HOKUTO編集部
27日前
抗Trop-2抗体薬物複合体(ADC)サシツズマブ ゴビテカン(SG)は、 化学療法歴のある手術不能または再発トリプルネガティブ乳癌(TNBC)の治療薬として、 日本でも承認された。今後期待されるSGの使いどころについて、 岡山大学病院乳腺・内分泌グループ内分泌センターの突沖貴宏氏が第62回日本癌治療学会(JSCO 2024)で発表した。
SGは、 抗Trop-2抗体に、 ペイロードとしてイリノテカンの活性代謝物であるSN-38が結合したADCであり、 従来のリンカーと異なりpH応答性の加水分解性のリンカーを使用していることが特徴だ。 突沖氏によると、 従来のADCは細胞に取り込まれた後に放出されてバイスタンダー効果を示すが、 SGは標的腫瘍細胞に発現するTrop-2に結合した際、 SN-38が細胞内に取り込まれるだけでなく、 リンカーによりSN-38が放出されることで、 隣接する腫瘍細胞へのバイスタンダー効果が期待できるという。
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転移性TNBCの3次治療以降におけるSGの有効性・安全性を検証した第Ⅲ相ASCENT試験の結果より、 SGは基本的に転移性TNBCの3次治療、 もしくは12ヵ月以内の早期再発例の2次治療以降に適応となる。
同薬の使いどころにおいて、 突沖氏は以下3つのポイントを提示した。
❶術後早期(12ヵ月以内)の再発症例にSGは有効か?
❷BRCA1/2変異陽性TNBCに対してはどのような場合に使用すべきか?
❸HER2低発現例にはSG or T-DXdをどのように使うべきか?
ASCENT試験における術後早期再発例(65例)に対するサブ解析結果より、 SG群は担当医選択の化学療法(TPC)群と比較し、 無増悪生存期間(PFS、 HR 0.41)、 全生存期間(OS、 HR 0.51)ともに有意な改善を示し、 PFS/OS中央値もそれぞれ5.7ヵ月/10.9ヵ月と、 全体集団と同等の結果であった¹⁾。 この結果を踏まえて、 突沖氏は 「SGは早期再発のTNBCにおいても良好な結果が期待できる」 と考察した。
BRCA変異陽性例については、 ASCENT試験の全体集団のうち7-8%と少なく、 SG群16例 vs TPC群18例の比較となる。 解析対象となった脳転移陰性患者において、 SG前に7%がPARP阻害薬を、 29%が免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) を投与されていた。
奏効率は、 BRCA1/2変異陽性集団におけるSG群は19%と全集団 (35%) に比べて低い結果ではあるが、 TPC群の6%と比較すると良好な結果であった。 またBRCA変異陽性例においてもPFS(HR 0.6)、 OS(HR 0.4)の改善が示された²⁾ことから、 突沖氏は 「BRCA変異を有する症例においてもSGは有効と考えられる」 と述べた。
ただしASCENT試験においてはPARP阻害薬やICIの投与タイミング(治療段階もしくは再発段階)が不明であることに注意が必要だという。
またASCENT試験における副次解析結果ではあるが、 HER2超低発現 (IHC 0) 集団のPFS中央値は4.3ヵ月、 HER2低発現 (IHC 1+/ISH-) 集団のPFS中央値は6.2ヵ月であり、 HER2低発現症例に対してもSG群が良好な結果を示した³⁾。
一方でDESTINY-Breast06試験では、 化学療法未治療のHER2低発現/超低発現の転移性乳癌におけるT-DXd単剤の有効性について、 担当医選択の化学療法を対照に検証。 その結果、 HER2低発現例において、 PFS中央値はSG群/TPC群でそれぞれ13.2ヵ月 / 8.1ヵ月(HR 0.62、 p<0.001)、 奏効率は56.5% / 32.2%と有意に改善した⁴⁾。 ただし突沖氏によると、 「DESTINY-Breast06試験では89%がホルモン受容体 (HR) 陽性乳癌であったことに注意しないといけない」 という。
両試験の結果より、 同氏は 「ASCENT試験の対象はTNBCであるのに対し、 DESTINY-Breast06試験では患者の89%がルミナルタイプであり、 単純に両試験を比較することはできないものの、 HER低発現例に対してはSGとT-DXdのいずれも良好な結果であった。 使い分けとしては、 TNBC (HER2低発現) のASCENT試験の対象症例にはSGを優先して使うべきであり、 副作用や患者の希望に応じてT-Dxdや他の化学療法を考慮する。 HR陽性症例にはT-DXdを使用することが望ましいと考えられる (現時点ではSGを使うエビデンスはない) 」 と説明した。
以上より、 突沖氏は、 現在の日本において、 各論点におけるSGの使いどころは下図の通りであると説明した。
¹⁾ NPJ Breast Cancer. 2022; 8: 72.
²⁾ Ann Oncol. 2021; 32: 1148-1156.
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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