HOKUTO編集部
3ヶ月前
肝内胆管癌をはじめとする胆道癌では、 多くの治療標的となる遺伝子異常が認められており、 標準治療が確立されていない2次治療においては、 分子標的治療が選択肢となっている。
その中でも、 胆道癌におけるFGFR2融合遺伝子に対するFGFR阻害薬の有効性が示されており、 現在はペミガチニブおよびフチバチニブの2剤が承認されている。
本稿では、 近年実臨床に導入されたFGFR阻害薬であるペミガチニブとフチバチニブを比較する。
著者 : 丸木雄太先生
線維芽細胞増殖因子受容体2 (Fibroblast Growth Factor Receptor 2; FGFR2) は、 細胞増殖や分化に関与する重要な役割を果たす受容体である。
胆道癌ではFGFR2遺伝子が他の遺伝子と融合 (fusion) して変異し、 融合遺伝子が発生すると、 通常は正常な細胞増殖や分化の調節が乱れ、 癌細胞の増殖を促進する可能性がある。
新井らは切除可能な肝内胆管癌の14%がFGFR2融合遺伝子陽性であることを報告し¹⁾、 FGFR2融合遺伝子が治療標的として注目され、 FGFR阻害薬が開発されている。
本邦では、 切除不能胆道癌におけるFGFR2融合遺伝子の発生頻度などを検討する研究 (Prelude試験)²⁾が行われ、 肝内胆管癌では7.4%、 肝門部領域胆管癌の3.6%にFGFR2融合遺伝子が認められた。
化学療法歴のある切除不能な胆道癌患者を対象に、 ペミガチニブの有効性および安全性を検討することを目的とした非盲検単群第II相試験 (FIGHT-202試験)³⁾が行われた。
主要評価項目はFGFR2遺伝子融合/再構成コホートにおける客観的奏効率 (ORR) とされた。 107例が登録され、 48例で奏効が得られた。 また全生存期間中央値 (mOS) は21.1ヵ月であった。
本試験結果から、 FGFR2遺伝子融合/再構成を有する胆道癌における有効性が示され、 2021年3月に国内承認されている。
FOENIX-CCA2 試験 (非盲検単群第II相試験)⁴⁾において、 治療歴のあるFGFR2融合または再構成陽性の肝内胆管癌患者を対象にフチバチニブの有効性が検討された。
103例が登録され、 43例で奏効が得られた。 無増悪生存期間中央値 (mPFS) は 9.0ヵ月、 mOSは 21.7ヵ月であった。
本試験結果より、 FGFR2融合または再構成陽性の胆道癌に対して2023年6月に国内承認されている。
フチバチニブは共有結合型FGFR阻害薬であり、 その他のFGFR阻害薬耐性となったFGFR2遺伝子融合を有する胆道癌でも有効である可能性も報告されている。
ペミガチニブ、 フチバチニブいずれも"がん化学療法後に増悪したFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道癌"とされている。
ペミガチニブはFoundationOne、 フチバチニブはNCCオンコパネルを使用する。
なお、 ペミガチニブの臨床試験 (FIGHT-202試験) ³⁾でもFoundationOneがプレスクリーニングに用いられた。
ペミガチニブは2週間内服後に7日間の休薬期間がある。 そのため、 高リン酸血症の頻度がフチバチニブよりも少なくなっている。
フチバチニブは1錠が4mgであり、 1回に5錠を内服する。 有害事象のレベルに応じて、 2段階減量の12mgまで調整可能である。
ペミガチニブ
1日1回13.5mgを14日間内服した後、 7日間休薬を1サイクルとし、 投与を繰り返す。
フチバチニブ
1日1回20mgを空腹時に内服する。
両薬剤の治療効果に大きな差は見られていないが、 フチバチニブではPFSがやや良好である。
ペミガチニブ³⁾ フチバチニブ⁴⁾
ORR 35.5% 41.7%
mOS 21.1ヵ月 21.7ヵ月
mPFS 6.9ヵ月 9.0ヵ月
FGFRは多くの変異が報告されているが、 フチバチニブは変異に対しても活性を認めることが示されている⁴⁾。 このことから、 ペミガチニブに治療効果を示さない症例にも、 フチバチニブは効果を示す可能性が示唆される。
なお、 この理由の一つとして、 ペミガチニブはATP競合性の可逆的FGFR阻害薬である一方、 フチバチニブは共有結合型の不可逆的FGFR阻害薬であり、 その他のFGFR阻害薬耐性となったFGFR2遺伝子融合を有する胆道癌でも有効である可能性が報告されている。
ペミガチニブ³⁾ フチバチニブ⁴⁾
高リン酸血症 55% 85%
脱毛 46% 33%
味覚障害 38% 18%
口渇 29% 30%
有害事象のプロファイルは両薬剤間で大きな差はないが、 ペミガチニブでは高リン酸血症の頻度がやや少なくなっている。
ただし、 高リン酸血症は炭酸ランタンの内服で軽減することが知られている。 併せて薬剤の減量も実施することで、 管理可能な有害事象である。
このほかに、 爪障害や眼障害などが特徴的な事象として報告されている。
眼障害は化学的な有害事象であるため、 視力低下などの症状がみられる場合には速やかに専門家に相談し、 薬剤の休薬を検討する必要がある。
令和6年度薬価基準改定に準ずる抗癌薬のみの金額で計算する。 1点10円換算の場合、 ペミガチニブは1年間で約1,700万円、 フチバチニブは1年間で約1,800万円である。
本邦では医療費が高額になると「高額療養費制度」 が利用でき、 医療費の自己負担を軽減することができる。 医療経済の観点からは、 有効性と安全性に加え、 「コスト」も重要な要素の一つとなる。
1点10円換算での比較の目安*
薬物療法の選択肢が少ない胆道癌において、 FGFR阻害薬はキードラッグとなる可能性がある。 使用頻度は少ないかもしれないが、 正しく診断し治療薬の投与を行うことが、 予後改善につながる可能がある。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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