黄色ブドウ球菌による人工関節感染症においてリファンピシンを併用すべきかどうか
著者

メイヨークリニック感染症科 松尾貴公

13日前

黄色ブドウ球菌による人工関節感染症においてリファンピシンを併用すべきかどうか

Should We Use Rifampicin in Periprosthetic Joint Infections Caused by Staphylococci When the Implant Has Been Exchanged? A Multicenter Observational Cohort Study

Open Forum Infect Dis. 2023 Oct 6;10(10):ofad491.
黄色ブドウ球菌による人工関節感染症においてリファンピシンを併用すべきかどうか

研究デザインと対象

2013年1月~2018年12月に欧州および米国の13施設で行われた、 国際的な後ろ向き多施設共同観察研究である。 黄色ブドウ球菌による人工関節周囲感染症 (PJI) を対象に、 リファンピシン併用治療の有効性を検討した。主要評価項目は臨床的失敗であった。

黄色ブドウ球菌によるPJIの定義

●早期感染 : 以下の2種類

  • Early postsurgical (早期手術部位感染) : 術後3ヵ月以内に発生した手術部位感染
  • Late acute (晩期急性感染) : 術後期間に関わらず、 血行性感染として急性の症状をきたしたもの (発症から3週間未満)

●慢性感染 : 術後3ヵ月以降における、 慢性的な疼痛や関節可動域の制限

※再置換が実施されなかった症例や、 再置換後1年以上フォローアップされなかった症例は除外された。

臨床的失敗の定義

再感染、 抗菌薬の長期抑制療法が必要な場合、 インプラントの除去が必要な場合およびPJIに関連した死亡

主な結果

375例の患者が最終解析の対象となり、 1ステージ交換術 (33.1%) または2ステージ交換術 (66.9%) で治療された。

RFPは約半数で併用

リファンピシンは187例 (49.9%) で併用された。 併用しなかった症例では、 理由として施設の治療方針ではない (70.4%)、 リファンピシン耐性 (15.9%)、 副作用のため継続できない (9%)、 他の併用薬との相互作用 (4.2%) などが挙げられた。

RFPの有無で臨床的失敗に有意差なし

臨床的失敗例は、 リファンピシン併用群で22.5% (42/187例)、 非併用群で31.4% (59/188例) にみられたが、 全体としては有意差がなかった (p=0.051)。

RFP併用は特に「慢性PJIの2ステージ交換術」で効果あり

急性PJIでは、 リファンピシン併用による有意な効果は見られなかった。 一方、 慢性PJIにおけるサブ解析では、 リファンピシン併用群の治療失敗率は15%と、 非併用群の35.5%より有意に低かった (p=0.005)。

また、 急性PJI、 慢性PJIそれぞれにおいて、 1ステージ交換術と2ステージ交換術に分けて解析した結果、 特に慢性PJIの2ステージ交換術において、 リファンピシン併用群において臨床的失敗の割合が有意に低かった (p=0.005)。 一方、 慢性PJIの1ステージ交換術、 急性PJIの1ステージ交換術および2ステージ交換術では、 リファンピシン併用の効果は見られなかった。

黄色ブドウ球菌による人工関節感染症においてリファンピシンを併用すべきかどうか

黄色ブドウ球菌によるPJIに対するリファンピシン併用治療は、 特に慢性PJIの2ステージ交換術を行った患者で効果的であることが示唆されました。 一方、 急性PJIではリファンピシンの併用投与が必ずしも必要でない可能性があることが示唆され、 リファンピシンの併用を検討する際に参考になる重要な結果であると言えます。

ただし、 リファンピシンにどの抗菌薬を併用したかに関するデータは示されていません。 このことは、 結果を臨床的に当てはめる際には注意事項となります。

また、 リファンピシンの併用期間について、 「IDSAガイドライン」¹⁾では1ステージ交換術およびDAIR (デブリードマン&インプラント温存) の場合において人工膝関節の場合は6ヵ月、 人工股関節の場合は3ヵ月が推奨されていますが、 本研究では投与期間が提示されていません。 今後のさらなる研究が望まれます。

<出典>
1) The Infectious Diseases Society of America (IDSA) : IDSA Guidelines for the Diagnosis and Management of Prosthetic Joint Infection.

監修医師 : 松尾 貴公先生
2011年 長崎大学医学部卒業、 聖路加国際病院初期研修・内科専門研修・内科チーフレジデント・感染症科フェロー・医員を経て2021年 テキサス大学ヒューストン校/MDアンダーソンがんセンターにて臨床留学。 2022年 同チーフフェロー、 2023年 同アドバンストフェロー、 2024年よりメイヨークリニック感染症科の整形外科感染症フェローとして骨関節感染症に特化したトレーニングを行い更なる研鑽を積んでいる。 また、 日本チーフレジデント協会 (JACRA) 世話人を経て、 現在日本感染症教育研究会 (IDATEN) KANSEN JOURNAL編集委員・米国感染症学会 (IDSA) 感染症教育推進委員。 2024年2月よりFebrile Podcast ID Digital Institute (IDDI)のメンバーも務めており、 デジタルデバイスを活用した新しい感染症教育に積極的に取り組んでいる。
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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