【なぜ?】胸腔ドレーンの左右取り違え
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HOKUTO通信

6ヶ月前

【なぜ?】胸腔ドレーンの左右取り違え

【なぜ?】胸腔ドレーンの左右取り違え
過去の医療事故やヒヤリ・ハット事例から対策などを学ぶ新企画「医療事故からの教訓」 を始めます。 今回は 「胸腔ドレーン挿入時の左右取り違え」 を取り上げます。
※この記事は日本医療機能評価機構より引用許諾を得ています。

2015〜2021年に計20件

日本医療評価機構によると、 2022年に起きた医療事故は5313件、 ヒヤリ・ハット事例は101万件超。 同機構の医療事故情報収集等事業「第66回報告書」 によると、「胸腔ドレーン挿入時の左右取り違え」 は2015年〜2021年に20件の事例が報告されている。

治療・処置の内容と目的別に分けると、 気胸に対して脱気目的で胸腔ドレーンを挿入した事例が9件、 胸水に対して排液目的で胸腔穿刺をした事例が8件と多い。

【なぜ?】胸腔ドレーンの左右取り違え
日本医療機能評価機構の第66回報告書より引用

取り違えの発端は

左右の取り違えの発端となった状況については、 実施の場面で、 正しい体位で準備したものの、 医師の習慣などで直前に患者の体の向きを変えたため、 反対側を穿刺する体位になった事例が最多の4件だった。

【なぜ?】胸腔ドレーンの左右取り違え
日本医療機能評価機構の第66回報告書より引用

事例1

患者は過去に左右の肺から肺がんを部分切除しており、 経過観察中。 新たに胸水貯留の症状で来院し、 胸腔穿刺が必要と判断された。 外来医師Aは医師Bに右胸腔穿刺を依頼。 医師Bも患者と家族に処置の同意を取ったが、 左右の明確な指示が文書になかった。

処置室では、 看護師が指示に従い、「右」 側の胸腔穿刺を準備。 一方、 医師Bは超音波検査で左側を誤って観察し、 局所麻酔も左側に行った。 看護師は疑問に感じながらも医師Bの指示に従った。 結局、 左側には胸水貯留が確認できず、 後で別の医師から指摘を受け、 左右の間違いに気付いた。

【ポイント】

  • 処置前にタイムアウトを行っていなかった。
  • 左胸腔ドレナージ予定の他患者がおり、 処置が立て込んでいた。
  • 超音波装置が患者の左側 (常時置いている場所) に置いてあり、 医師Bは左側の胸腔穿刺だと思い込んだ。 ーーなどの背景が重なった。
【なぜ?】胸腔ドレーンの左右取り違え
日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業 医療安全情報No.99より引用

事例2

患者が左自然気胸で緊急入院した後、 医師が誤って右胸腔にドレーンを挿入。 出血とSpO₂低下が引き起こされ、 呼吸状態が悪化した。 胸部X線撮影をしたところ、 左胸腔に挿入すべきドレーンを右胸腔に挿入していることに気付いた。

【ポイント】

  • 医師は処置室で患者の右側に立っていた。
  • 処置開始時に患者の体動が激しくなったため、 看護師2名で患者を抑え、 医師はその体位のままドレーンを挿入したーーなどが要因とみられる。

主な背景・要因

【準備】

  • 誤った体位
  • 左胸腔穿刺を予定していたが、 右胸腔穿刺を行う体位で準備した。
  • 同意書の不備
  • 同意書に左右を記載していなかった。
  • 手術を除く侵襲的治療・検査時の説明・同意書に「左右」 を記載することが決まっていなかった。

【実施】

  • 確認不足
  • 胸腔穿刺を実施する際の左右の確認が不十分であった。
  • 患者は右を上にして側臥位になっていたが、 医師は患者に「左」と伝えていたため、 患者が左を上にして側臥位になっていると思い込んだ。
  • 体位の変更
  • 医師は患側 (左) が上になっている (右側臥位) ことを確認した後、 患者の頭が医師の左側になるように体の向きを変えるよう看護師に指示した。 その際に患側が下 (左側臥位) に変わったが、 医師は他の準備をしており、 その後患者の体位を確認しなかった。
  • 医師の位置の誤り
  • 医師は、 詰め所にある電子カルテで左気胸であることを確認して処置室へ移動したものの、 患者の右側に立った。 ・ 医師は、 処置ベッドに腰掛けていた右胸腔穿刺予定の患者の左側に腰掛けた。
  • タイムアウトの未実施
  • 病棟での侵襲的処置の際にタイムアウトを実施する習慣がなかった。
【なぜ?】胸腔ドレーンの左右取り違え

医療機関から報告された改善策

【準備】

  • 処置部位の情報共有
  • 胸腔ドレーン挿入前にスタッフ間で十分にコミュニケーションを図った上で実施する。
  • マーキングの実施
  • 胸腔穿刺前に、 術者を含む複数人でX線画像などで左右を確認し、 マーキングを行う。
  • 同意書の取得・見直し

【実施】

  • 左右の確認の徹底
  • 胸腔穿刺時の左右の確認は、 医師、 看護師で声を出して行う。
  • 患者の協力を得ながら左右の確認を行う。
  • タイムアウトの実施
  • 処置直前に、 電子カルテの情報をもとに処置部位を含めたタイムアウトを実施する。
  • 可能な限り医師・看護師・患者の3者で行う。
  • 環境整備
  • 処置をする場所に電子カルテを配置し、 処置時に画像を確認できるようにする
  • 患者の体位や使用物品の配置など、 穿刺しやすい環境を整備する
  • その他
  • 医師は超音波検査で胸水が予想より少ないと分かった時点で、 穿刺はせずに上級医に確認する。
  • 疑問は必ず声に出し、 複数の職員で確認することが重要であることを認識できるよう研修を行う。

参考資料

日本医療機能評価機構:医療事故情報収集等事業 第66回報告書 (2021年4月~6月)、 胸腔ドレーン挿入時の左右の取り違え

こちらの記事の監修医師
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HOKUTO編集部
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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