HOKUTO編集部
5ヶ月前
「尿路結石症診療ガイドライン第3版」 が2023年に出版されたが、 同ガイドラインにまだ未掲載の新たな知見につき、 日本尿路結石症学会理事で北彩都病院副院長/尿路結石センター長の山口聡氏が解説した。
背景 尿路結石症の体系的なフォローアップアルゴリズムが存在しないため、 適切なフォローアップ終了時期を検討する必要性がある。
方法 システマティックレビューとメタ解析 (50件 [計5,467例] のプール解析) を実施した。
結果 以下のアルゴリズムが示された。
💬山口氏 : 本研究は今まで漠然としていた結石の治療後のフォローに関して具体的な方策を示したという点で意義深い研究である。
背景 経皮的腎結石除去術 (PCNL) は20mm超の腎結石に対するゴールドスタンダード治療と考えられている。 一方で腎内逆行性手術 (RIRS ≒ fTUL) は、 繰り返し手術を行うことでPCNLと同等の無結石率を達成できる可能性があり、 合併症も少ない可能性がある。
方法 20mm超の腎結石に対するPCNLとRIRSを比較した過去の研究31件 (PCNL : 1,987例、 RIRS : 1,724例) より、 システマティックレビュー、 メタ解析、 試験逐次解析を実施した。
結果 1回のRIRSとPCNLを比較すると、 PCNLの方が無結石率は高いという従来の結果が確認された。 しかし、 PCNLと2回のRIRSでは、 無結石率がほぼ同等であった。 また、合併症発症率と入院期間は以下のとおりであった。
- 合併症発生率 : PCNL > RIRS
- 入院期間 : PCNL > RIRS
💬山口氏 : RIRSが2回施行された症例は全例の26% (95%CI 23-28%) にとどまり、 残り74%が1回で完了していた。 PCNLとRIRS1回でほぼ同等の結果とした場合、 今後はRIRSのみで20mm超の腎結石に対する治療を完了させるという選択が有力になってくる可能性がある。
方法 10~39mmの腎結石治療に関する論文45件 (計4,571例) において、 PCNLとRIRS (単回) の有効性を比較検討
結果 無結石率 他は以下のとおりであった。
- 無結石率 : PCNL > RIRS単回
- 安全性 : PCNL = RIRS
- 入院期間 : PCNL > RIRS
背景 体外衝撃波結石破砕術 (ESWL) は1980年代から腎結石の治療に用いられているが、 RIRSおよびPCNLはより新しく侵襲的な治療法であり、 結石除去率が高い可能性がある。 RIRSとPCNLの合併症は、 手術手技と器具の改良により減少している。 各治療法に関する最良のエビデンスを再評価した。
方法 腎結石 (平均13.4mm、 うち≧20mmが93.8%) 治療に関する論文31件 (計3,361例 : ESWL vs PCNL / ESWL vs RIRS) において、 ランダム効果モデルを用いて統計解析を行い、 GRADEアプローチにより独立したエビデンスの確実性を評価
結果 無結石率 他は以下のとおりであった。
▼ESWL vs PCNL
- 無結石率 : PNL > ESWL
- 合併症 : PNL > ESWL
▼ESWL vs RIRS
- 無結石率 : RIRS > ESWL
- 合併症 : RIRS ≒ ESWL
背景 シスチン尿症は遺伝性尿路結石症を合併するが、 現在、 完全な治療法は確立されていない。 シスチン尿症に対する非外科的介入に関する文献を系統的レビューで評価した。
方法 シスチン尿症患者の臨床管理に関して記載がある論文14件 (計349例) について、 非無作為化試験のための方法論的指標 (MINORS) を用いて研究の質を評価し、 定性的かつ批判的な分析を行った。
結果 第一選択治療 (水分摂取+尿アルカリ薬) を行った症例では、 尿量3,000mL/日、 pH7.0以上に増加させることで、 結石再発率が低下した。
第二選択治療 (チオプロニンなどのシスチン結合性チオール薬) を行った症例では、 尿中シスチン濃度、 シスチン結晶量を減少させることにより、 再発率が低下した。
両者の併用療法を行った症例では、 再発率が相乗的に減少した。
💬山口氏:2021-23年に代謝改善解毒・シスチン尿症治療薬のチオプロニンが入手困難となり、 シスチン尿症の診療で苦い記憶がある方も多いのではないか。 今後、 何らかの原因で薬剤を供給できない場面が生じた時の対応法として、 チオプロニン投与困難時における治療選択は身につけておくべき知識である。
背景 糖尿病は腎結石の危険因子の一つとして考えられている。 最近の研究では2型糖尿病に対するSGLT2阻害薬の使用はGLP-1受容体作動薬と比較して腎結石症のリスクが低いことが明らかにされた。
方法 それぞれ以下のとおりである。
①無作為化比較試験として、エンパグリフロジン群 27例 (エンパグリフロジン10mg/日を4週間投与) とプラセボ群 : 13例を比較した。 ②無作為化比較試験の既存データ計1万5,081例をプール解析で検討した。
結果 それぞれ以下のとおりであった。
①エンパグリフロジン群で血清尿酸値の低下、 尿中クエン酸排泄の増加、 尿量の増加が確認された。 ②エンパグリフロジン群はプラセボ群と比較し、 尿路結石イベントの発生リスクを約40%減少させた (発生比率 0.64 [95%CI 0.48-0.86])
💬山口氏:①の研究論文では尿pHの低下が示されている。 この徴候は、 シュウ酸カルシウム結石にとってのリスク増大に繋がるため同意できない。 しかし他のデータからは、 今後SGLT2阻害薬の適応拡大となる可能性はあり、 臨床でも念頭に置く必要がある。
背景 サイアザイド系利尿薬ヒドロクロロチアジドは、 近位尿細管でカルシウムの再吸収を促進し、 尿中カルシウム排泄量を減少させる。 その結果、 カルシウム含有腎結石の形成リスクを低下させることが知られており、 臨床で使われることがある (※保険適用外)。
方法 カルシウム含有結石再発患者416例に対する無作為化比較試験を実施した。
- ヒドロクロロチアジド群 : 105例
- プラセボ群
結果 再発率に有意差は認められなかった。
💬山口氏:ヒドロクロロチアジド投与により、 尿中カルシウム排泄量が明らかに減少することは確かめられている。 対象患者群を"高カルシウム尿を有する患者"に限定すれば、 有意差が出た可能性が高いのではないか。
最後に山口氏は、「尿路結石の領域では、 わが国が主導する無作為化比較試験が極端に少ない。 尿路結石症診療ガイドライン第3版では、 採用されたクリニカルクエスチョンの他、 重要性が高く将来の研究で回答が得られる可能性のある15個の課題をFuture Research Questionとして提示している。 若手の研究者には、 これらをヒントに、 次期ガイドラインに記載しうる臨床研究の推進を期待したい」 と述べた。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。