことから、 ICI導入後もその臨床的意義は継続的に再評価されてきた。

パクリタキセル (PTX) +Cmab併用療法は、 2012年に単群第Ⅱ相試験⁵⁾において、 白金製剤に対する抵抗性または不耐の再発・転移頭頸部癌に対する有効性が報告された。 その後、 無作為化比較試験での検証は行われていないものの、 治療選択肢の一つとして位置付けられてきた⁶⁾。

試験概要

国内・多施設共同単群第II相試験として、 白金製剤および抗PD-1抗体の治療歴を有する再発・転移頭頸部扁平上皮癌 (R/M-HNSCC) 患者を対象に、 PTX+隔週Cmab併用療法*の有効性と安全性が検討された。
*PTX 100mg/m²を週1回 (Day 1, 8, 15) +Cmab 500mg/m²を隔週 (Day 1, 15) 投与、 28日を1サイクルとして病勢進行または許容困難な毒性発現まで継続

主要評価項目は客観的奏効率 (ORR)、 副次評価項目として無増悪生存期間 (PFS)、 全生存期間 (OS)、 疾患制御率 (DCR)、 および安全性が設定された。

結果

対象35例のうち33例が奏効評価の対象となり、 ORRは69.6% (95% CI 51.2–84.4)、 DCRは93.7%と高い治療効果が示された。

追跡期間中央値は16.6ヵ月であり、 PFS中央値は5.5ヵ月、 OS中央値は13.3ヵ月であった。

Grade 3–4の有害事象は65% (23例) に認められ、 主なものは好中球減少 (34%)、 感染症 (14%)、 白血球減少 (11%)、 口内炎 (8%)、 肺障害 (8%) であった。 8例 (約23%) が治療関連AEにより中止となったが、 治療関連死亡は報告されなかった。

My Opinion

試験結果の解釈と臨床的意義

ICIの登場に伴い、 Cmabの位置付けは再検討されてきた。 本試験では、 白金製剤およびICIの治療歴を有する再発・転移頭頸部扁平上皮癌に対する有効性が評価され、 有望な成績が示された。

Cmabは2022年より公知申請により2週間隔での投与が承認されたが、 大腸癌とは異なり、 頭頸部癌における有効性データは限られていた。 本試験の結果は、 頭頸部癌に対するCmab隔週投与の有効性および安全性の根拠としても意義深い。

実臨床での使い分け・留意点

PTX+Cmab療法は、 比較的高い奏効率が示されていることから、 腫瘍縮小により疼痛などの症状緩和が期待される症例において、 適応が検討される。

ただし、 本レジメンは後方ラインで使用されることから、 治療によって患者が利益を得られるかについては慎重に判断する必要がある。 Cmabで高頻度に生じる皮膚障害やPTXによる末梢神経障害に加え、 まれではあるが間質性肺疾患は致死的となる可能性があり、 いずれも十分な注意が必要である。 これらの有害事象に対して、 適切な自己管理を支援する体制を確保するとともに、 原疾患の進行や重篤な有害事象が疑われた場合には、 速やかに治療を中止し緩和治療へ移行できるよう、 あらかじめ準備を整えたうえでの治療導入が望ましい。

出典

  1. ESMO Open. 2024;9(6):103476.
  2. N Engl J Med. 2006;354(6):567-78.
  3. N Engl J Med. 2008;359(11):1116-27.
  4. Lancet. 2019;394(10212):1915-1928.
  5. Ann Oncol. 2012;23(4):1016-22.
  6. Oncologist. 2025;30(3):oyaf018.

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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