寄稿ライター
8日前
こんにちは、 Dr.Genjohです。 財務省から我々保険医の将来を占うに当たって重要な資料が公表されました。 新シリーズ 「医師の黄昏 ~氷河期の到来~」 で読み解いていきます。 第1回のテーマは 「医師は悪者?ゲンダイの医療費と社会保険」 です。
「社会保障」 ――。 財務省は2024年11月、 シンプルなタイトルの資料を公表しました。
財務省は国家予算の編成を取り仕切る省庁です。 財務省から厚生労働省に振り分けられた予算を軸に策定された保険請求点数をもとにして、 保険診療が成り立っています。
つまり、 我々保険医の命運は、 財務省が保険医療に 「いくら」 配分し、 「どのように使うか」 を求めることによって左右されていると言っても過言ではありません。
昨今の不景気は 「失われた30年」 としばしば表現されます。 【グラフ1】を見ると、 名目GDPや消費者物価指数、 雇用者報酬などは過去20年でほぼ変動していない一方、 国民医療費は1.5倍以上に増加しているのが分かります。
非医療者から見ると、 「俺たちは30年前の基準で生活しているのに、 お医者様は1.5倍以上の財源をもとにずっと高給取りでいいよな」 とも映ってしまうわけです。 (実際には医師の給料は大して変化していないのですが)
財務省は医療・介護給付費の伸び(赤線)を雇用者報酬の伸び(緑線)と同水準にするよう求めています。 即ち、 医療費の強烈な圧縮が始まることを意味しています。
XなどのSNSでは昨今、 「医療費を削減しろ!」 との声が日に日に大きくなっている気がします。 実際に現役世代が得た収入のうち3割以上は社会保険料に徴収されている惨状が明らかとなっていますが、 保険料率はさらに今後上昇することが見込まれています【グラフ2】。
財務省によると、 所得のうち税金+社会保険料によって徴収される国民負担率は2025年度には46.2%に達することが見込まれています。
江戸時代の五公五民に近い状態です。 重税を課されているのに、 いざ自分が保険診療を受けようとすると最も重い3割負担を課せられる現役世代が、 現行の社会保障システムにヘイトを向けることは必然の帰結だと言えるでしょう。
【表3】を見てください。 元来、 「医療・介護に必要な保険給付費の上昇幅(緑)」 よりも 「雇用者報酬の伸び(青)」 が多ければ、 国民負担率は上昇しないはずです。 しかし、 残念ながら失われた30年では雇用者報酬は伸びず、 給料が増えないままに社会保障費だけが増加してしまいました。 やむなく足りない差分を保険料率の引き上げ(黄)で補填した結果、 国民負担率が上昇してしまっています。
昨今、 雇用者報酬は伸び始めているため、 「青>緑」 となることを期待したいところですが、 目下の対応として財務省は保険料率の上昇の抑制を最大限求めてきてしまっており、 医療費の削減は避けがたいでしょう。
医療従事者の大部分も雇用者であり、 雇用者報酬は非医療の他職種と共に上昇すべきところです。 その財源として2024年の診療報酬改定においてベースアップ加算が加わり、 看護職員やリハビリ専門職、 介護職員の昇給の予算が組まれました。
ただしこの加算には重要な除外規定が盛り込まれており、 昇給の対象から医師と歯科医師は除外されています。 医師や歯科医師の待遇改善は考えていないよ、 と示唆されていると考えてよいでしょう。
そもそも、 世間では賃金上昇の流れが出来つつある一方、 複数の医療機関において、 2024年冬のボーナスが大幅に減額された報道を耳にしました。 国が雇用者の賃上げを要求してきているのに、 赤字が酷すぎて医療従事者の昇給を検討できないほど医療機関の財政が悪化しているのでしょう…。
Xアカウント : @DrGenjoh
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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