がん領域初の「リモート治験」、 成功の秘訣とは?
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HOKUTO編集部

1年前

がん領域初の「リモート治験」、 成功の秘訣とは?

がん領域初の「リモート治験」、 成功の秘訣とは?
愛知県がんセンターは昨年 (2022年) 2月、 がん領域の分野では国内初となる「かかりつけ病院と連携して行う完全リモート治験」を開始すると発表した。 ちょうど1年が経過した今月14日、 同センターは「リモート治験1周年報告会」を開催。 この画期的な取り組みを牽引している同センター薬物療法部医長の谷口浩也氏が、 取り組みでポイントとなった主な8点を報告した。

ALK阻害薬ブリグチニブの医師主導治験に導入

包括的がんゲノムプロファイリング検査 (がん遺伝子パネル検査) は、 日本では2019年6月に保険適用となった。 がんゲノム医療拠点病院に指定されている同センターでも、 がん遺伝子パネル検査を積極的に行なっており、 検討症例数も拠点病院内で最多の実績を誇るが、 治療に結び付く確率は4〜5%と低い。 また治療薬の候補が見つかっても、 遠方またはコロナパンデミックの影響などで治験実施施設への通院が負担となり、 治験参加を断念せざるを得ないケースもある。

こうした背景を踏まえて、 同センターではかかりつけ医療機関をパートナーとして、 全国のがん患者が治験実施施設に一度も来院することなく治験に参加できるという「完全リモート治験」の取り組みを開始した。 かかりつけ医療機関をパートナーとすることで、 患者は既に通院中の医療機関の担当医とともに安心して治験に参加できることが期待される。

直近1年間でリモート治験が導入されたのは、 国内10施設が参加するALK融合遺伝子陽性の固形がん (非小細胞肺がんを除く) に対する次世代ALK阻害薬ブリグチニブの第Ⅱ相バスケット試験 (医師主導治験、 ) だ。 ALK陽性例の割合は、 非小細胞肺がんを除くと0.2%と報告されている。 当初は30カ月の登録期間に14例を集めることも無謀に思われたが、 患者の居住地近くに治験実施医療機関がない場合などは、 同センターでリモート治験を考慮することとされた。

がん領域初の「リモート治験」、 成功の秘訣とは?
谷口氏講演資料より引用

D to P with Dで即時の双方向のやりとりが可能に

谷口氏によると、 リモート治験で行われた工夫は、 主に以下の8点になる。

工夫① パートナー機関への業務委託活用

身体検査 (身長・体重、 バイタルサイン、 ECOG PS)、 血液検査、 CT検査など日常診療でも行われる行為は、 パートナー医療機関でも実施可能。 一方、 治験実施医療機関では、 有効性・安全性の評価や治験継続・中止の判断について、 パートナー医療機関からの情報を参考に評価・判断できることとした。

工夫② 被験者登録の促進としてC-CATレポートへの記載 

国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター (C-CAT) 調査結果において、 ALK陽性と判定された場合には、 WJOG15221M試験およびリモート治験実施の情報・連絡先が表示される仕組みが取り入れられた。 これにより、 ALK陽性が同定された施設 (エキスパートパネル) からほぼ100%同センターに連絡があった。

工夫③ パートナー機関との事前契約不要

候補患者の連絡から4週間以内に治験治療が開始できている。 このことから、 実際に候補患者が出てから施設間で契約締結する手順で差支えないと考えられる。

工夫④ パートナー機関は特別な準備不要

オンライン診療アプリが入ったタブレット端末を患者が持参。 パートナー医療機関は診察室 (面談室) のみの準備でOK。

工夫⑤ 紙媒体を用いたeConsent

説明同意文書を紙媒体で患者に郵送しておき、 オンライン診療下で説明同意。 もっとも古典的な方法だが、 これにより、 パートナー医療機関はeConsentシステムの導入費用・システムバリデーション等が不要。

工夫⑥ 郵送/FAXを最大活用する

パートナー医療機関からの情報は郵送またはFAXを用いて、 同センターで電子カルテ内に保管。 普段の診療でも行われている施設間の情報提供と同じ方法である。

工夫⑦ オンライン診療費用とお金の流れ

オンライン診療は自費診療で実施されるが、 治験負担軽減費を活用し、 患者負担を軽減した。 治験薬配送費用、 パートナー医療機関への業務委託費用は治験実施施設負担とし、 依頼者の費用負担が増えないよう工夫した。

がん領域初の「リモート治験」、 成功の秘訣とは?
谷口氏講演資料より引用

工夫⑧ 治験薬配送専門業者は不要とした

当局等との交渉により、 質が担保されれば治験薬配送専門業者を用いなくてもよいこととされた。 結果、 治験薬の被験者宅への配送費が従来に比べ10分の1に低減した。

これらの工夫により、 同試験の症例登録は順調に進んでおり、 現時点で6例が登録。 うち4例 (67%) がリモート治験の症例である。

同氏は「リモート治験の枠組みがあってこその現在の登録ペースだと考えている。 本来オンライン診療は患者の自宅でも可能だが、 かかりつけ医療機関と3者で行う診療“Doctor to Patient with Doctor (D to P with D) ”は即時の双方向のやりとりが可能であり、 結果的に費やす時間は短い。 メリットは大きいと実感している」と述べた。 特に、 希少がん診療の質向上に役立つことが期待される。

今後はこうした取り組みを、 経口薬以外の薬剤や治験以外の実地診療にどのように広げていくかは今後の課題であるという。

リモート治験のハードルは低い、 ぜひチャレンジを

最後に谷口氏は、 HOKUTO編集部の取材に対し、 「居住地が遠方で本来なら治験参加を諦めていた患者が、 リモート治験に参加でき治験薬により病状が改善することは大変嬉しく、 また、 それをかかりつけ医と一緒に共有できるのはリモート治験でしか得られない喜びです。 遠隔医療の新しい可能性を実感しました。 リモート治験は、 お金と設備が必要と勘違いされている先生も多いかも知れませんが、 実際はもっとハードルの低いものです。 先生方も是非、 リモート治験にチャレンジしてみてください」とコメントした。

こちらの記事の監修医師
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HOKUTO編集部
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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