HOKUTO編集部
5ヶ月前
聖路加国際病院の藤野貴久先生による、 血小板減少マネジメントの連載第3回!今回は、 血小板減少を生じる、 緊急性が高く特別な対応が必要な疾患について解説します。
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血小板減少を見たら、 どんな症例でもまず以下の5疾患を鑑別する。 この5疾患は、 一刻を争う可能性があるため、 事前に特徴を覚えておき、 すぐに精査する準備をしておく。
❶ 血栓性微小血管症 (TMA)
❷ ヘパリン起因性血小板減少症 (HIT)
❸ 播種性血管内凝固症候群 (DIC)
❹ 免疫性血小板減少性紫斑病 (ITP)
❺ 急性白血病 (特に急性前骨髄球性白血病APL)
なお、 Evans症候群、 膠原病なら抗リン脂質抗体症候群 (特にcatastrohic APS)、 妊婦ならHELLP症候群なども、 重要な疾患である。
TMAは、さまざまな原因によって微小血管内に血小板血栓が生じ、 次いで赤血球が破砕され溶血性貧血を呈する病態の総称である。
さまざまな臓器の虚血症状が起こるが、 特に腎機能障害と中枢神経障害が有名である。 血小板減少、 破砕赤血球を伴う溶血性貧血、 発熱、 腎障害、 動揺する中枢神経症状をあわせて「Moschcowitzの5徴」 という。
TMAの代表的3病型が、 血栓性血小板減少性紫斑病 (TTP)、 志賀毒素産生性大腸菌感染による溶血性尿毒症症候群 (STEC-HUS)、 補体制御異常による非典型溶血性尿毒症症候群 (aHUS) である。
TTP (ここでは後天性TTP) では、「血漿交換を行うかどうか」 が患者の命運を分けることになる。 TTPであるのに血漿交換が遅れると、 非常に予後が悪くなる。
一方、 ADAMTS-13関連検査は、 結果が判明するまでに数日待たなくてはならない。 その間に血漿交換を導入するべきかどうかの判断を下すためのツールとして🔢PLASMICスコアと🔢Frenchスコアがある。 PLASMICスコアだけでも知っておきたい。
TMAは基本的に血栓性疾患であり、 血小板輸血は病態を増悪させるのでほぼ禁忌である。 致死的出血が起こっていない限り、 血小板輸血はしない。
名前は有名だが、 しっかり理解して診療している人が少ない印象がある。 HITを疑ったら🔢4T'sスコアでHITらしさを評価し、 高リスクであるならHIT抗体を提出する。
なお、 HIT抗体提出後は、 結果が判明するまでヘパリン投与禁止とする。 ルートロックのためのヘパリンも禁止である。
HIT抗体が陽性である場合は、 HITである可能性があるが確定診断ではない。 確定診断のためには、 HIT抗体が本当にHITを起こしているかどうかの機能的確定検査が必要である。
しかし、 コマーシャルベースでは検査できないため、 専門施設への検体送付を検討する。
HITは血栓性疾患であるため、 出血症で困ることはほとんどない。 そのため、 血小板輸血することは稀である。 むしろ血栓症が起こっていないか精査を怠らないこと。 透析回路の詰まりやすさなどが、 HITの唯一の症状であることもある。
DICに対する画期的と言える治療法はない。 ほとんどが弱いエビデンスに基づく治療であり、 唯一確かな治療は 「原疾患の治療」 である。
最も大事なことはDICに気付き、 正しく評価し、 血栓症/出血症に注意を払うことである。
診断基準はいくつかあるが、 日本血栓止血学会が策定した 🔢日本血栓止血学会DIC診断基準 2017年版を勧めたい。 病型ごとに診断基準を変えるなどの工夫がなされているため、 どの診療科の医師にも使用しやすい。
線溶抑制型DICは血栓症による臓器障害、 線溶亢進型DICは出血症が主な症状である。
特に線溶亢進型DICは出血の高リスクであるため、 血小板数2~3万/μLを維持するように輸血閾値を低くする。
特に、 急性前骨髄球性白血病 (APL) は線溶亢進型DICがほぼ必発であり、 出血のリスクがかなり高い。
血液内科医はよく出会う疾患である。 血小板が5,000/μL未満となり、 カウント不能となることも多い。
ただし、 凝固障害は伴わないため、 数値の印象ほどの重症出血は多くない。 圧迫できる出血であれば、 圧迫によって凝固が働き止血できる。
初期治療は副腎皮質ステロイドによる免疫抑制療法と、 短期的に血小板上昇を期待する免疫グロブリン大量療法(いわゆるIVIg)がある。 前者は1~2週間、 後者は数日で効果が表れる。
IVIgを投与することで輸血反応性も現れるため、 重症出血が起こっても対応しやすい。
急性白血病は誰でも知っている疾患で、 疑った際には速やかに血液内科へコンサルテーションされるはずである。 非専門家からしたら肝が冷える疾患の1つであろう。
急性白血病を疑ったら、 まずは「感染症」と「出血」に注意することが重要である。
感染症に関しては、 急性白血病が疑われる状態で発熱がある場合は、 発熱性好中球減少症 (FN) として扱うべきである。 一刻も早く血液培養を2セット採取し、 緑膿菌活性のある静注抗菌薬を開始する。
感染症よりさらに緊急性があがる病態が出血である。 急性白血病の出血傾向が危ない理由として血小板減少、 DIC、 感染症が挙げられるが、 特に重要なのはDICである。
急性白血病はDICの代表的な基礎疾患であり、 かつ線溶亢進型DICを起こしやすい。 特に急性前骨髄球性白血病 (APL) は、 線溶亢進型DICがほぼ必発である。 血小板減少にDICを伴うと、 出血リスクが跳ね上がる。 極論ではあるが、 急性白血病の初発時はDICが合併しているか否かで緊急性が格段に変わる。
また、 敗血症などの感染症を合併していると出血リスクがさらに上がる。 特に頭蓋内出血が起きると、 手術が難しいため致死的である。
治療法は以下の通りである。
急性白血病でDICを合併
- 血小板 2~3万/μLを維持するように輸血
APL
- 血小板3~5万/μLを維持するようにPC輸血
- Fbg 150mg/dL以上を保つようにFFP輸血
- リコンビナントトロンボモジュリンを考慮
当然だが、 DIC治療の大原則は「基礎疾患の治療」である。 速やかにAPLに対する治療を始めるべきであることは言うまでもない。
なお、 敗血症型DICは線溶抑制型DIC (血栓症による臓器障害が主症状) が多い。 そのため、 出血症は意外にも多くない。
💡 緊急性のある疾患を覚えておく
💡 これらの疾患のスクリーニング方法、 リスク評価法・診断・治療を知っておく
💡 それぞれの疾患が血栓症なのか、 出血症なのかを知っておく
<出典>
J Thromb Haemost. 2018;16(1):164-9.
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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