HOKUTO編集部
22日前
神奈川県立がんセンターの廣島幸彦先生による本連載、 第5回は 「遺伝子パネル検査のコンパニオン診断と"みなしコンパニオン"機能」 について解説します!
特定の医薬品 (分子標的治療薬など) の有効性が期待される患者を特定するために使用される、 バイオマーカー検査である。 厚生労働省や米食品医薬品局 (FDA) など規制当局の承認を受けており、 高い信頼性を持つ診断法である。
通常は薬物療法開始前に実施され、 治療選択の一助となる。
100種類以上のがんに関わる遺伝子について、 がん組織内の、 もしくは末梢血中に漏れ出したがん由来の遺伝子の異常を一度に調べ、 その遺伝子異常に対応した治療薬 (主に分子標的薬) を探すための検査である。
がん遺伝子パネル検査の実施方法には①CDxとして治療前に実施する方法と、 ②包括的がんゲノムプロファイリング (CGP) 検査として標準治療開始後に実施し、 エキスパートパネルでの審議を経て治療選択を行う方法がある。
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がん遺伝子パネル検査のCDxとして実施する場合の診療報酬点数は、 検査費用 (46万円程度) より安価に設定されている。 そのため、 CDxとして治療前に実施することは現実的には難しいと考えられる。
具体例として、 去勢抵抗性前立腺癌におけるBRCA遺伝子変異検出について説明する。 BRCA遺伝子変異陽性の去勢抵抗性前立腺癌に対して、 PARP阻害薬 (オラパリブ/タラゾパリブ) の単剤もしくはアンドロゲン受容体シグナル阻害薬 (ARSI) との併用療法が保険適用となっている。
本来であれば、 ホルモン感受性の間にFoundationOneもしくはFoundationOneLiquid*をCDxとして実施し、 BRCA遺伝子変異について検索する必要がある。 しかし、 BRCA遺伝子変異検出に関するCDxの診療報酬点数は2万200点 (20万2,000円) しかないため、 実施医療機関は20万円以上の持ち出しとなる。
検査費用を回収するためには、 標準治療実施後にエキスパートパネルを実施し、 CGP検査として検査結果を患者に説明する必要がある (結果説明後、 差額の3万5,800点が算定可能)。 しかし、 標準治療後のエキスパートパネルを実施する機会を逸し、 差額の回収が難しくなるケースが多数発生することが想定される。 そのため、 CDxとしての実施はほとんど行われていないのが現状である。
前述のように、 遺伝子パネル検査をCDxとして治療する前に実施することは難しく、 標準治療のなるべく早い段階でCGP検査として実施することが、 治療戦略を検討する上で重要と考えられる。 CGP検査としての実施には、"みなしコンパニオン"機能が利用可能になるというメリットもある。
厚生労働省は 「遺伝子パネル検査後に開催されるエキスパートパネルが、 添付文書・ガイドライン・ 文献等を踏まえ、 当該遺伝子異常に係る医薬品投与が適切であると推奨した場合であって、 主治医が当該医薬品投与について適切であると判断した場合は、 改めてコンパニオン検査を行うことなく当該医薬品を投与しても差し支えない。」 と通達している²⁾。 これがいわゆる”みなしコンパニオン”機能である。
CDxは薬剤の効果を高精度で予測でき、 治療方針の決定において非常に信頼性が高い。 ただし、 薬剤とCDxが1対1対応であることが多いため、 特定の薬剤ごとに対応した検査を行う必要が生じる。
具体的には、 同じ遺伝子変異を標的とした分子標的薬が複数種類あった場合、 薬剤によってCDx検査が異なり、 複数回検査を実施する必要がある。 そのため、 治療薬を使用するために必要な検体量や時間、 費用などが増加し、 患者の負担が多いと考えられる。
このような場合、 遺伝子パネル検査をCGP検査として実施し、 エキスパートパネルを経ることで、 "みなしコンパニオン"として複数の薬剤の使用が許容される場合がある。
乳癌を例に挙げると、 ホルモン受容体 (HR) 陽性HER2陰性の進行乳癌の治療薬として2024年3月26日に承認されたAKT阻害薬カピバセルチブは、 FoundationOne® CDxによるコンパニオン診断によってPIK3CA、 AKT1、 PTENのいずれかの遺伝子変異が検出された場合に使用が承認されている。
しかし、 FoundationOne® LiquidをCDxとして実施した場合は適用とならない。 これは、 FoundationOne® LiquidがカピバセルチブのCDxとして承認されていないからである。
一方、 FoundationOne® LiquidをCGP検査として実施し、 エキスパートパネルでの議論を経ることで、 "みなしコンパニオン"としてカピバセルチブが使用可能になると考えられる。 また、 カピバセルチブは、 CDxに記載されているメジャーな変異だけでなくマイナーな病的変異にも有効な可能性があり、 エキスパートパネルの判断で適用となることがある。
このように、 CDxとして承認されていないが類似するようなバリアントに関しても、 該当薬剤の適用を推奨する可能性も考えられる。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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