Beyond the Evidence
9ヶ月前
「Beyond the Evidence」 では、 消化器専門医として判断に迷うことの多い臨床課題を深掘りし、 さまざまなエビデンスや経験を基に、 より最適な解決策を探求することを目指す企画です。 気鋭の専門家による充実した解説、 是非参考としてください。
胆道癌のゲノム医療をどのように実践すべきか
− 遺伝子パネル検査の意義
− 遺伝子パネル検査のための連携
− 遺伝子パネル検査の紹介タイミング
− 日常臨床で用いられる標的治療
− その他に注目される標的治療
胆道癌は海外の一部では「第2の非小細胞肺癌」と呼ばれるほど標的となり得る遺伝子異常が豊富で、 これまでに複数の薬剤が標的治療として承認されてきています。
一方で、 肺癌のように早期からゲノム医療が普及していた領域ではなく、 一般消化器内科あるいは外科の先生が薬物療法も担当されていたり、 がんゲノム医療拠点・連携病院外で薬物療法が行われているケースも多くなっています。
このため、 胆道癌患者さんに有効な薬剤を効率よく届けるには、 更なる遺伝子パネル検査の普及やその結果に基づく治療機会の提供が必要と考えています。 本稿では遺伝子パネル検査の意義や紹介タイミング、実際の治療について解説します。
この感覚が胆道癌の薬物療法を行う上で重要です。 確かにそれぞれの遺伝子異常の頻度は数~十数%であるものの、 その合計では数十%の頻度となるため、 胆道癌の薬物療法に際しては遺伝子パネル検査の実施は必須といえます。
また、 例えばFGFR2融合/再構成に対するFGFR2阻害薬の全生存期間 (OS) 中央値は、 2次治療以降であるにもかかわらず20ヵ月を超え、 1次治療の無増悪生存期間 (PFS) 中央値が約7ヵ月なことを加味すると、 1次治療開始時点からのOS中央値は2年を優に超えるものとなっています。
1次治療のGCD療法 (ゲムシタビン+シスプラチン+デュルバルマブ) のOS中央値が概ね1年であることを考えれば倍以上の開きがあります。 遺伝子パネル検査を行わないことで患者さんの治療機会を逸することは絶対に避けなければならないと考えています。
一方、 内視鏡や手術で忙しい消化器内科あるいは外科の先生が遺伝子パネル検査を出すことには多くの制約があること、 そもそも拠点病院や連携病院以外では検査ができないことは十分に承知しており、 筆者は、上記を提案しています。
すなわち、 消化器内科や外科の先生方に代わり、 私ども胆膵腫瘍内科医が検査だけ担当させて頂ければという発想です。 もちろん見つかった標的に対する治療は患者さんの通院負担等を加味しても地元で行うことが望ましく、 拠点病院では検査と結果説明の外来のみで、 あとは詳細な治療方針と共に先生方のもとに患者さんをお返しできればと思います。
多くの標的治療は2次治療で行うことが望ましく、 ご紹介は 「1次治療中」 が良いと考えますが、 もちろんどのタイミングでも結構です。 融合/再構成などは組織パネルが望ましいので、 手術や生検検体の未染色スライドが25枚あると最適です。 ただし、 リキッドでの検査でもG360やF1Lの解析も可能ですので組織がなかったり、 または少ない場合でも大丈夫です。
地域の拠点病院がうまく見つからない、 または患者さんが希望されない場合は、 どうぞ筆者 「国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科 大場彬博」 宛にご紹介下さい。 何名でも対応可能ですし、 大歓迎です。 ぜひ全ての胆道癌患者さんに遺伝子パネル検査とそれに基づく標的治療が届けられる世界を先生方と一緒に創っていければと考えています。
ペミガチニブ療法 >>詳しく見る
フチバチニブ療法 >>詳しく見る
胆道癌で最も進んでいるのはFGFR2遺伝子融合/再構成に対するFGFR阻害薬です。 既に国内でも上記の2剤が使用可能となっており、 ペミガチニブはFIGHT-202試験¹⁾、 フチバチニブはFOENIX-CCA2試験²⁾で、 有用性が確認されています。 また、 開発中のものも多く、 今後臨床導入されてくるものと考えられます。
ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法
癌種横断的に使用可能な標的治療としては、 BRAF V600E変異に対するダブラフェニブ・トラメチニブ併用が挙げられ、 ROAR試験³⁾において胆道癌の有効性が示されています。
エヌトレクチニブ療法
ラロトレクチニブ療法
NTRK遺伝子融合については、 上記の2つのNTRK阻害薬が使用可能で、 それぞれ複数の第Ⅰ/Ⅱ相試験の結果⁴⁾⁵⁾が根拠となっています。
ペムブロリズマブ療法
高頻度マイクロサテライト不安定性 (MSI-H) または高い腫瘍遺伝子変異量 (TMB-H) を有する癌に対してはペムブロリズマブが使用可能であり、 KEYNOTE-158試験⁶⁾⁷⁾がその根拠となっています。
日常診療には導入されていないものの注目されている治療としては、 HER2陽性に対するHER2阻害薬があり、 これまでに複数の有効性の報告があります。 またIDH1変異に対するivosidenibもClarIDHy試験で有用性が示されていますし、 MDM2阻害薬、 PARP阻害薬などの開発も注目されています。
これらのように臨床導入されているものでも複数あり、 開発中のものも含めると多数ありますし、 ここで紹介できないような治験なども含めると、 消化器内科あるいは外科の先生が全ての情報に追いつくいていくのは難しい現状があるのかなと思います。 ぜひこの部分も拠点病院にご紹介頂ければ、 治療方針や治験の情報含め先生方とご共有することが可能と思いますので、 ご検討頂ければ幸いです。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。