医療の最前線から
3ヶ月前
世界中の注目レビュー論文を紹介する新連載 「医療の最前線から」 です。 今回は、2024年のESMO Open誌に掲載された「HER2低発現胃癌」に関するレビュー論文を取り上げます。 本発表に関して、 筆頭著者でがん研有明病院消化器化学療法科副医長の下嵜啓太郎先生にコメントをいただきました。
💡HER2-low胃癌の臨床病理学的特徴について
💡HER2-low胃癌の免疫原性について
💡HER2-low胃癌に対する治療開発の現状
💡HER2状態の正確な評価と再定義について
原著論文で詳細を確認する
HER2-low gastric cancer: is the subgroup targetable? ESMO Open. 2024年8月22日オンライン版 PMID: 39178538
近年、 胃癌における個別化治療が目覚ましい発展を遂げ、 ステージ4では4つのバイオマーカー(HER2、 Claudin 18.2、 MMR、 PD-L1)を確認して治療方針を決定することが求められる。
HER2-lowは2+/ISH陰性または1+と定義されるが、 T-DXdが快進撃を続けている乳癌領域で新しいサブグループとして認識されるようになった。 乳癌においてはHER2-lowに対するT-DXdが標準治療に対する有効性を示している。 翻ってHER2陽性胃癌に目を向けてみると、 HER2陽性乳癌の治療開発を追随するように治療可能性が検討されてる中で、 ADCの登場とともにHER2-low胃癌の治療可能性が模索されてきた。
まず本論文で最も強調したいこととして、 HER2-low胃癌は、 このサブグループが 「独立した分子生物学的特徴を有するサブグループとして認識できるか? (=distinguishable) 」 と 「抗HER2薬の治療標的となり得るか? (=targetable) 」 という点は分けて議論されるべきという点である。
HER2-low胃癌がHER2-high (論文中では3+ or 2+/ISH+と定義) とは異なる集団であることは間違いなく、 重要な点はHER2-null (IHC 0)と区別可能な(distinguishable)サブグループなのかどうかである。 既報では臨床病理学的因子や、 遺伝子発現、 微小免疫環境についての明らかな差は認められなかった。 この点では、 既存のIHCに基づいたHER2の定義を用いてHER2-lowを新しいサブグループとして分類可能であるかどうかに現時点で明確な答えはないと考える。 しかしながら、 定性的な評価ではなくHER2タンパクの量的評価、 さらにはmRNA発現レベルなど別の尺度を用いることによって、 HER2をより正確に再定義・細分化し、 HER2-lowが分類可能になるかもしれないと筆者は考える。
HER2-low胃癌の治療標的(targetable)としての可能性については、 DESTINY-Gastric01試験の探索コホートにおけるT-DXdの有効性が報告されている¹⁾。
現時点でHER2-low胃癌に対して一定の効果を示唆している代表的な薬剤はADCであるが、 これはADC技術の発展により、 胃癌細胞膜上におけるHER2の発現が低発現であっても、 HER2に対する抗体親和性を向上させることでペイロードをより効率的に腫瘍細胞へデリバリーできている事象を観察しているだけかもしれない。 また、 ADCのペイロードが体内循環することである程度の抗腫瘍効果を示す可能性も報告されている。
HER2-low胃癌におけるHER2 signaling pathwayへの依存度が少なくともHER2-low乳癌と異なることは明らかであり、 このことは既存の抗HER2薬のみではHER2-low胃癌に対して十分な効果が期待できないことのみならず、 HER2-low胃癌がdistinguishableかどうかという議論にも通じるだろう。
次世代ADCを中心とした抗HER2薬と免疫チェックポイント阻害薬など他薬剤との併用によって、 HER2-low胃癌に対するより高い効果が期待できるかもしれない。 またbispecific or trispecific T cell engagerなどユニークで新しい抗体薬の開発においてもHER2-low胃癌への有効性が探索的に検討されており、 今後さまざまなデータが蓄積されることが期待される。
以上、 本レビューではHER2-low胃癌のdistinguishabilityは確立されていないものの、 新規薬剤の登場によってそのtargetabilityは探索的に検討されていることを述べ、 期待される治療開発の現状について概説した。
出典
1) Yamaguchi K et al, J Clin Oncol. 2023; 41: 816-825
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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