IBDマニュアル
12ヶ月前
本コンテンツでは原因不明で治療が困難な炎症性腸疾患 (IBD) について、 疫学・病態・治療などの観点から解説を行います。 最新のエビデンスを基にしておりますので、 是非臨床の参考としていただければ幸いです。
弘前大学医学部附属病院 病理診断科
炎症性腸疾患 (inflammatory bowel disease ; IBD) である潰瘍性大腸炎 (ulcerative colitis ; UC) とクローン病 (Crohn’s disease ; CD) は、 臨床症状、 内視鏡所見、 病理所見を総合して診断される。 典型例であれば鑑別に苦慮することはないが、 生検検体の病理組織学検索においても両者の鑑別が困難であるIBD-Unclassifiedも存在する。 本稿では鑑別困難例も含めたIBDの生検病理診断について述べる。
大腸炎の診断において最初に行うことは、 IBDか非IBDであるかの鑑別である。 アミロイドーシスや膠原線維性大腸炎 (collagenous colitis) といった沈着物のみられる疾患や可視的病原体を含む感染性腸炎が除外された場合、 以下の鑑別式を用いて判定を行う¹⁾。
判定に必要な所見は4つで、 H₁ : 陰窩の萎縮、 H₂ : 陰窩のねじれ、 H₃ : 高度単核細胞浸潤を伴うbasal plasmacytosis、 H₄ : パネート細胞化生である。 各所見の病理画像例をこの項の最後に掲載する。
これらの有無を鑑別式に当てはめ、 2点以上であればIBD確診である。 IBD疑診ないしnon-IBD疑診であった場合は、 病初期で特徴的な所見が揃っていない可能性が考えられるため、 発症時期を確認すべきである。
H₁:陰窩の萎縮
垂直方向の陰窩の短縮 (青矢印)、 水平方向の陰窩の密度低下 (橙矢印) を併せていう。
H₂:陰窩のねじれ
陰窩の拡張や不規則な分枝をいう。
H₃:Basal plasmacytosis
陰窩底部と粘膜筋板の間に形質細胞が3個以上存在することで、 陰窩ひとつ分の幅の範囲内(緑四角)で判定する。
H₄:パネート細胞 (赤矢印)
正常大腸では上行結腸に分布しているため、 横行結腸から肛門側でみられる場合は化生性変化である。
IBD確診となった症例については、 以下の鑑別式を用いて判定を行う¹⁾。
評価項目は5つで、 H₅ : 陰窩の配列異常(萎縮またはねじれ)の分節性分布、 H₆ : 杯細胞減少の分節性分布、 H₇ : 杯細胞温存 (潰瘍辺縁部や好中球浸潤を伴う活動性炎症部でも杯細胞減少がみられない状態)、 H₈ : focalな単核細胞浸潤を示す生検検体の比率 (生検数比)、 H₉ : 高度単核細胞浸潤を伴う生検検体のうち陰窩の萎縮を示すものの比率 (生検数比) である。
これらの所見は、 「focalかつ分節的な炎症」というCDの特徴を定量化したもので、 1点以上あるいは類上皮肉芽腫形成がみられる症例がCD確診となる。 組織学的な炎症の分節性分布を把握するためには内視鏡的正常部分を含む全大腸からの生検が必要であり、 内視鏡所見から強くIBDを疑った場合は内視鏡所見の有無に関わらず全大腸から生検を行うことが望ましい。
前述の2つの鑑別式を踏まえると、 IBD-Unclassifiedと判断される症例はIBD確診のカテゴリーかつUCかCDか判定不能であるものとなる。 具体的には、 類上皮肉芽腫形成のない非典型なUC様腸炎で、 経過中に約80%がUCあるいはCDの診断が確定するという報告があるため²⁾、 定期的な内視鏡検査と生検診断が肝要である。
▼上部消化管の検索
かつてCDの特徴的所見としてfocally enhanced gastritis (FEG) が報告されたが、 その後の検討でUC患者やnon-IBD患者にも観察されることが明らかとなった。 成人においては鑑別に寄与しないが、 小児ではIBDに比較的特徴的な所見である (CD : 55%、 UC : 30%、 non-IBD : 5%の陽性頻度) ため³⁾、 小児症例では上部消化管の検索が推奨される。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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