HOKUTO編集部
9日前
高リスクのHR+/HER2-早期乳癌に対する術前療法として、 抗HER3抗体薬物複合体 (ADC) patritumab deruxtecan (HER3-DXd) 単剤投与あるいは内分泌療法との併用による有効性および安全性について、 多剤化学療法を対照に評価した第Ⅱ相並行群間無作為化非盲検試験SOLTI VALENTINEの結果、 既存の多剤化学療法と同等のpCR率が示され、 かつGrade≧3のTRAE発現率は低かった。 Vall d’Hebron University Hospital(スペイン)のMafalda Oliveira氏が発表した。
高リスクのHR+/HER2-早期乳癌では、 化学療法と内分泌療法の両方が有効であるにもかかわらず、 再発リスクが経時的に持続するため、 転帰を改善するためのより効果的で忍容性の高い戦略が必要とされている。
HER3-DXdは、 HER3を標的とするファーストインクラスのADCで、 複数の乳癌サブタイプに活性を示す可能性がある。 欧州臨床腫瘍学会乳癌会議 (ESMO Breast Cancer 2022) で発表された第Ⅰ相試験SOLTI TOT-HER3では、 術前のHR+/HER2-早期乳癌に対するHER3-DXd単剤投与が、 病理学的完全奏効 (pCR) を予測する数学的モデル 「CelTILスコア」 の有意な増加および奏効率と関連したことが報告されている¹⁾。
未治療で手術可能なstageⅡ‑Ⅲの高リスク (Ki67≥20% および/または高ゲノムリスク)HR+/HER2-の早期乳癌122例を対象とした。
患者は以下の3群に2 : 2 : 1で無作為に割り付けられた。
主要評価項目は、 手術時のpCR (ypT0/is ypN0) 率であった。
副次的評価項目は、 全奏効率 (ORR)、 CelTILスコアの変化、 Ki-67値の変化、 PAM50によるサブタイプの変化、 再発リスクスコア(ROR)、 安全性などであった。
全集団における年齢の中央値は51歳(範囲 29-82歳)で、 女性が99.2%、 閉経前/閉経期が52.9%であった。 cT3/4、 リンパ節転移陽性、 stageⅢ、 Ki67中央値、 HER3 IHC highなどの割合は3群間で概ねバランスが取れていた。
主要評価項目である手術時のpCR率は以下の通りで、 HER3-DXd群とCT群でほぼ同様の結果を示した。
ORRは、 HER3-DXd群が70.0%(95%CI 55.4-82.1%)、 HER3-DXd+LET群が81.3%(同 67.4-91.1%)、 CT群が70.8%(同 48.9-87.4%)であった。
CelTILスコアの増加中央値は、 HER3-DXd群で8.2 (p<0.0001)、 HER3-DXd+LET群で7.4 (p=0.001)、 CT群で3.8 (p=0.13) と、 HER3-DXdを投与した2群 (HER3-DXd群およびHER3-DXd+LET群)で有意な増加が認められたが、 CT群では認められなかった。
ベースラインから2サイクル目の1日目までにおけるCelTILの変化はHER3-DXd群 (p<0.0001) およびHER3-DXd+LET群 (p=0.002) で治療奏効と関連したが、 CT群 (p=0.30) では関連しなかった。
また、 Ki-67中央値の低下、 PAM50によるLuminal BからLuminal A/Normal-likeサブタイプへの変化、 ROR-高/中等度リスクから低リスクへの変化は、 3群ともに2サイクル目の1日目に認められ、 手術によりさらに増強された。
治療関連有害事象(TRAE)の発現率は、 HER3-DXd群が96.0%、 HER3-DXd+LET群が97.9%、 CT群が95.8%だった。 Grade3以上のTRAE発現率はそれぞれ14.0%、 14.6%、 45.8%と、 HER3-DXdを投与した2群ではCT群と比べて顕著に低く、 減量や治療中断・中止に至ったTRAE発現率においても同様の傾向がみられた。
HER3-DXdを投与した2群で報告された主なTRAEは、 悪心、 脱毛、 疲労、 下痢などであった。 間質性肺疾患や治療に関連した死亡は報告されなかった。
Oliveira氏は 「高リスクのHR+/HER2-早期乳癌に対して、 HER3‑DXdによる術前療法は、 レトロゾールによる内分泌療法の有無にかかわらず、 多剤併用化学療法と同等の有効性を示し、 忍容性は化学療法に比べて顕著に低かった。 この結果は、 早期乳癌に対する術前療法において、 HER3-DXdが新たな治療選択肢となる可能性を示唆している」 と報告した。
¹⁾ Ann Oncol. 2023 Aug;34(8):670-680.
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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