HOKUTO編集部
1年前
消化器癌薬物療法の進歩はこの数年で目覚ましい進歩を遂げており、 その一つの軸が免疫チェックポイント阻害薬である。 そのきっかけとなった重要な試験が、 胃癌のATTRACTION-2試験であり、 以降食道癌のATTRACTION-3試験、 胆道癌のTOPAZ-1試験、 肝細胞癌のIMbrave150試験を筆頭に幅広い癌種で治療開発が進められた。
また、 以前より開発が進められていた分子標的薬に関しても、 胃癌のSPOTLIGHT試験やGLOW試験で新規の分子標的薬であるゾルベツキシマブが開発された。 それに加えて、 同時期に抗体薬物複合体も開発が進められ、 胃癌のDESTINY-Gastric01試験でトラスツズマブデルクステカンも開発された。
これらの結果は、 国際的な臨床腫瘍学会で最初に発表されることが多く、 特にASCOではpractice changeに直結するような内容が毎年数多く報告される。 そのため、 腫瘍内科医にとっては注目すべき学会の一つと言える。 今回はASCO 2023において消化器癌治療領域で重要と考えられる演題を3つ概説する。
切除可能な胃癌に対しては、 アジアを中心に本邦では根治切除後の病理診断でpStage Ⅱ-Ⅲと診断された場合に、 術後化学療法が標準治療として確立している。 しかし、 pStage Ⅲにおいてはいまだに予後が限定的であり、 さらなる予後改善を目指してニボルマブの上乗せを検証したATTRACTION-5試験が行われた。
概要
日本、 韓国、 台湾、 中国のアジアで実施されたランダム化第Ⅲ相試験で、 術後化学療法へのニボルマブの上乗せ効果を検証した。 主要評価項目は無再発生存期間(RFS)と設定され、 試験治療はS-1またはCapOX療法にニボルマブを上乗せした治療と設定された。
介入
ATTRACTION-5試験では最終的に登録された755例が以下の群に1:1で無作為に割り付けた。
患者背景
年齢や性別、 全身状態(PS)、 原発部位、 組織型、 PD-L1 TPS発現などにおいて同様であった。
主要評価項目 (3年RFS割合)
ニボルマブ併用群のプラセボ併用群に対する優越性は証明できなかった (HR 0.90、 95%CI 0.69-1.18)。
副次評価項目 (OS)
両群 (3年OS割合: 81.5% vs. 78.0%) で未到達 (HR 0.88、 95%CI 0.66-1.17) と報告された。
有害事象
ニボルマブ併用療法群で内分泌関連の全有害事象の発現が20.5%と報告されたものの、 それ以外の有害事象に関しては両群でほぼ同様の傾向であった。
👨⚕️山本駿先生の解説
今後の胃癌周術期治療における免疫チェックポイント阻害薬の開発の方向性であるが、 術前後の化学療法への免疫チェックポイント阻害薬の上乗せがメインストリームとなるであろう。 既に昨年のASCO 2022でDANTE試験が有望な病理学的効果を示しており、 MATTERHORN試験においてもpCRが改善したとプレスリリースされており、 今後の生存期間延長への期待が高まっている。
これらに加え、 周術期ペムブロリズマブの上乗せを検証しているKEYNOTE-585試験も控えており、 今後の開発の動向に注目する必要がある。 またATTRACTION系列の試験として、 胃癌の一次治療を対象にニボルマブとイピリムマブと化学療法の優越性を検証するATTRACTION-6試験が進行中であり、 こちらも結果が期待される。
切除不能な進行・再発膵癌に対する初回薬物療法は長らくゲムシタビン単剤の時代が続いたが、 IMPACT試験の結果からゲムシタビンとナブパクリタキセル併用(GnP)療法が、 ACCORD11試験の結果からFOLFIRINOX療法が標準治療として確立した。 しかし、 これらの治療を行ってもOS中央値は1年未満であり、 この対象に対する治療開発が幅広く行われるも有効性を示した薬剤は限定的であった。 そのような中、 切除不能な進行・再発膵癌の一次治療として、 GnP療法を対照群と設定し、 リポソーマルイリノテカンを加えたNALIRIFOX療法の優越性を検証した第Ⅲ相試験であるNAPOLI 3試験が実施された。
概要
リポソーマルイリノテカンを加えたNALIRIFOX療法の優越性を検証。 主要評価項目に関しては、 今年1月のASCO-GI 2023で発表されており、 今回のASCO 2023では長期のフォローアップデータ(12カ月、 18カ月)が報告された。
介入
NAPOLI 3試験には770例が登録され、 以下の群に1:1で割り付けられた。
患者背景
年齢や性別、 PS、 転移臓器個数、 地域、 原発部位等は2群間で同様であった。
OS中央値、 12カ月OS率、 18カ月OS率
PFS中央値、 12カ月PFS率、 18カ月PFS率
有害事象
NALIRIFOX群でGnP群よりも高い傾向が認められたものは、 下痢20.3%、 嘔気11.9%、 嘔吐7.0%、 低カリウム血症15.1%であった。
👨⚕️山本駿先生の解説
NAPOLI-3試験ではOSとPFSも長期的な結果も含めてNALIRIFOX群で良好な結果が報告された。 しかし、 本レジメンで用いられるリポソーマルイリノテカンは高額なため、 費用対効果の観点の検討は必要である。加えてNALIRIFOX療法とFOLFIRINOX療法との直接比較や、 GnP療法とFOLFIRINOX療法との直接比較のデータがないことが、 本試験結果の解釈を困難にしている。
そのような中、 本邦の研究者が主導する3群の大規模第Ⅲ相試験であるJCOG1611(GENERATE)試験では、GnP療法とFOLFIRINOX療法の比較を行っており、 今後の結果に期待がかかる。
本試験の対象である切除不能進行・再発胆道癌に対しては、 長らく殺細胞性抗癌薬のみが用いられてきたが、 TOPAZ-1試験などにより免疫チェックポイント阻害薬が標準治療として組み込まれ、 HERB試験等によりHER2を標的分子とした遺伝子異常に基づいた治療開発が進められている。
概要
安全性 (grade 3以上の主な有害事象)
治療関連死
治療関連死は報告されなかった。
👨⚕️山本駿先生の解説
この結果から、tucatinibとトラスツヅマブ併用療法は、 HER2遺伝子異常を有する切除不能進行・再発胆道癌の二次治療として有望な有効性を示した。
昨年のASCO 2022ではトラスツヅマブデルクステカンの有効性が報告されていたが、 懸念すべきは肺臓炎であり、 時に致死的な経過をたどる。 一方、tucatinibとトラスツヅマブ併用療法では、治療関連死を認めず忍容性も良好であることから、 今後の開発に期待がかかる。
なお本発表の直後に報告された二重特異性モノクローナル抗体であるzanidatamabについても、胆道癌において奏効割合が41.3%と非常に有望な治療成績が報告されている。 ディスカッサントも指摘していたが、 HER2陽性の胆道癌に対してはCAR-T療法も含めた開発が幅広く進められており、 限られた対象であることから、 実臨床への早期の導入が期待される。
HOKUTOのユーザーは若い医師が多いと伺ったが、 特に卒後約10年目の医師にとっては、 実臨床に忙殺され、 ASCOやESMOのような最新のトピックスに日本語の文献でタイムリーに触れる機会は非常に限られている。 そのような皆様に本稿がお役に立てば幸いである。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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