HOKUTO編集部
17日前

2026年5月29日~6月2日に米国臨床腫瘍学会 (ASCO 2026) が開催されました。 今年のASCOでは、 診療を直ちに大きく変えるような"practice-changing"な試験結果は少なかったものの、 今後の治療戦略や臨床判断に影響を与える可能性のある興味深い報告が複数発表されました。 本稿では、 婦人科腫瘍領域における注目演題を紹介します。

国内でも既に進行・再発子宮体癌の1次治療に対して保険適用となっているパクリタキセル+カルボプラチン+ペムブロリズマブ (TC+PEM) 療法 (NRG-GY018試験¹⁾) の、 長期追跡結果が報告されました。 追跡期間中央値はミスマッチ修復機能欠損 (dMMR) 群で49ヵ月、 MMR正常 (pMMR) 群で44ヵ月でした。
全生存期間 (OS) のハザード比 (HR) は、 dMMR群で0.56 (95%CI 0.34–0.92)、 pMMR群で0.86 (95%CI 0.69–1.08) でした。
また、 試験後にICIを使用した症例の2次治療は、 dMMR群では免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 単剤68%、 pMMR群ではレンバチニブ+ペムブロリズマブ (LEN+PEM) 療法が74%を占めていました。
長期追跡でもOSベネフィットは維持
OSのHRでは、 特にdMMR症例において明確な生存メリットが示されました。 また、 dMMR群・pMMR群いずれも、 2次治療の治療選択には実臨床に近い治療状況が反映されていました。
「初回からICI導入」 の重要性を示唆
注目すべき点は、 対照群 (TC療法単独) において試験終了後のICI使用率がdMMR群で93.2%、 pMMR群で81.1%と極めて高率であったにもかかわらず、 OS曲線が交差しなかったことです。 この結果は、 ICIを再発後に使用するだけでなく、 初回治療から導入することの重要性を示唆していると考えられます。
また、 ICIが有効と考えられるdMMR症例においても、 対照群の中で試験後にICIを受けた症例は受けなかった症例よりOSが良好であった点も興味深いです (Log-rank p=0.0352)。 この結果は、 ICI導入のタイミングが予後に影響する可能性を示しています。
MMRのステータスにかかわらず、 進行・再発子宮体癌の1次治療にICIが導入されるようになった現在、 治療抵抗性となった後の2次治療戦略は重要な課題となっています。
本演題では、 米国を中心に構築された大規模リアルワールドデータベースであるTriNetXを用いて後方視的解析が行われました。 対象は、 進行・再発子宮体癌患者でICIを含む1次治療後にLEN+PEM療法を受けた527例と、 パクリタキセルまたはドキソルビシンによる化学療法を受けた2,582例です。 他の悪性腫瘍を有する患者は除外されました。
年齢や人種、 BMI、 主要併存疾患、 MSIステータス、 オラパリブ治療歴などについて傾向スコアマッチングが行われ、 最終的に各群521例が解析対象となりました。
患者背景は両群で概ね均衡しており、 アジア人は約7%、 BMI 30kg/m²以上が約60%、 dMMR症例は約2%でした。
OS中央値はLEN+PEM群で27.4ヵ月、 化学療法群では未到達であり、 OSのHRは2.25 (95%CI 1.76–2.89) と、 化学療法群が良好な成績を示しました。
ICI不応後LEN+PEM療法の位置付けは未確立
本研究は後方視的研究であり、 治療選択バイアスを完全に排除できていません。 また、 1次治療レジメンの詳細やPROMISE分類などの重要な情報が欠落している点にも注意が必要です。
さらに、 実臨床の印象と比較すると、 両群の生存成績には違和感も残ります。
現時点で結論を導くことは難しいですが、 ICIを含む1次治療後にLEN+PEM療法を用いて再度ICIを投与する戦略については、 今後も検証が必要かつ重要なClinical Questionと考えられます。
進行卵巣癌では、 術前化学療法 (NAC) が必要となる症例が少なくありません。 近年、 インスリンが腫瘍増殖を促進し、 化学療法の効果を低下させる可能性が指摘されており、 「短期絶食 (Short-Term Fasting; STF) によってインスリン値を低下させることで治療効果を高められるのではないか」 という仮説が注目されています。
STF群では、 各化学療法サイクルの36時間前から24時間後まで、 1日350kcalまたは5~7kcal/kg/dayのカロリー制限を行いました。 水やハーブティーは自由摂取とし、 少量の野菜ジュースや薄い野菜スープも許容されました。 一方、 対照群は食事制限を設けませんでした。
主要評価項目はインスリン値の変化、 副次評価項目として化学療法毒性、 NAC 3サイクル後の腫瘍縮小効果、 無増悪生存期間 (PFS)、 OSなどが設定されました。
STF群20例、 対照群21例が登録され、 NAC 3サイクルを完遂したのは両群とも18例でした。 STF群では化学療法後のインスリン値が有意に低下し、 代謝環境の改善が確認されました。 一方で、 化学療法毒性の増加は認められませんでした。
さらに、 腫瘍減量手術の施行率やPFSについてもSTF群で良好な傾向がみられました。 PFS中央値はSTF群38ヵ月、 対照群24ヵ月であり、 HRは0.257 (95%CI 0.062–1.00) でした。
低コスト介入として今後の検証に期待
本演題は単施設ながら前向き無作為化比較試験として実施された第Ⅱ相パイロット試験であり、 新しい治療戦略として関心を集めました。
試験は症例数の少ない単施設研究であり、 結果の解釈には慎重さが求められます。 しかし、 短期絶食は低コストかつ実施可能性の高い介入であることから、 今後はpragmatic trialとしても、 多施設共同による大規模無作為化試験での検証が期待されます。
ASCO 2026では、 婦人科腫瘍領域において治療方針を直ちに変更するような大規模試験の報告は限られていました。 しかし、 子宮体癌におけるICI導入のタイミングやICI不応後の治療戦略、 さらには短期絶食という新たな治療戦略など、 今後の診療に影響を与える可能性のある話題が数多く取り上げられました。
特に免疫療法の最適な使用時期や治療シークエンスについては、 今後も臨床試験およびリアルワールドデータの蓄積が求められます。 今後の続報にも注目したいです。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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