次世代社会医学研究オープンラボ NexSoM Labo
3ヶ月前
医学には多様な研究領域があり、中でも「基礎医学研究」と「臨床医学研究」がイメージしやすいかと思います。 しかし、 病気と健康に対する理解をさらに深めるために、 「社会医学研究」 が重要な役割を担っています。 本連載の第1回では、 その位置づけや、臨床と研究の関連性について、 大礒義一郎先生が解説します。
医師の仕事は、 臨床と研究が車の両輪と言われています。 "臨床" では、 個別具体的な患者の疾病の治療のみを目的とし、 医学的準則に則った診療を行います。 それに対し、 "臨床研究" (例えば新規抗がん剤の臨床研究) では、 未だ医学的準則となっていない治療等であり、 個別具体的な患者の治療のみを目的としていない診療です。
平たく言えば、 臨床は出来上がったガイドラインの個々の患者さんへのあてはめであるのに対し、 研究は、 そのガイドラインをより良くするための試みと言えます。
一見、 臨床と研究は異なる仕事のように見えますが、 現在の医療現場では両者はかなり接近しており、 臨床医であっても様々な臨床研究、 治験に関わっており、どちらか一方しかやらないという医師は少なくなっています。
医学研究は、 ①基礎医学研究、 ②臨床医学研究、 ③社会医学研究の三つの領域に大別されます。
皆さんが医学研究ときいてイメージしやすいのは基礎医学研究だと思います。 大学では、 解剖学、 生理学、 生化学、 薬理学等の講座があり、 試験管や培養器等の中でヒトや動物の組織を用いて実験するin vitroの研究やマウス等の実験動物を用いるin vivoの研究が主として行われています。
それに対し、 先に挙げた臨床研究は、 「医薬品等を人に対して用いることにより、 当該医薬品等の有効性又は安全性を明らかにする研究」 (臨床研究法2条1項) とされており、 大学だと各診療科の講座において、 市中病院では各診療科において行われています。
医薬品が上市されるまでの流れ
新薬開発においては、 基礎医学研究と臨床医学研究は一連の流れの中にあり、 対象が組織や動物と人で異なるということになります。
では、 ③社会医学研究とはどのような研究分野でしょうか。 わが国の多くの大学では、公衆衛生学、 法医学講座がある程度で、 学生にとっては基礎医学で大変な勉強をした後に臨床医学が始まるまでの“狭間”の単位といった印象かもしれません。
しかし、 社会医学研究は保健医療制度・政策、 経済、 倫理、 疫学、 生物統計学、 社会行動科学、 環境衛生、 国際保健等々広汎かつ重要な領域を対象としており、 医師国家試験でも約3割が社会医学領域からの出題となっていますし、 欧米では、 ハーバード大学公衆衛生大学院をはじめ100を超える公衆衛生に関するコースが存在するなど、 盛んに研究が行われています。
社会医学研究で取り扱うのは調査票等データであることが多く (ドライラボ)、 一方、基礎医学研究は組織や動物を取り扱う (ウェットラボ) という点で異ります。 そして、 対象が異なることから、 科学の重要な要素である再現性を担保するための方法が、 基礎医学研究では実験方法に重きを置くのに対し、 社会医学研究では統計学的手法を用いることとなります。
そして、 統計学的手法を用いるという点においては臨床医学研究も同じであり、 例えば新規抗がん剤治療のランダム化比較試験では、 コントロール群と介入群に主要エンドポイント (5年生存率や50%生存期間等) において統計学的に有意差があるかが問われます。
そうした意味では、 国試対策というだけでなく、 将来、 臨床を中心に働きたいと考えている学生にとっても、 統計学的手法やリサーチクエスチョンの立て方等々、 社会医学研究における方法論を学ぶことは重要と言えます。
「始まる、その瞬間に立ち会う、最後のチャンス」
会場 帝京大学箱根セミナーハウス
共同体表の大磯義一郎先生、吉村健佑先生より、 NexSoM Labo設立の経緯や背景について解説いただきました。
本会のルーツとなったのは、 2011年に帝京大学で講義をはじめたときの学生から、 講義が終わっても何らかの学習機会が欲しいと言われ、 「私が教えられるのは社会医学に関する研究指導かなあ」 と伝えたところ、 「それでいいです」 とのことで、 勉強会が立ち上がりました。
最初は数人の勉強会から次第に人数が増えていき、 医学論文研究会として学内サークルとなり、 私が浜松医科大学に異動したこともあり、 浜松医大の学生も参加するようになりインカレの勉強会へと発展。 せっかくだから直接顔を合わせる機会をと夏合宿を実施するようになり、 その頃には福島県立医大、 順天堂大、 富山大学等々様々な大学の学生も参加するようになっていました。
ところが、 2020年のダイヤモンド・プリンセス号事件から社会が一転し、 このような活動も著しい制限を受けるようになりました。 当時の監事をしていた学生もサークルの維持に頑張ってくれましたが、 学生にとっての3年は長く、 勉強会も立ち消えに。 。
そんな中、 2023年に吉村健佑先生とお会いし、 「コロナも明けたし、 もう一回やり直そう!」 と意気投合し、 本会を立ち上げることとなりました。 「学問、 研究は楽しい!」 をモットーに本会が皆さんが楽しく学問をできる場にできたらと考えています。
できたばかりの会ですので、 具体的な活動につき、 皆さんの積極的なご意見をいただけたら幸いです。
「次世代」、 これは皆さん自身を指します。 生産年齢人口減が進み、 厳しい未来が日々具体化する中、 従来のやり方だけで幸せになれるのか。 新しい戦略、 在り方、 そしてこれまで王道とされていた方法と違う形でトライしていかなければ。 私も少し上の世代ですが、 挑む皆さんの役に立ち、 自分自身も変化する存在でありたいと思います。
「社会医学」 とは、 社会を良くする医学です。 社会を良くするには、 制度やルールを変えることに並び、 構成する 「ひとびと」 を良くすることです。 ひとびとの行動変容をいかに起こせるか。 そこにかかっています。
最後に 「オープンラボ」、 それは従来の大学や集団、 世代や立場にこだわらない集団をつくりましょう。 いうなれば志をともにする 「結社」 を作りたい。
さて、 この動き出した新しに団体に関心持ちましたか?私と大磯先生、 ともに少し変わった大人が運営する集団ですが、 扉は常に開かれています。 他の誰でもない、 そう 「あなた」 の参加をお待ちしています。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。