亀田総合病院
5ヶ月前
2024年6月に注目度が高かった呼吸器感染症関連の論文を3つご紹介します
Chest. 2024 Jun;165(6):1319-1329.
背景 ニューモシスチス肺炎 (Pneumocystis jirovecii pneumonia : PCP) の予後因子を評価した、 これまでで最大規模の多施設後ろ向き観察研究です。
試験デザイン フランスの3施設で、 2011年1月~21年12月にPCPと診断された患者481例を対象としました。 ロジスティック回帰分析にて、 90日死亡に対するオッズ比 (OR) が算出されました。
試験結果 関節リウマチを含む免疫介在性炎症性疾患 (immune-mediated inflammatory disease : IMID) や固形腫瘍を有する患者は、 他の基礎疾患を有する患者と比べて90日後の予後が不良であることが示されました。
さらに多変量解析の結果、 HIV陰性患者においては、 固形腫瘍 (OR 5.47)、 IMID (OR 2.19)、 長期コルチコステロイド療法 (OR 2.07)、 喀痰/BAL塗抹検査での嚢胞の存在 (OR 1.92)、 入院時のsepsis-related Organ Failure Assessment (SOFA) スコア (OR 1.58) が90日死亡と独立して関連していました。
非HIV PCPの予後は不良
この研究を通して、 近年最大規模の臨床疫学データにおいても、 非HIV PCPの予後が、 HIV PCPと比較して不良であることが確認されました。 さらに、 非HIV PCPにおいては、 固形腫瘍、 関節リウマチを含むIMIDにおいて、 予後が不良であることが示され、 改めてこれらの疾患におけるPCP予防の重要性、 PCPの早期治療の重要性が示唆されたといえるでしょう。
RE-VISION-PCPで前向き観察研究を予定
個人的な感想としては、 まだPCPに関する前向き研究の報告がほとんど存在せず、 この研究も後ろ向き観察研究であることから、 前向き観察研究の必要性も感じました。 私が研究代表者を務めるRE-VISION-PCPグループでは、 今後多施設前向き観察研究の立ち上げを予定しています。
背景 近年複数の呼吸器感染症において、 低用量ステロイド (ヒドロコルチゾン換算400mg以下) が重症呼吸器感染症の予後を改善することが報告されています。
試験デザイン 本研究は、 広範な重症肺感染症 (COVID-19、 市中肺炎、 インフルエンザ、 PCPなど) に対する低用量コルチコステロイドの効果を体系的にレビューしています。 1990~2024年までの関連文献を検索し、 60の研究が評価されました。
試験結果 低用量コルチコステロイドは、 COVID-19や重症市中肺炎、 HIVに関連する中等度~重度のPCPの患者の死亡率を低減することが示されました。
副作用として、 高血糖、 消化管出血、 神経精神障害、 筋力低下、 高ナトリウム血症、 2次感染が報告されました。
低用量ステロイドの有効性を改めて確認
近年、 COVID-19に対する低用量ステロイドのエビデンスが確立され、 さらに重症市中肺炎における無作為化比較試験 (RCT) でも低用量ステロイドの死亡率改善が報告されており¹⁾、 重症呼吸器感染症における低用量ステロイドの有効性が注目されています。
本論文は、 近年のデータも含んだ包括的なレビューがなされており、 呼吸器内科医必読の論文と考えます。
Clin Infect Dis. 2024; 78(6):1490-1503.
背景 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) により入院する成人の死亡率は依然として高く、 その病態メカニズムと治療法の探求が求められています。 本研究は、 重症COVID-19患者の死亡率に関連するウイルスおよび宿主因子を評価しました。
試験デザイン 4大陸において多施設共同 (114施設) で行われたTICO/ACTIV-3試験に参加した2,625例の成人を対象に、 ウイルスRNA、 抗体、 ウイルス抗原、 IL-6のベースライン測定などを行い、 90日間の死亡リスクとの関連を評価しました。
試験結果 ベースラインのウイルス抗原値が4,500 ng/L以上の患者は、 200 ng/L未満の患者に比べて死亡リスクが高いことが示されました (調整HR2.07)。 ウイルスRNA、 IL-6値、 酸素療法4L/分以上、 非侵襲的陽圧換気/ネーザルハイフローの施行、 腎機能障害も死亡リスクと有意に関連していました。
急性COVID-19患者の治療において、 ベースラインにおけるウイルス特異的、 臨床的、 生物学的因子を考慮することで、 高リスク患者を特定し、 より効果的な治療法を提供することができる可能性が示唆されました。
今後の個別化治療に向けた有用な研究
本研究の限界の一つとして、 対象症例の大部分がワクチン未接種者 (80%) であったという事が挙げられ、 試験結果をそのままワクチン接種者に適応するのは難しい可能性があります。 それでも、 本研究は国際多施設研究により詳細なデータを収集し、 死亡率と関連する因子を同定しており、 今後のCOVID-19の個別化治療に有用な情報が得られたと考えられます。
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中島啓 X/Twitter : https://twitter.com/keinakashima1
亀田総合病院呼吸器内科 Instagram : https://www.instagram.com/kameda.pulmonary.m/
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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