4月20日に開催された 「第4回COURAGEの集い」 にて行われた 「尿膜管癌 (講師 : がん研究会有明病院 大木遼佑先生) 」 をご紹介します。
尿膜管に関する一般知識
尿膜管とは
- 胎児の尿を母胎とやりとりするため胎児期に存在する、 膀胱から臍に至る管である
- 胎生4~6週で退化し、 出生時には線維性の組織を残して閉鎖する。 出生以降も尿膜管が残存していることを"尿膜管遺残"という
- 尿膜管遺残の有病率は1.03%と報告¹⁾
尿膜管遺残の形態4分類
❶ 尿膜管開存
臍から膀胱まで尿膜管が残存している病態。 小児期に多く、 成長に伴い自然にふさがることもある。
❷ 尿膜管洞
臍の底に尿膜管遺残が接している病態。 感染を起こしやすく、 時に臍炎をきたす。 最も頻度が高い。
❸ 尿膜管嚢胞
尿膜管の途中に嚢胞がある病態。 症状を来すことは少なく、 検診などで偶然発見されることがある。
❹ 尿膜管憩室
膀胱に接して発生し、 時に膀胱に交通がある病態。 尿膜管癌の発生母地となるのは尿膜管憩室が多い。
尿膜管癌に関する一般知識
尿膜管癌とは
- 尿膜管を発生母地とした悪性腫瘍である。
- 解剖学的には膀胱とは異なるが、 便宜的に膀胱癌の一種として取り扱うことが多い。
疫学
- 膀胱腺癌の10~30%
- 膀胱癌全体の0.2~0.3%²⁾³⁾
- 好発年齢は50代
非尿膜管膀胱腺癌より若年の傾向がある⁴⁾⁵⁾
男性 : 女性=1.5~2 : 1
尿膜管癌の診断
膀胱刺激症状 : 排尿困難・頻尿など
- 早期発見が難しく、 90%がSheldon分類 Stage III以上で発見⁶⁾
尿膜管は解剖学的に、 膀胱の内側ではなく外側に伸展するため、 症状を来すまでに時間を要することが多い
画像診断
- エコー、 CT、 MRIなどの画像検査が有用
- 膀胱頂部にドーム状腫瘍を作ることが多い
病理学的分類
- 粘液型 57%、 腸型 15%、 印環細胞型 6%、 混合型 8%、 NOS 14%程度とされる⁷⁾
免疫染色⁸⁾
▼CDX2
尿膜管癌のすべてのサブタイプで、 高い確率で発現する。
CDX2は、 十二指腸から直腸までの粘膜上皮の核に発現する
▼β-catenin
尿膜管癌の膜-細胞質は染色されるが、 核はほとんど染まらない。
▼Claudin-18・RegⅣ
比較的新しい消化管マーカー。 RegⅣは多くの尿膜管癌で陽性となり、 ムチン産生に関連している可能性が示唆されている。
病期分類
- Sheldon分類⁹⁾・Mayo Clinic分類¹⁰⁾・Ontario分類¹¹⁾のいずれも、 ベースの数が少ない
- TNMをベースとした新しい分類 (Proposed TNM) が2023年に提案された¹²⁾。Stage I~IIIをT因子のみで決めていることが特徴
- 各分類を比較すると、 TNMのN因子が予後に大きく関与していることが分かる
治療
限局癌
- 切除可能な場合は手術が推奨
- 放射線のエビデンスはほとんどない
症例報告のみ
転移癌
- 化学療法の報告は複数存在するが、 いずれも症例報告~少数例の後方視研究であり、 標準治療と言えるレジメンは存在しない。
- 消化管の悪性腫瘍に組織型が類似していることから、 消化管癌に準じたレジメンを選択されることが多い。
① : フッ化ピリミジンベース
② : プラチナベース
③ : ①+②併用
④ : 尿路上皮がんに準じたレジメン
同院からの報告¹³⁾
▼概要
- 28例の後方視的研究
- 男性・若年の患者が多い
- ほとんどが腺癌
- Stage III以上が約9割
▼治療
- IFEP療法とSP療法 (TS-1+CDDP) を使用
- なお、 最近はSP療法が中心
IFEP療法 : イホスファミド (IFM) +シスプラチン (CDDP) +エトポシド (ETP) +フルオロウラシル (5-FU)
SP療法 : S-1+シスプラチン (CDDP)
▼結果
全体の全生存期間 (OS)
- OS中央値 : 42.9ヵ月
- 5年生存率 : 45 %
Sheldon stage別のOS
手術症例のOSと無再発生存期間 (RFS)
- RFS中央値 : 35.8ヵ月
- OS中央値 : 未到達
- 1, 2, 5年無再発率 : 63.4%, 50.7%, 44.3%
化学療法症例のOS
- OS中央値 : 23.5ヵ月
- 1, 2, 5年生存率 : 79.8%, 49.7%, 12.4%
💡少数ではあるが、 尿膜管癌のゲノム解析も行われている。 上皮成長因子受容体 (EGFR) に変異を示す可能性があり、 ゲフィチニブやセツキシマブなどに対する効果が報告されている。 免疫療法や標的療法は有望であると思われるが、 その役割はまだ決定されていない¹⁴⁾。
質疑応答
Q.切除可能な尿膜管癌の手術後、 胃癌や大腸癌に準じた術後療法は検討するか?
大木 自身が同院に来てからは、 術後療法は行っていません。 しかし2016年の報告¹³⁾では、 術後療法が施行された症例もありました。
ただし、 エビデンスとしてかなり脆弱な部分があるため、 臨床では泌尿器科の先生と相談しながら行っています。
Q. Claudin-18には発現系が複数あるが、 尿膜管癌において新たな知見があれば教えてほしい。 また、 胃癌と組織系は類似しているが関連はあるのか?
大木 Claudin-18の発現系に関する情報や、 胃癌との関連に関する情報は今のところ確認できていません。
Q.尿膜管癌の病理学的なサブタイプに関する知見はあるのか?
大木 病理学的なサブタイプによる生存曲線の変化などの研究は見つけられませんでした。
<出典>
COURAGEとは?
泌尿器腫瘍を扱う腫瘍内科医が集い、 知識を共有する場として設立された勉強会です。
日常診療で泌尿器腫瘍を診ている医師のみならず、 腫瘍内科医を目指す医師などにも泌尿器腫瘍の魅力に触れてもらい、 そのような人たちを「エンカレッジ」するような組織になることを目指しています。
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