【過活動膀胱の代替治療】漢方薬とサプリメント、鍼治療 (皆川倫範先生)
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【過活動膀胱の代替治療】漢方薬とサプリメント、鍼治療 (皆川倫範先生)

【過活動膀胱の代替治療】漢方薬とサプリメント、鍼治療 (皆川倫範先生)

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漢方薬とサプリメント、 鍼治療」   皆川倫範

(名古屋第一赤十字病院女性泌尿器科部長)

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アブストラクト

  • 本稿では、 過活動膀胱を主とした下部尿路症状に関する代替治療の概説を行う。 
  • 第一に漢方薬に関して触れる。 漢方医学には独特の治療体系があり、 病態理解があることを理解すべきである。 最も有名な漢方医学理論のひとつである「証」の成り立ちは、 方剤を有効に選択するための手段である。 現在においても、 過活動膀胱の診療では病因不明の状態で治療が行われるため、 西洋医学を修学した医師にとっても、 別段飛躍のある診療体系とは言えない。 
  • また本稿では、 五行論における「相生相剋」と生理学的理論である“neural cross-talk”を比較しながら、 漢方医学の理論を身近なものに感じていただきたい。 そして、 その他の代替治療として、 サプリメントと鍼治療の報告をまとめる。

Ⅰ はじめに

過活動膀胱を含めた下部尿路症状に関する治療の王道は西洋薬による保存的治療である。 一方、 代替療法はどうかというと、 重要な位置にあるとは言えない。 その理由として、 エビデンスが十分でないことが第一に挙げられる。 また、 有効性を予想する患者のプロファイルが難解であることも問題となる。 

それでは、 過活動膀胱・下部尿路症状には代替療法は無用かというと、 そうとも限らない。 適切な患者に用いれば十分な効果が得られるし、 漢方医学の理論と西洋医学的病態論を比較すると興味深い共通点を見出すことができる。 

本稿では、 漢方薬を中心とした過活動膀胱・下部尿路症状における代替療法の位置づけや理論について概説する。

Ⅱ 漢方薬

1 漢方医学の理論とその解釈

漢方医学には、 独自の理論体系が存在する。 有名であるが、 嫌厭されがちな理論は、 「証」である。 要するに、 体質から方剤を選択するのである。 この理論は、 現代医療においては受け入れがたいもので、 医師が漢方薬に取り組むことに大きな妨げになっている。 なぜこのような理論が確立されたかを理解する必要がある。 

そもそも、 漢方医学には、 西洋医学のような診断名が存在しない。 診断名に近いものがあっても、 現在の医療で用いられる診断名とは大きく異なる。 なぜ診断名がないかというと、 漢方医学が発展した当時は、 検体検査も画像検査もないからである。 病気として特有なのは症状だけである。 それでも、 疾患や病態が多彩に存在することは経験的に理解されていた。 

症状が同じでも、 病因・病態が異なることは察することができる。 では、 どのようにして病因・病態の違いを鑑みて治療を決定すべきか。 もっといえば、 方剤選択の有効性を上げるにはどうしたらよいか思索する必要がある。 そうすると、 病因・病態ではなく、 患者因子にアプローチする必要があり、 「体質=証」に注目したのである。 西洋医学的にも、 こういう体格の人はこういう病気になりやすい、 と考えるのは理にかなった考え方である。 

メタボの人は心筋梗塞になりやすく、 痩せているとビタミン不足・免疫力低下のため風邪を引きやすい。 そういった、 患者因子による絞り込みと、 生薬の組み合わせにより、 有効な方剤の選択を可能にしたのである。 一方、 過活動膀胱の診療では、 病因に関しては全くのブラックボックスである。 尿意切迫感をもって診断し、 患者背景を鑑みて処方を選択する。 その点、 病因を考慮せずに患者因子からアプローチする漢方医学の診療体系に適合する。

  • 相生相剋

次に理解すべき漢方医学の理論は、 「相生相剋」である。 「相生相剋」は、 五行論からくる世界の成り立ちを理解する理論である。 万物は5つのエレメント (火・土・金・水・木) から成り立っているという理論で、 それは相互に影響を及ぼし「相生=アクセル」、 「相剋=ブレーキ」の関係であるとされている (図1a)。 

また、 それらは世の中のさまざまなカテゴリーに適応され、 五穀豊穣、 五臓五腑などと用いられる (五臓六腑が有名で、 五臓は肝・心・脾・肺・腎で、 六腑は胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦である。 三焦はリンパ系らしいがはっきりせず、 他との関係性が不明なのでこれを除いて五臓五腑とされる)。 このように、 漢方医学では臓器を単独で理解しようとせず、 さまざまな臓器相互作用のなかで調和・不調和するものと理解されていたのである。 

図1 臓器間の相互作用とメカニズム
【過活動膀胱の代替治療】漢方薬とサプリメント、鍼治療 (皆川倫範先生)
  • organ cross-talk

一方、 近年の生理学研究では、 organ cross-talkという理論に注目が集められている。 organ cross-talkは主に神経路を介するので、 neural cross-talkとも言われている。 organ cross-talk理論は、 まず第一として正常の臓器制御機構として注目された¹⁾。 以後研究が進み、 病態・病因を理解し、 治療するために重要な理論として注目されるようになった²⁾。 

昨今注目されるneuromodulation (神経変調治療) も、 この理論が作用機序のひとつと考えられている。 この理論の本幹をなす基礎研究は、 dechotomizing afferent fiberで、 ようするに二股の知覚神経線維である³⁾。 単純な理解として、 神経路は一本道である。 脳から脊髄へ伸びた神経線維は、 単独臓器に接続されて、 知覚と運動を行う。 ところが実際には、 知覚神経は二股になっている場合がある (図1b)。 二股に分かれた神経は、 複数の臓器にまたがっている。 膀胱と直腸、 膀胱と皮膚、 膀胱と子宮などに枝分かれしている。 そうすると、 程度の問題はあるとして、 脳は二股の神経の活性化がどちらの臓器の刺激でなされたかを区別できない。 極端な話、 単一線維に関しては膀胱と直腸の区別がつかないのである。 その結果、 とある臓器の知覚神経刺激は、 他臓器の運動神経の活性化を促す結果となり、 organ cross-talkが起こる、 というわけである。 

この理論はさまざまな臓器に関連があるとされる。 膀胱を中心としたcross-talkの概念を図1cに示す。 この理論は、 上述の「相生相剋」と類似性があり、 臓器の機能障害を理解するうえでは生理学的には正しいアプローチである。 その理論を前提として、 漢方薬の方剤をみてみるとする。 例えば、 牛車腎気丸は頻尿のほかに冷えや腰痛にも効果がある。 皮膚・関節と膀胱とのcross-talkを念頭に開発された方剤かもしれない。 八味地黄丸は前立腺肥大症以外に陰萎・坐骨神経痛などに効能がある。 これも陰茎・坐骨神経・下部尿路のcross-talkを念頭にみてみると興味深い。 このように、 最新の西洋医学の生理学研究と漢方医学理論を対比することにより、 漢方医学の理論の理解が受け入れやすいものになる。

2 下部尿路症状の診療に用いられる漢方薬

本邦で主に使用される漢方薬の方剤を表1にまとめる。 一方、 現在あるさまざまなガイドラインでも漢方薬は取り上げられるが、 その推奨グレードはすべての方剤でC1である。 『女性下部尿路症状診療ガイドライン』では過活動膀胱で牛車腎気丸が、 腹圧性尿失禁に対して補 中 益気湯が取り上げられている⁴⁾。 

表1 代表的な漢方薬
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他方、 『男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン』では八味地黄丸が前立腺肥大症に、 牛車腎気丸が排尿困難・頻尿の項目で取り上げられているほか、 牛車腎気丸には他剤との併用で過活動膀胱症状に有用という報告が取り上げられている⁵⁾。 また、 『夜間頻尿診療ガイドライン』では、 紫苓湯と牛車腎気丸が取り上げられている⁶⁾。 これらはすべて推奨グレードC1であり、 行ってもよいが勧めるだけの根拠が明確でない、 という位置づけなのである。 

このことは素直に受け入れるべきで、 汎用性が高い漢方薬の方剤は現在のところないと考えてよいだろう。 しかし、 上述のように、 漢方薬は成り立ちが西洋薬と大きく異なるので、 漢方薬の有効な使用方法に関しては更なる研究が必要である。

Ⅲ サプリメント・鍼治療

  • サプリメント

最も有名な排尿障害のサプリメントといえば、 ノコギリヤシエキスだろうか。 筆者自身、 患者からその有用性に関して質問を受けることは少なくない。 では、 その有用性はどうかというと、 2000年以後に行われたランダム化比較試験 (RCT) では有意な改善効果は認めなかったとされている⁷⁾⁻⁹⁾。 一方、 最新の2020年の報告によると、 92人で行われたRCTではノコギリヤシエキスにより過活動膀胱・頻尿・失禁が改善したとの報告がある¹⁰⁾。 また、 イソフラボンやリコピンの有用性に関する前立腺肥大症への有用性は検討されているが、 過活動膀胱への有効性は不明である¹¹⁾¹²⁾。

  • 鍼治療

一方、 鍼治療の下部尿路機能障害に対する検討も多くなされている。 鍼治療は上述のcross-talk理論の応用と考えられ、 有効な治療手段になり得る。 意外に思われるかもしれないが、 この分野ではRCTが多い。 2000年代に報告された少数例のRCTではその有用性は確立していない¹³⁾¹⁴⁾。 一方、 2020年に報告されたRCTで、 シャムとの比較をした香港の検討では、 有意差がつかなかった¹⁵⁾。 また、 レーザー鍼治療の報告ではcontrolに比べて過活動膀胱症状スコアなどが有意に改善した¹⁶⁾。 しかし、 システマティックレビューでは、 十分なエビデンスはないとされているので、 その有用性に関しても結論が出ていない¹⁷⁾。

Ⅳ おわりに

過活動膀胱の治療において有効性が期待されるいくつかの代替療法が存在する。 現在のところ、 歴史的・経験的・理論的な有用性にとどまり、 患者選択や方法論の統一など課題が山積である。 しかしながら、 研究対象として大いに魅力的な内容であるとともに、 現在・未来における過活動膀胱・下部尿路症状の診療において活用・検討すべきである。

参考文献

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  3. Christianson JA, Liang R, Ustinova EE, et al:Convergence of bladder and colon sensory innervation occurs at the pri- mary afferent level. Pain 128:235-243, 2007
  4. 日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会:女性下部尿路症状診療ガイドライン (第二版)。 リッチヒルメディカル、 東京、 2019
  5. 日本泌尿器科学会:男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン。 リッチヒルメディカル、 東京、 2017
  6. 日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会:夜間頻尿診療ガイドライン (第二版)。 リッチヒルメディカル、 東京、 2020
  7. Bent S, Kane C, Shinohara K, et al:Saw palmetto for benign prostatic hyperplasia. N Engl J Med 354:557-566, 2006
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こちらの記事の監修医師
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HOKUTO編集部
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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