HOKUTO編集部
1ヶ月前
エクソン20挿入変異 (Exon20ins) は、 uncommon EGFR遺伝子変異の一つであり、 既存のEGFR-TKI単剤療法の奏効率が低いことが知られている。 EGFR Exon20ins陽性NSCLCの最新知見と今後の課題について、 近畿大学腫瘍内科の谷﨑潤子氏が発表した。
演者:近畿大学腫瘍内科 谷﨑潤子氏
EGFR Exon20insは、 非小細胞肺癌 (NSCLC) のEGFR遺伝子変異の約4~10%を占め、 他のドライバー遺伝子変異とは相互排他的である。 臨床的には、 従来のEGFR遺伝子変異と同様に非喫煙者、 腺癌、 女性に多くみられる¹⁾。
EGFR Exon20insは、 Cヘリックスドメインと隣接するループ領域を含み、 多様な活性化型変異が存在する²⁾。 一般的にEGFR-TKIへの親和性は低いが、 A763_Y764insFQEA変異は第1・第2世代TKIに感受性を示す²⁾。
EGFR Exon20insに対しては、 第1・第2世代EGFR-TKIだけでなく、 第3世代のEGFR-TKIでも有効性は限定的である。
第2世代EGFR-TKIアファチニブの複数試験を統合した事後解析では、 EGFR Exon20insを有する患者の奏効率は 8.7%、 PFS中央値は2.7ヵ月であった³⁾。 また、 第3世代EGFR-TKIオシメルチニブも有効性は限定的であり、 17例を対象とした第II相試験では奏効率が24%と報告されている (NCT03191149)。
米国のリアルワールド研究では、 プラチナ併用化学療法 (±免疫療法) の奏効率は約20%、 免疫療法単独では10%未満、 EGFR-TKI単剤は約3%と報告された⁴⁾。 EGFR-TKI単剤はPFS・OSともに短く、 長らくプラチナ併用化学療法が標準治療とされてきた。
MobocertinibはαCヘリックス近傍のタンパク質を標的とするEGFR-TKIである。 第I/II試験 (NCT02716116) で奏効率43%と報告されたが、 第III相試験では化学療法を上回る効果を示せず、 米食品医薬品局 (FDA) は加速承認を取り下げた。
Poziotinibは不可逆的pan-HER阻害薬として開発され、 小型で柔軟な構造と高いハロゲン化特性により、 EGFR Exon20insの結合ポケットへの適応性を高めている。 第Ⅱ相試験ZENITH20 (NCT03318939) で奏効率28%が報告されたが、 FDAの承認は得られなかった。
アミバンタマブはEGFRとMETを標的とする二重特異性抗体であり、 シグナル伝達の遮断に加え、 ADCC (抗体依存性細胞傷害) やADCP (抗体依存性細胞貪食) による抗腫瘍効果を発揮する。
アミバンタマブ+カルボプラチン (CBDCA) +ペメトレキセド (PEM) の併用療法は第I相試験CHRYSALIS⁵⁾で奏効率40%、 PFS中央値8.3ヵ月が示された。 続く第III相試験PAPILLON⁶⁾では、 アミバンタマブ併用化学療法群においてPFSが有意に延長した (HR 0.40、 95%CI 0.30-0.53、 p<0.01)。
『肺癌診療ガイドライン 2024年版』 (編 : 日本肺癌学会) では、 EGFR Exon20insに対する1次治療としてアミバンタマブ+CBDCA+PEMを強く推奨し、 従来のEGFR-TKI単剤療法の使用を推奨しない方針となった⁷⁾。 これにより、 EGFR Exon20ins NSCLCの治療選択肢が大きく変化している。
第Ib相試験FAVOURで、 TKI未治療例で奏効率78.6%、 既治療例でも46.2%が示された。 皮膚障害や下痢など、 従来のEGFR-TKIと類似した副作用が確認されている。
第II相試験WU-KONG1で奏効率44.9%と報告があり、 下痢、 CK上昇、 貧血、 発疹などの有害事象が認められた。 現在、 未治療例を対象に、 化学療法と比較する第III相試験が実施されている (WU-KONG28)。
経口投与可能な不可逆的EGFR-TKIであり、 EGFR Exon20ins変異に対して高い選択性を示す。 第I/IIa相試験では、 プラチナ系化学療法を受けた既治療の再発・転移性EGFR Exon20ins NSCLCに対して、 奏効率38.4%が報告されている。 現在、 未治療例を対象に、 化学療法と併用した場合の有効性が第III相試験で検証されている (REZILIENT3試験)。
EGFR Exon20ins標的治療に対する耐性は、 以下の3つのメカニズムによって生じるとされる⁸⁾。
標的遺伝子内のニ次変異により、 TKIの結合が阻害される。
代替シグナル経路が活性化され、 EGFR阻害の影響を回避する。
腫瘍細胞の形態変化によって薬剤耐性を獲得する。
EGFR Exon20insは多様性が高く、 統一的な治療戦略の適用が可能かが課題である。 現在、 アミバンタマブ+プラチナ系化学療法の併用療法が標準治療となったが、 新規EGFR-TKI単剤療法の有効性や、 抗体薬物複合体の活用も検討されている。 さらに、 主要なEGFR遺伝子変異と同様に、 耐性機構に基づいた個別化治療の確立が求められる。
講演後に行われた質疑応答は以下のとおり。
質問 「Mobocertinibと化学療法の併用は有望でしょうか?」
回答 「一般論として分子標的薬と化学療法の併用は一定の可能性があります。 ただ、Mobocertinibについては開発がほぼ中止になり、 大規模試験も計画されていないようです。 」
質問 「Exon 20挿入変異陽性NSCLCの初回治療で、 将来的に化学療法を省略してEGFR-TKI単剤で治療できる可能性はありますか?」
回答 「現時点でオシメルチニブのような 80~90%の奏効率を示すデータはありません。 もしそれに匹敵する画期的な薬剤が登場すれば、 化学療法を省略できるかもしれませんが、 現段階では併用療法が中心です。 」
質問 「従来のTKIに比較的感受性があるとされるA763_Y764insFQEAなどの場合、 アファチニブなどの既存TKIとアミバンタマブ併用化学療法のどちらがよいでしょうか?」
回答 「このサブタイプに特化したデータは限られており、 一概に比較は難しいです。 脳転移の有無など考慮すべき要因も多く、 併用療法が優位になる場合もあれば、 既存EGFR-TKIの方が適する場合も考えられます。 」
📖 EGFR Exon20ins専門医解説
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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