亀田総合病院
17日前
呼吸器感染症領域で注目度の高い論文を毎月3つ紹介するシリーズです。 11月に注目度が高かった呼吸器感染症関連の論文を3つご紹介します。
Clin Infect Dis. 2024 Nov 26:ciae559.
COVID-19ワクチンのブースター接種は感染伝播を抑制し、 感染に関連する罹患率と死亡率を低減します。 しかし、 ブースター接種の最適な時期については十分に明らかになっていません。 また、 ブレークスルー感染後のブースター接種時期の調整についても最適なガイドを提供することが課題となっています。 本研究は,ブースター接種の最適な時期を明らかにするために行われました。
抗体の経時的変化と再感染確率、 およびCOVID-19発生率の時空間的予測を活用し、 ブースター接種のタイミングを最適化するための地理的情報に基づくアプローチを開発しました。 また、 年間を通じてブレークスルー感染が発生した場合のブースター接種の遅延期間を評価し、 COVID-19免疫状態の多様性を考慮した、 個別化された最適なタイミングの評価を可能にしました。
年間のブースター接種はいずれの時期でも感染予防に有効でしたが、 各地域において接種時期により3-4倍の防御効果の差が認められました。 COVID-19ブースター接種の最適な時期は地域特異的であり、 北半球では通常初秋が最適でした。 ブースター接種の間隔の後半での感染は、 最適な接種日に大きな影響を与えることが示されました。
ワクチン接種戦略の最適化の参考になるデータ
地域ごとの感染動態を考慮したCOVID-19ブースター接種の最適なタイミングに関する興味深い報告です。 北半球では初秋が最適な接種時期となる可能性が示されました。 ただし、 ブレークスルー感染後のブースター接種タイミングについては個別の調整が必要となりそうです。 COVID-19ワクチン接種戦略の最適化を検討する際の参考になるデータと考えられます。
Influenza Other Respir Viruses. 2024 Sep;18(9):e70008.
高齢者施設に入居する高齢者は、 RSウイルス (RSV) 感染による重症化や入院、 死亡のリスクが高いことが知られています。 高齢者施設におけるRSウイルス感染の疾病負荷を評価する系統的レビューが行われました。
本研究のプロトコルはPROSPERO (CRD42022371908) に登録されており、 MEDLINE、 EMBASE、 およびGlobal Healthデータベースを用いて2000~23年に発表された文献を対象に検索を行いました。 高齢者施設に入居し介護を必要とする高齢者を対象とし、 RSV感染に関する観察研究および実験研究のデータを抽出しました。
1万8,690件の文献をスクリーニングし、 32件を全文レビュー、 20件を最終的に選定しました。 対象となった高齢者施設入居者は42~1,459人で、 平均年齢は67.6歳~85歳でした。
RSV感染の発症率は6.7~47.6%、 年間発症率は0.5~14%でした。 致死率は7.7~23.1%と報告され、 RSV陽性の急性呼吸器感染症 (ARI) の年間発症率は、 10万人当たり4,582 (95%CI 3,259-6,264) および4,785 (同2,258-10,141) であることが2つの研究で確認されました。
また、 RSV陽性の下気道感染症の年間発症率は、 10万人当たり3,040 (同1,986-4,454) でした。RSV-ARIによる入院率は、 年間600 (同190-10,000) ~1,104 (同350-1,930) 人年当たりの範囲でした。
報告された基礎疾患として、 COPD、 心不全、 虚血性心疾患、 冠動脈疾患、 高血圧、 糖尿病、 腎機能障害、 脳血管障害、 悪性腫瘍、 認知症、 およびCharlson併存疾患指数が6.5以上の患者が含まれていました。
高齢者施設におけるRSV感染に関するデータは限られており、 その多くが異質性を持っていますが、 高い罹患率、 頻繁な入院、 高い死亡率が報告されています。 これらのハイリスク集団に対して、 予防的介入 (ワクチン接種など) の導入が考慮されるべきです。 全国的な疫学研究や高齢者施設を基盤としたウイルス病原体サーベイランスが、 RSVの疾病負荷をより正確に評価するために必要です。
高齢者や慢性疾患患者へのRSVワクチン接種の重要性を示唆
高齢者施設におけるRSV感染の疾病負荷についての系統的レビューが報告されました。 この研究では、 RSV感染が高齢者施設の入居者において高い罹患率と死亡率を示し、 慢性疾患を有する患者にとって特に深刻なリスクとなることが明らかになっています。 高齢者や慢性疾患を有する患者に対するRSVワクチン接種の重要性が示唆されました.
Respir Investig. 2024 Nov;62(6):1195-1201.
全身性リウマチ性疾患 (SRD) 患者で中等度以上のステロイド治療を受けている場合、 ニューモシスチス肺炎 (PCP) 予防としてスルファメトキサゾールとトリメトプリムの合剤 (ST合剤;SMX/TMP) が推奨されますが、 その副作用による中止が問題となります。 本研究では、 低用量SMX/TMPが通常用量と比較して、 PCP予防における有効性と安全性にどのような違いをもたらすかどうかを検討しました。
2006年1月~24年4月に日本でSRDと診断され、 ステロイド治療を受けていた患者データを後ろ向きに解析しました。 対象は低用量群 (1回1錠を週2回、 非連続日) と通常用量群 (1回1錠を毎日) に分け、 主要評価項目としてSMX/TMP開始後1年以内のPCP発症率を比較しました。 副次評価項目には、 1年以内の治療中止率および重篤な副作用の発生率を調整後に評価しました。
最終的に186例 (低用量群 : 60例、 通常用量群 : 126例) のデータを解析対象としました。 PCP発症例は1年間でいずれの群でも認められませんでしたが、 低用量群の2例が無症候性のPCP疑いで通常用量に増量されました。
調整後の解析では、 低用量群は通常用量群に比べて治療中止率および重篤な副作用の発生率が有意に低いことが示されました。 低用量のST合剤療法は通常用量と同等のPCP予防効果を有し、 副作用による治療中止率も低いため、 SRD患者に対する有効な選択肢となる可能性が示唆されました。
SRD患者におけるPCP予防の新たな治療オプションとして期待
ステロイド治療中のSRD患者において、 低用量のST合剤 (SMX/TMP) によるPCP予防の有効性と安全性が検討されました。 本研究では、 低用量療法がPCP予防において通常用量と同等の有効性を示し、 副作用による中止率の低減も確認されました。 SRD患者におけるPCP予防の新たな治療オプションとして期待されます。
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一言 : 当科では教育および人材交流のために、 日本全国から後期研修医・スタッフ (呼吸器専門医取得後の医師) を募集しています。 ぜひ一度見学に来て下さい。
連絡先 : 主任部長 中島啓
メール : kei.7.nakashima@gmail.com
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亀田総合病院呼吸器内科 Instagram : https://www.instagram.com/kameda.pulmonary.m/
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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