Beyond the Evidence
1年前
「Beyond the Evidence」では、 消化器専門医として判断に迷うことの多い臨床課題を深掘りし、 さまざまなエビデンスや経験を基に、 より最適な解決策を探求することを目指す企画です。 気鋭の専門家による充実した解説となっておりますので、 是非参考としてください。
切除不能進行再発胃癌で免疫療法著効例に、 ICIはいつまでやるべきか?
切除不能進行再発胃癌では、 ニボルマブ±化学療法、 ペムブロリズマブ (MSI-high) が標準治療となっている。 KEYNOTE-859試験¹⁾の結果により、 今後、 ペムブロリズマブ+化学療法も本邦で承認されるかもしれない。
これらの治療を受けて、 長期に奏効が得られている患者さんに対して、 いつまでニボルマブ±化学療法を継続するかは日常診療において、 しばしば遭遇するCQとなってきている。 特に、 ATTRACTION-2試験²⁾の結果、 2017年にニボルマブ単独療法が3次治療で承認されたため、 長期に奏効している患者さんを診る経験も増えていることと思う。
他癌腫も含めて、 臨床試験においては、 2年間増悪を認めなかった場合には投与を中断することがプロトコール治療となっている試験も多く、 その点では2年間を目途に増悪のない症例では投与を中断することが標準的とも解釈できる。 しかし、 投与を中断することにより、 継続した場合と比較して効果が劣らないだろうかという疑問は残る。 そのため、 日常診療では目立ったirAEがない症例では、 2年を越えての免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) の継続使用が行える例もあるだろう。
ICIのエビデンスが消化器癌よりも先行している肺癌では、 2年で投与を中止した群と2年以上継続した群とを大規模データベースを用いて比較検討した後方視的解析の結果が報告されている⁵⁾。 研究の手法上、 ラフな解析となってしまっているが、 非常に興味深いことに生存曲線は両群で重なっていた。 主要な結果以外で、 個人的に興味深かったのは、 継続投与群が593人に対して、 投与中止は113人と圧倒的に少なかった点である。 医療経済的な面では、 日本よりもシビアと考えられる米国のデータでも、 2年で中止は6人に一人くらいの少数派であることには驚いた。
治療中断の意思決定に関する議論は、 免疫療法に限ったことではなく、 殺細胞性抗癌剤でのChemo Holidayや、 メンテナンス治療として無治療期間を設ける臨床試験が行われるなど、 別の形でも行われてきた。 メンテナンス試験では、 OSに有意差がなくとも、 無治療期間を設けることが標準治療とはならなかった。 再燃リスクが高い中で、 うまくいっている時にやめることは患者さんにも医療者にとってもリスクの高い選択ということだろう。
したがって臨床現場では、 中断と継続の双方の選択肢を患者さんに提示し、 それぞれの場合に想定される益と害を説明した上で、 患者さんの意向を踏まえて、 意思決定を行うShared decision making (SDM)により解決を図るのが、 現状では唯一の対応策であろう。
『Beyond the Evidence』では、 著者自身の個人的な診療スタイルに基づく記載が許されていると理解しているので、 以降は自由にこの問題について論じさせて頂く。 あくまでも、 一方の選択肢や意思決定 (プロセス) を否定するものでも、 両者を比較して優劣を論じるものではなく、 目の前の患者さんに対して、 二者択一を迫られる状況の中での一つの考え方であることをご理解頂きたい。
私自身は、 基本的に2年を目途にICIを中断する立場である。
エビデンスの面では、 他癌腫も含めて過去に行われた臨床試験に倣えば、 2年間がこのレジメンの使い方であると理解している。 しかしながら、 胃癌の臨床試験では、 CheckMate 649試験³⁾やKEYNOTE-859試験¹⁾ではニボルマブまたはペムブロリズマブの投与は2年と規定されていたが、 ATTRACTION-2試験²⁾、 ATTRACTION-4試験⁴⁾では規定されていないことも注意されたい。
その点では東アジアでは継続が標準的と解釈することもできるのかもしれないが、 継続使用が中断に勝るエビデンスがないことから、 診療の前提として、 『無危害の原則』に従い、 投与を中止するのが妥当であるというのが個人的な考えである。
ご存じの通り、 ICIは重篤なirAEが出現しなければ、 治療による身体的負担が少ない治療であり、 治療を行うことがすなわち『危害』とまでいえるのかは疑問を感じる意見もあるかもしれない。 しかしながら、 治療をするためには来院の必要もあるし、 来院すれば待ち時間もある、 投与を受けるためには末梢ラインを確保しなくてはならない (場合によっては1回で穿刺に成功しないかもしれない) 、 医療費もかかる。 無治療であれば、 これらは全てかからない。 さらに、 継続していれば、 将来のirAE発症リスクもある。
個人的には、 本当の意味でCRが得られていれば再燃はし得ないのではないかと思う。 ただリンパ節病変など、 CRと言い切ることが難しい症例もある。 画像上ではvisibleであってもviableな細胞がいないこともしばしば経験する。 筆者は2年投与して再燃した患者さんがいたが、 転移巣は画像上、 CRではなく、 good PRであった。 この患者さんには再投与を開始したが、 再度効果が得られることを期待している。 昨今は感度の高いctDNA検査により、 術後の微小残存病変を評価して、 不要な術後補助化学療法を省略できるようになることが期待されている⁶⁾。 このような診断技術の向上がICIの継続投与の適否についても科学的な答えを出してくれることを期待している。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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