HOKUTO編集部
2年前
胃・食道癌領域において、 治療ガイドラインに確実に影響があると思われる3編の論文を紹介する (2023年5月版)
進行胃癌に対する腹腔鏡下幽門側胃切除術と開腹胃切除術の5年生存率
▼これまでの知見
Stage Ⅰ胃癌を対象に、開腹幽門側胃切除術(ODG)に対する腹腔鏡下幽門側胃切除術(LADG)の非劣性の成績については、国内外を問わず共通認識となっており、LADGは標準手術の第一選択として広く普及している。一方、Stage II,III胃癌におけるLADGのODGに対する非劣性については、国外からの報告では担保されているが、本邦ではJLSSG0901 試験の結果が報告されるまでは最終判断を留保する、というのが実地診療における共通認識であった。
▼新たな知見
その意味でも今回待望の最終報告が公表されたことになる。結果、事前の作業仮説通りに、非劣性が証明された。
すでに実地診療では、Stage II/III症例に対してLADGが広く施行されている状況ではある。本論文と日本胃癌学会の速報により、一定の技術水準が客観的に担保されることが必要不可欠ではあるものの、今後LADGが標準術式として、さらに普及してゆくものと思われる。特に比較的症例数の少ない施設においては、対象患者への術前説明における根拠資料として、非常に有意義な論文といえる。
進行性または転移性の食道扁平上皮癌に対する一次治療としてのTislelizumab+化学療法とプラセボ+化学療法の比較(RATIONALE-306)
▼これまでの知見
国際第Ⅱ相試験KEYNOTE-180(ペムブロリズマブ単剤) および 国内第Ⅱ相試験ATTRACTION-1(ニボルマブ単剤)によって、進行再発食道扁平上皮癌に対する二次療法として、抗PD-1抗体単剤療法が標準治療となった。
さらに、国際第Ⅲ相試験KEYNOTE-590 および 国際第Ⅲ相試験CheckMate 648の結果から、ペムブロリズマブあるいはニボルマブの化学療法への上乗せ効果が証明された。
中国発の新たな抗PD-1抗体であるtislelizumabについて、食道扁平上皮癌の二次治療における有効性を検証した第Ⅲ相試験RATIONALE-302では、tislelizumab群の化学療法群に対する優越性が示された(J Clin Oncol 2022; 40: 3065-3076)。
▼新たな知見
本論文では、食道扁平上皮癌の一次治療において化学療法へのtislelizumabの上乗せ効果を検証したプラセボ対象第Ⅲ相ランダム化比較試験RATIONALE-306の結果から、tislelizumab併用群は、化学療法単独群に対して、6~7か月近い全生存期間(OS)の有意な上乗せ効果があることが証明された。
なおRATIONALE-306試験では、PD-L1発現を陽性細胞面積比(TAP; tumor area positivity)でスコア化している。従来のTumor proportion score (TPS)やCombined positive score (CPS)と異なる客観的指標が採用されている。また併用する化学療法のレジメンは、先行している2種類の抗PD-1抗体とは若干異なっている。これらの前提条件を慎重に評価して、3種類の抗PD-1抗体をどのような症例にどのように使用するのが最適であるかについては、今後議論する必要がある。
HER2陰性CLDN18.2陽性で切除不能な胃・胃食道接合部腺癌の一次治療としてzolbetuximab+FOLFOX併用療法を検証(SPOTLIGHT)
▼これまでの知見
Zolbetuximabは、 膜貫通型タンパク質 Claudin 18.2 を標的として結合するモノクローナル抗体 (新規分子標的薬) である。
第Ⅲ相試験SPOTLIGHTでは、HER2陰性かつCLDN18.2陽性の切除不能な局所進行性または転移性の胃・胃食道接合部腺癌の一次治療において、zolbetuximabとFOLFOX併用療法の有効性および安全性が検証された。
すでにzolbetuximabの第Ⅱ相試験FASTにおいて、EOX療法(エピルビシン、オキサリプラチン、カぺシタビン)への良好な上乗せ効果が報告されていたため、今回は待望の第Ⅲ相試験結果であった。
▼新たな知見
SPOTLIGHT試験の結果、作業仮説通り、FOLFOX併用療法へのzolbetuximabの有意な上乗せ効果が証明された。
現時点では、HER2陰性胃癌に対してニボルマブ+化学療法が一次治療の第一選択となっているが、PD-L1低発現あるいは陰性症例でのニボルマブの上乗せ効果が乏しいことから、PD-L1陰性症例でCLDN18.2陽性であれば、zolbetuximabの上乗せ効果がニボルマブを凌駕する可能性が高い。CLDN18.2は、胃粘膜上皮細胞に選択的に発現していることから、特に手術不能の初発胃癌においてグレード3/4の吐き気と嘔吐が若干の懸念材料である。
今後、HER2陰性PD-L1陽性胃癌に対する一次治療としてニボルマブ+化学療法を選択するか、あるいはzolbetuximab+化学療法を選択するか、という議論が必要となる。
ニボルマブは二次治療以降でも十分な延命効果が証明されていることから、zolbetuximab+化学療法を一次治療で用いて、ニボルマブを二次治療以降に温存する、という考え方が提案される可能性もある。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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