韓国・研修医のストライキは日本でも起こりうるのか
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1ヶ月前

韓国・研修医のストライキは日本でも起こりうるのか

韓国・研修医のストライキは日本でも起こりうるのか
医療訴訟が珍しくなくなった今、 医師は法律と無関係ではいられない。 連載 「臨床医が知っておくべき法律問題」 5回目は、 韓国で問題になっている医師のストライキについて取り上げる。 

日本でも医療者のストはある

韓国の研修医や大学の医師によるストライキは、 医師増員という政策をめぐる反対運動だ。 医師のストライキは、 患者の生命に直結する可能性があり、 国民の反発も強いようである。

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医療職のストライキ自体は、 日本でも珍しいことではない。 賃上げをめぐる 「春闘」 の一環として、 全国の病院や診療所の労働組合が加盟する 「日本医療労働組合連合会」 (医労連) の組合が3月14日、 朝1時間だけ一斉ストをしている。

みなし公務員である全国140の国立病院の医師や看護師など、 およそ1万8000人で作る 「全日本国立医療労働組合」 (全医労) もストライキを前提に団体交渉を行い、 妥結にこぎつけたようである。 赤十字病院などでも以前は看護師のストライキがよくあり、 外科部長が自ら配膳台を押して給食を配ったというエピソードもあるようだ。

医師のストで死亡率が減少?

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国外に目を移そう。 1973年にイスラエルで医師のストライキが決行された結果、 死亡率が半減したという話がある。 アメリカやコロンビアでも同様に、 医師ストライキによって死亡率が減少したというデータがあり、 医療不要論の根拠となっているようだ。

警察がいなくなれば犯罪としてのカウントはゼロになるし、 弁護士がいなくなれば法的トラブル自体がほとんど消滅するのは自明であるのだが…。

ストライキに 「違法性」 はない

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さて、 ストライキ (法律用語では 「同盟罷業」 という) については、 日本国憲法第28条で労働者の権利として 「団結権」 「団体交渉権」 「団体行動権」 という3つの権利を認めているが、 ストライキを行う権利は 「団体行動権」 の一環として、 労働者に保障されていると考えられている。

一方、 労働者は、 使用者の指揮命令下でしっかり仕事をするという労働契約に基づいて勤務をしている。 一般論として、 仕事をしないのは民法上、 債務不履行に当たるとして損害賠償の対象になり得るし、 仕事をしないことを扇動して病院の業務を妨害すれば、 業務妨害罪 (刑法第234条) に該当する可能性がある。

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日本の医師がストをしたら、 損害賠償の対象になったり、 刑事罰を受けたりする恐れはあるのか。 結論から言うと、 憲法の規定を受け、 ストライキを行った労働者には 「違法性」 がなく、 損害賠償や刑罰を受けないことを法律は保障している

ただ、 公務員は争議行為を一律に禁止されているほか、 電気供給や炭鉱の保安業務などに携わる人のストについても、 特別法で禁止されている。

「正当性」 がないと…

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医療機関にはこのような特別法はないが、 「正当性」 の判断で制限がある。 労働組合法第8条の条文を見てみよう。

使用者は、 同盟罷業その他の争議行為であつて正当なものによつて損害を受けたことの故をもつて、 労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない。

ストライキが法的に免責されるのはあくまで 「正当」 な場合であり、 正当性がないストライキは、 原則に戻って民事・刑事の法的責任の対象になりうる。

では、 正当なストライキとは何だろうか?政府の施策をめぐって医師がストライキを行う韓国のようなケースは 「正当」 に該当するのだろうか。

正当性の要件

正当性の要件として、 まず主体の問題がある。 労働組合の一部の者のみが正式の活動ではないストライキを行う (いわゆる山猫スト) ことは違法とされる場合がある (福岡高裁昭和48年12月7日判決)。

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次にストライキの目的である。 賃上げや労働条件の改善要求などが目的であれば問題はないが、 単に政策に反対して行うストライキは違法とされる (最高裁昭和41年10月26日判決)。

確かに、 医師増員は医師の働き方や生活に直結するかもしれないが、 現在の労働に直ちに影響するわけではなく、 韓国のようなストは日本でも正当性が否定される可能性がある

手続きも重要だ。 労働組合は使用者に対して団体交渉権を有しているため、 迷惑をかける度合いの大きいストライキの前に十分な話し合いをし、 使用者側が応じなかったという要件が必要になる。

医療機関が時限ストになるワケ

なお、 医療機関では、 「医療従事者は、 病院などが診療を引き受ける患者のうち、 診療を行なわなければ本人の生命、 身体に具体的な危険を生ずると認められるすべての者に対し、 必要な診療など業務遂行のための労務の給付を停止しえない」 という趣旨の通達(労発第71号 昭和37年5月18日)がある。 救急を除く外来開始後1時間といった限定的な時間のみのストが行われているのはこのためである。

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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