【呼吸器感染症領域】2024年10月の注目論文3選 (中島啓先生)
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亀田総合病院

4日前

【呼吸器感染症領域】2024年10月の注目論文3選 (中島啓先生)

【呼吸器感染症領域】2024年10月の注目論文3選 (中島啓先生)
呼吸器感染症領域で注目度の高い論文を毎月3つ紹介するシリーズです。 2024年10月に注目度が高かった呼吸器感染症関連の論文を3つご紹介します。

RSVワクチン、 60歳以上の成人の重症化予防に有効

Lancet. 2024 Oct 19;404(10462):1547-1559.

Respiratory syncytial virus (RSV) vaccine effectiveness against RSV-associated hospitalisations and emergency department encounters among adults aged 60 years and older in the USA, October, 2023, to March, 2024: a test-negative design analysis.

RSVワクチンのRWDは限定的

現在日本でも2つのRSVワクチンが接種可能となっています。 組換えRSVワクチンであるアレックスビーとアブリスボ®の2製剤です。 これまでRSVワクチンは、 臨床試験において下気道疾患に対する効果が確認されていましたが、 リアルワールドにおけるデータ(RWD)は限られていました。 本研究では、 検査陰性デザイン解析を用いた大規模なデータベースにおいて、 RSVワクチンの有効性が示されました。

RSV検査を受けた60歳以上を対象に解析

2023年10月1日~24年3月31日における米国の8つの州の電子健康記録ネットワークを用いて、 RSV様の疾患で入院または救急外来を受診し、 RSV検査を受けた60歳以上の成人を対象に陰性対照デザイン解析を実施しました。

ワクチン接種状況は、 電子健康記録、 州および都市の予防接種登録、 ならびに一部のサイトでは医療請求データから取得しました。 年齢、 人種・民族、 性別、 カレンダー日、 社会的脆弱性指数、 非呼吸器系基礎疾患の数、 呼吸器系基礎疾患の有無、 地理的地域などを調整した上で、 RSV陽性の症例患者とRSV陰性の対照患者のワクチン接種率を比較し、 ワクチンの有効性を推定しました。

RSV関連の入院・救急外来受診を予防

免疫抑制状態でない60歳以上の成人2万8,271例のRSV様疾患による入院において、 RSV関連の入院に対するワクチンの有効性は80% (95%CI 71-85%) であり、 重症疾患 (ICU入院や死亡) に対しても81% (同52-92%) の有効性を示しました。

免疫抑制状態にある8,435例に対しても、 RSV関連の入院に対するワクチンの有効性は73% (同48-85%) で確認されました。 また、 救急外来を受診した3万6,521例のうち、 RSV関連の救急外来受診に対するワクチンの有効性は77% (同70-83%) でした。

これらの有効性は年齢層や製品タイプを問わず一貫していました。 本研究は、 RSVワクチンが2023~24年シーズンにおいて、 60歳以上の成人に対するRSV関連の入院および救急外来受診を有効に予防できることを示しました。

💬My Opinions

CDCは高齢者・呼吸器疾患患者ヘの接種を推奨

今回の研究により、 リアルワールドのデータにおいても、 RSV関連入院や救急外来受診に対するRSVワクチンの予防効果が証明されました。 米疾病予防管理センター (CDC) は75歳以上の高齢者,60歳以上の基礎疾患のある者にRSVワクチンの接種を推奨しています。 日本においてはまだ明確な推奨は出ていませんが、 私もCDCのガイドラインに準じて,高齢者、 呼吸器疾患患者に対して、 RSVワクチンを積極的に推奨しています。

Long COVIDの測定を臨床試験の指標に入れるべき理由

J Infect Dis. 2024 Oct 16;230(4):789-796.

The Importance of Including Long COVID Outcomes When Developing Novel Treatments for Acute COVID-19.

Long COVIDは個人への負担や社会的コストが高い

急性COVID-19に対する有効な治療法の開発が進む一方で、 COVID-19罹患後症状 (Long COVID) を重要なアウトカム指標として評価する必要性が広く認識されつつあります。 7月にもNEJM誌で 「デルタ以前、 デルタ、 オミクロン時代におけるLong COVID」 という論文¹⁾が出版され以前の記事でも紹介させて頂きました (【呼吸器感染症領域】2024年7月の注目論文3選)。

Long COVIDは、 感染後長期間にわたり症状が続く病態であり、 個人への負担や社会的コストが高いため、 その予防策を検討することが重要です。

Long COVID測定を取り入れるべき理由をレビュー

本論文は、 急性COVID-19治療に関する臨床試験でLong COVIDの測定を取り入れるべき理由を検討するレビュー記事です。 著者らは、 7つの主要な理由を挙げ、 これに基づき臨床試験デザインの改善点を提案しています。

Long COVID測定を考慮すべき7つの理由

Long COVIDを考慮すべき7つの理由として以下が挙げられています。

  1. Long COVIDはまれではない
  2. Long COVIDは個人にとって衰弱性が高く、 社会的コストも大きい
  3. 重症化リスクが高い人々は、 COVID-19に感染した場合、 Long COVIDのリスクも高い
  4. 急性COVID-19治療はLong COVIDのリスクを低減する可能性がある
  5. Long COVIDを追跡するための測定手段は既に存在する
  6. Long COVIDの考慮は急性COVID-19治療の意思決定に重要となり得る
  7. COVID-19による死亡および入院は減少しているため、 治療評価の基準が変化している

著者らは、 臨床試験のエンドポイントとしてLong COVIDを取り入れることで、 Long COVIDの社会的負担を軽減する治療の普及が促進されると主張しています。 急性COVID-19の治療を評価する際、 Long COVIDの発症を考慮することは、 個々の患者の健康管理および公衆衛生において重要な意味を持ちます。 将来的には、 Long COVID予防に有効な急性期治療が増えれば、 社会的負担の軽減が期待されます。

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急性COVID-19治療研究ではLong COVIDも評価すべき

急性COVID-19に対する治療法の開発が進む中で、 Long COVIDへの対応が重要なアウトカム指標として認識されつつあります。 Long COVIDは決してまれではなく、 患者個人にとっても社会的に見ても重大な影響をもたらすため、 個人的にも、 今後は急性COVID-19治療の臨床研究のエンドポイントに含まれるべきと考えます。

CAPで入院した成人の肺炎球菌性肺炎の流行と血清型分布を調査

Clin Infect Dis. 2024 Oct 15;79(4):838-847.

Prevalence, Clinical Severity, and Serotype Distribution of Pneumococcal Pneumonia Among Adults Hospitalized With Community-Acquired Pneumonia in Tennessee and Georgia, 2018-2022.

血清型の理解はワクチン接種の意義を考える上で重要

肺炎球菌には100種類の血清型があり、 市中肺炎 (CAP) を起こす肺炎球菌の血清型を理解することは、 肺炎球菌ワクチン接種の意義を考える上で重要です。 新しい肺炎球菌ワクチンが小児に導入されると血清型置換が生じるため、 継続的に肺炎球菌の血清型を評価し続ける必要があります。 本研究では、 米国の最新の市中肺炎、 肺炎球菌性肺炎の疫学データが報告されました。

CAPで入院した成人を対象とした前向きサーベイランス研究

2018年9月1日~2022年10月31日に、 米・テネシー州とジョージア州の3つの病院で、 CAPにより入院した18歳以上の成人を対象とした前向きサーベイランス研究を実施しました。 肺炎球菌の原因診断には、 培養、 尿中又は髄液中の肺炎球菌莢膜抗原を検出する迅速診断キット (BinaxNOW™️) による尿抗原検出検査、 および試験中のV116ワクチンや既存のPCV15およびPCV20 (血清型15Bを除く) の30種類の血清型を特定する尿抗原検出アッセイを使用しました。 血清型の分布は、 これらの血清型特異的な尿抗原検出結果に基づいて計算されました。

約1/3はPCV15やPCV20に含まれていない血清型

CAPで入院した2,917例の成人のうち、 352例 (12.1%) で肺炎球菌が検出され、 その中には侵襲性肺炎球菌性肺炎の患者51例 (1.7%) が含まれていました。 最も頻繁に検出された8つの血清型は、 3、 22F、 19A、 35B、 9N、 19F、 23A、 11Aでした。

2,917例の成人患者のうち、 272例 (9.3%) でV116 (21価肺炎球菌結合型ワクチン) に含まれる血清型が検出され、 PCV20 (沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン) に含まれる血清型は196例 (6.7%)、 PCV15 (沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン) に含まれる血清型は168例 (5.8%) でした (p<0.001)。 PCV15やPCV20には含まれないが、 V116に含まれる血清型は120例 (4.1%) で検出され、 全血清型検出の38.0%を占めていました。

CAPで入院した成人の約12%に肺炎球菌が検出され、 その約1/3はPCV15やPCV20に含まれていない血清型でした。 新しい血清型カバー範囲を拡大した肺炎球菌ワクチンの開発は、 疾患負担を大幅に軽減する可能性があります。

💬My Opinions

V116はPCV15、 20よりも多くの血清型をカバー

米国の2つの州でCAPで入院した成人患者を対象に行われた本研究は、 肺炎球菌ワクチンの影響を評価する上で重要な知見を提供しています。 新しいワクチンV116がPCV15やPCV20よりも多くの血清型をカバーしていることが示されました。 ただし、 この研究は、 21価肺炎球菌結合型ワクチンを開発したMSDがサポートしており、 解釈には注意は必要です。

日本でも8月に承認されたPCV20の接種を推奨

日本では、 PCV20が2024年8月に承認されたばかりであり、 PCV21は現在も未承認です。 私は現段階では、 23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチンと血清型のカバー範囲が同等で、 免疫原性はより優れるPCV20の接種を積極的に推奨しております。 CDCの予防接種諮問委員会は2024年9月からPCV21をPCV20と並列の位置づけで推奨しています。

出典

  1. N Engl J Med. 2024 Aug 8;391(6):515-525.

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連絡先 : 主任部長 中島啓

メール : kei.7.nakashima@gmail.com

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