【腎障害】抗菌薬後のCr上昇に潜む 「血行動態の罠」
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HOKUTO編集部

25日前

【腎障害】抗菌薬後のCr上昇に潜む 「血行動態の罠」

【腎障害】抗菌薬後のCr上昇に潜む 「血行動態の罠」
抗菌薬投与後にCrが上昇した際、 安易に 「薬剤性腎障害」 と判断していないだろうか?薬剤性腎障害は単一の検査で見抜くことができず、 診断は難しい。 腎臓内科医はどのように鑑別し診断するのか、 その思考ロジックを解説する。 

症例

抗菌薬投与後にCrが上昇

82歳男性。 2~3日前から食思不振があり、 今朝から発熱したために来院した。 肋骨脊柱角 (CVA) 叩打痛あり、 尿のグラム染色ではグラム陰性桿菌が認められた。 主な臨床所見は以下の通り。

バイタルサイン : 血圧 110/60mmHg、 心拍数 95bpm、 SpO₂ 95%、 呼吸回数 20回 (室内気)

検査値 : Cr 0.9mg/dL、 CRP 11.2mg/dL

エコー : 明らかな閉塞起点なし。

腎盂腎炎と診断し、 入院加療。 シプロフロキサシン200mg×2/日で治療開始したところ、 2日目にCrが0.9mg/dLから1.4mg/dLへ上昇したため腎臓内科コンサルトとなった。

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Dr.長澤の思考プロセス

本症例は 「薬剤性腎障害というのは少々難しい」 と考える。

想定される2つの可能性

思考の天秤にかけるのは、 以下の2つの可能性である。

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薬剤性腎障害の可能性

入院中は薬剤を使うことが多いため、 腎機能が動くと 「薬剤性腎障害かも?」 と考えがちである。

実際はどうなのだろうか?日本の医薬品副作用報告データベース (JADER) を用いた研究¹⁾による、 薬剤性の急性腎障害を起こしやすい上位6薬剤を以下に示す。

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ROR : 報告オッズ比
(著者提供資料より編集部作成)

まだまだ続くが、 シプロフロキサシンはそれほど腎障害を来すわけではないといえそうである。

なお、 本研究には記載がないものの注意するべき薬剤として、 バンコマイシンとピペラシリン/タゾバクタムの併用がある。 本邦でも急性腎障害の発症率が高いことが報告されている²⁾³⁾。

血行動態の問題である可能性

本症例の話をよく聞くと、 高血圧に対してバルサルタン80mgを内服しており、 入院後も継続されていた。 また、 食事があまり進まない状態であり、 カルテに「腰痛があったためにロキソニンを数回服用した」 と記載があった。

私の読みでは、 恐らくこれがCr上昇の原因だと考える。 いわゆる 「トリプルワーミー」 に近い病態である。 トリプルワーミーは 「レニン・アンジオテンシン系阻害薬 (RAA系薬)、 利尿薬、 NSAIDsの3剤併用」 のことをいうが、 臨床的には 「RAA系薬が入った状態で、 利尿薬による体液量減少、 NSAIDsによる輸入細動脈の収縮でGFRが下がり、 Crが上がった」 病態となる。

つまり、 トリプルワーミーの本質は薬剤の組み合わせではなく、 「体液量減少の際に、 輸入細動脈が締まらない状態」 になっているということである。

診断精度を高める視点

薬剤性腎障害の 「機序」 を理解する

抗菌薬による薬剤性腎障害は、 入院患者の急性腎障害 (AKI) の19~26%を占める重要な臨床課題とされている⁴⁾。 主な機序は急性尿細管壊死 (ATN)、 急性間質性腎炎 (AIN)、 尿細管内閉塞の3つとされる。

正確な診断をするには腎生検を行い判断する必要があるが、 あまり現実的ではない。 そのため、 実際には状況証拠で判断されることが多い。

微小な尿細管閉塞などは、 尿沈渣に何らかの結晶を認めれば推定できることがある。 ATNであれば、 尿沈渣に尿細管上皮細胞が認められると可能性が高まるだろう。

ただし、 これらは正確な診断ではないため、 やはり 「病歴」 が大事になる。

検査は補助に過ぎない

腎炎の鑑別の際、 尿中の好酸球やナトリウム排泄率 (FENa) などが診断の補助に使われることがあるが、 いずれも感度・特異度が低く、 解釈には注意が必要である。

尿中好酸球

薬剤性AINにおいて、 尿中好酸球は診断補助として用いられることがあるが、 1%をカットオフとした場合の感度は30.8%、 特異度は68.2%にとどまり、 診断精度は高くない⁵⁾。

また、 尿中好酸球は急速進行性糸球体腎炎や急性前立腺炎、 急性膀胱炎、 感染後糸球体腎炎などでも検出されることがあり、 さらにアテローム塞栓症や腎盂腎炎でも認められる。 そのため特異性は極めて低い⁵⁾⁶⁾。

FENa

FENaは、 前腎性AKIと腎性AKI (主にATN) の鑑別には一定の有用性があるが、 薬剤性腎障害の診断には直接的には役立たない。

一般に、 FENa<1%は前腎性AKIを、 FENa>1%は腎性AKI (ATN) を示唆するとされるが、 この指標は薬剤性AINとATNを区別するものではない。

メタ解析では、 FENa 1%をカットオフとした場合、 前腎性AKIとATNの鑑別において感度90%、 特異度82%と報告されている。 一方で、 利尿薬使用中や慢性腎臓病 (CKD) 患者では精度が低下し、 感度83%、 特異度66%にとどまる⁷⁾。

また、 薬剤性AINでは間質の炎症が主体であり、 尿細管機能が保たれている場合もあるため、 FENaが低値を示し、 前腎性AKIと誤認される可能性もある⁸⁾。

>> AKI、 FeNaの詳細はこちら

長澤氏解説

本症例への回答

本症例は血圧が100/65mmHgと低めであったため、 入院中にはバルサルタンを中止とした。 また、 NSAIDsは中止しアセトアミノフェンに変更していただいた*。

*NSAIDsとアセトアミノフェンの併用は避けた方が良いと考えている。

その結果、 3日目には解熱し、 Cr 0.87mg/dLと回復した。 その後、 シプロフロキサシンを7日間投与し、 元気に退院した。

シプロフロキサシンを被疑薬から完全に外すことはできないが、 血行動態的な問題が多かったと考える。

Dr.長澤のコメント

薬剤性腎障害は、 「これを行えば確定診断できる」 といえる、 便利な検査がないことが特徴と言える。

さまざまな薬剤を使用している場合には、 1つに決め打ちしないようなことが重要である。 もちろん、 非常に腎毒性が高い薬剤として知られているアミノグリコシドやアムホテリシンBは知っておく必要がある。

薬剤性腎障害のリスクとして、 慢性腎臓病 (OR 2.33) や貧血 (OR 4.10)、 NSAIDs使用 (OR 2.39)、 利尿薬使用 (OR 2.64)、 アルコール乱用 (OR 2.05) が報告されている⁹⁾。 また、 高齢者、 糖尿病、 高血圧などもリスクであることは知っておくと役に立つだろう。

患者が服用しているすべての薬剤をきちんと把握し、 バイタルの変化などをチェックして判断することが、 何よりも重要である。

【腎障害】抗菌薬後のCr上昇に潜む 「血行動態の罠」

<出典>

1) J Clin Pharm Ther. 2019; 44: 49-53.

2) J Infect Chemother. 2020; 26: 1026-1032.

3) Pharmazie. 2021; 76: 114-118.

4) Lancet. 2025; 405: 241-256.

5) Clin J Am Soc Nephrol. 2013; 8: 1857-62.

6) N Engl J Med. 1996; 334: 1448-60.

7) Clin J Am Soc Nephrol. 2022; 17: 785-797.

8) Am J Med. 1984; 77: 699-702.

9) Biomed Res Int. 2020: 9742754.


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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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