HOKUTO編集部
2ヶ月前
欧州臨床腫瘍学会 (ESMO 2024) の泌尿器癌領域における注目演題の主な結果や議論点について、虎の門病院臨床腫瘍科の竹村弘司先生にご解説いただきました。
昨年のESMO 2023では、 EV-302試験やCheckMate 901試験など、 泌尿器領域の重要演題の結果が大きな話題となった。 ESMO 2024でも、 Practice changeが期待される注目演題を取り扱うプレジデンシャル・シンポジウムにNIAGARA試験、 PEACE-3試験の2演題が採択された。 そのほかにも、 非常に興味深い内容が多く発表された。 個人的には、 昨年に負けないレベルの盛り上がりがあったのではないかと思われた。 その中でも特に重要と思われる一部の演題について、 私見を交えつつ内容に触れたい。
TiNivo-2試験は転移/再発淡明細胞型腎癌(mccRCC)に対する免疫チェックポイント阻害薬(IO)のリチャレンジの有効性を検証した第III相無作為化比較試験である。
本試験では、 IOを含む1~2ラインの治療歴を有するmccRCCを対象に、 チロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) tivozanib+抗PD-1抗体ニボルマブによるIO+TKI併用療法と、 tivozanib単剤療法の有効性および安全性が比較検証された。
主要評価項目である無増悪生存期間 (PFS) 中央値は併用療法群 vs 単剤療法群で5.7ヵ月 vs 7.4 ヵ月 (HR 1.10 [95% CI 0.84-1.43]、 p=0.49)と、 両群で有意差は示されなかった。 また、 併用療法による奏効率 (ORR) の上乗せ効果も認められなかった (19.3% vs 19.8%)。
PFSについては、 両群に統計学的な差は認めないものの、 単剤療法でむしろ良好な傾向がみられ、 これはtivozanibの用量の差が影響している可能性があると思われた (併用療法群 : 0.89mg、 単剤療法群 : 1.34mg)。
PFSの結果をもう少し詳細にみてみると、 前治療でIOを投与し、 病勢進行 (PD) を認めた後に即時IOのリチャレンジを実施した症例と、 IOでPDを認めた後に別の薬剤 (通常はTKI単剤)を投与し、 それからIOのリチャレンジを実施した症例("IO break"後、 すなわち直近の前治療がIOでないリチャレンジ症例) のいずれのコホートにおいても、 併用療法の有効性は証明されなかった。
このほか、 IMDCリスク分類や年齢、 ECOG PS、 TKIによる前治療ライン数など、 PFSサブグループ解析でも併用療法の優越性が認められる結果は示されなかった。
今回の発表では公表されていないが、 1次治療の内容 (IO+IO併用療法とIO+TKI併用療法) で違いがあるかどうかは興味深いところである。
CONTACT-03試験に引き続き、 TiNivo-2試験においても2次治療以降のIO+TKIの有効性を否定する結果であった。 日常診療では、 症例を慎重に選んだ上でmccRCCに対するIOリチャレンジを検討することがこれまでもあったが、 これらの試験結果を踏まえると、 今後はmccRCCの1次治療でIOベースの併用化学療法後にIOのリチャレンジをするべきではないと思われる。
NIAGARA試験は、 筋層浸潤膀胱癌 (MIBC) を対象とした周術期治療に関する第III相無作為化比較試験である。 術前療法として化学療法 (ゲムシタビン+シスプラチン[GC]) +抗PD-L1抗体デュルバルマブ併用療法を4コース実施→根治的膀胱全摘術 (RC) →デュルバルマブ単剤療法を8コース追加 (GCD→RC→D療法) する治療と、 標準治療の1つである術前GC療法→RCを実施する治療の有効性・安全性が比較検証された。
主要評価項目は二重主要評価項目として病理学的完全奏効(pCR)と無イベント生存率 (EFS) が設定された。
本試験では、 クレアチニンクリアランス (CrCl)が40mL/min以上の患者が参加可能となっており、 CrClが40~60mL/min未満の場合はシスプラチンを分割(35mg/m²を1日目と8日目)で投与した。 また、 リンパ節転移あり(N1)やバリアント組織型を含む尿路上皮癌も対象となっていたため、 日常診療の観点でもフレンドリーな適格基準が設定されている印象を受けた。
pCRは、 初回解析では両群で有意差を認めなかった。 ただし初回解析で除外されていた症例を含めて実施したpCRの再解析では、 デュルバルマブ群で37.3%、 対照群で27.5%でp値は0.0005となり、 事前に設定された有意性の閾値である0.001を下回った。
全体集団におけるEFSは、 デュルバルマブ群で有意な改善を示した(NR vs 46.1ヵ月、 HR 0.68、 p<0.0001)。 24ヵ月時点でデュルバルマブ群の67.8%、 対照群の59.8%が無イベントで生存していた。
EFSサブグループ解析では、 年齢、 性別、 人種、 Tステージ、 腎機能障害、 PD-L1発現、 組織型、 リンパ節転移などのステータスによらず、 デュルバルマブ群で良好な傾向がみられた。
OSにおいてもデュルバルマブ群が有意に改善しており (HR 0.75、 p=0.0106)、 24ヵ月時点でデュルバルマブ群の82.2%、 対照群の75.2%が生存していた。
安全性に関しては、 デュルバルマブの併用による手術遅延や耐術能へのネガティブな影響は認めず、 許容可能な範囲内であると思われた。
本試験では対照群の術後IO治療は標準的に行われておらず、 術前GC療法に加えて病理学的ステージに応じて術後IOを行う現在の標準治療と比較した場合に、 どの程度の差が生まれるかは不明である。
しかし、 MIBCはそもそも再発率が高く、 現状で術前プラチナ療法+術前・術後IOの併用という最も強度の高い周術期治療が実施できることは、 NIAGARA試験におけるレジメンの最も大きなアドバンテージであると考える。
一方、 術前化学療法でpCRになった場合やctDNA検出不能の場合、 本当に術後療法が必要か (de-escalationが可能かどうか)についても今後検討が必要と思われる。 本試験は標準治療を変え得る重要な臨床試験であり、 今後の追加解析の発表にも期待したい。
PEACE-3試験は転移性去勢抵抗性前立腺癌 (mCRPC) を対象とした第III相無作為化比較試験である。 無症状もしくは軽度の症状を有し、 骨転移のあるCRPCを対象に、 エンザルタミド(ENZ)に放射性医薬品Ra-223を追加併用することの意義が検証された。
まず、 前治療としてENZとRa-223による治療を受けていないことが適格基準だったが、 ドセタキセル (DTX)による治療歴は許容された。 また、 転移性去勢感受性前立腺癌(mHSPC)に対するアビラテロン (ABI)の使用も許容された。 全体集団の30%程度がDTX治療後で、 ABI投与歴は全体の2~3%程度であった。
このような試験デザインから、 PEACE-3試験の患者背景は基本的に 「mHSPCに対するアンドロゲン除去療法 (ADT) ±DTX治療後、 mCRPCに移行した患者」 であるようなイメージを持つ必要がある。 しかし、 現在の標準治療ではmHSPCに対してENZやABIなどのアンドロゲン受容体シグナル阻害薬 (ARSI) を使用することが常識となっており、 日常診療でPEACE-3試験の結果をそのまま適用できるケースは多くないのではないかと思われた。
主要評価項目である画像上の無増悪生存期間 (rPFS)中央値はENZ+Ra-223群が19.4ヵ月で、 ENZ群の16.4ヵ月に比べて有意な改善を示した (HR 0.69、 p=0.0009)。 OSは中間解析であり今後の追加報告を待つが、 併用群で期待できる結果だった (mOS 42.3ヵ月 vs 35.0ヵ月、 HR 0.69、 p=0.0031)。
一方で、 次の全身治療までの期間や最初の症候性骨関連イベントまでの期間といった症状やQOLに関する評価項目は2群間で同様だった。
安全性に関して、 併用群で最も懸念される有害事象である骨折は5.1%と、 許容範囲内であると個人的には思われた。 ただし、 骨修飾薬の併用は必須であると考える。
以上の結果より、 PEACE-3試験の結果はpractice changeとなり得ると考える。 ただし前述したように、 日常臨床では本臨床試験の患者背景に完全合致するような症例はほとんどないと思われる。
今後、 クリニカル・クエスチョンとして 「多発骨転移を有するmHSPCに対してADT+ARSIで治療していた患者がmCRPCに移行し、 次治療でRa-223を検討する場合にARSIを継続 (ABIならENZに変更、 ENZならそのまま継続)するべきか、 中止するべきか」 についての検討が必要と思われた。
また、 本試験では前治療でABIを使用していた症例がほとんど含まれていないため、 mHSPCに対してABIを使用していた症例に対してADT+ENZ+Ra-223の併用療法を行うことが妥当なのかどうか、 その意義は今回の結果からは判断できない。 本試験の結果は非常に重要であるが、 これをいかに日常臨床に落とし込むかは今後も検討が必要であると思われた。
NIAGARA試験やPEACE-3試験のような標準治療を変えるインパクトのあるポジティブな試験ももちろん重要である。 ただし、 ネガティブな試験であっても、 判断に悩みがちな日常診療におけるクリニカル・クエスチョンに応えてくれる臨床試験の結果も同様に重要であると、 ESMO 2024の結果を受けて改めて感じられた。
泌尿器癌領域の治療開発は目まぐるしく進歩しており、 今後のさらなる発展が期待される。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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