【はじめてシリーズ】輸液療法の基礎 (聖路加国際病院 清水真人先生)
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聖路加国際病院 救急部

7ヶ月前

【はじめてシリーズ】輸液療法の基礎 (聖路加国際病院 清水真人先生)

【はじめてシリーズ】輸液療法の基礎  (聖路加国際病院 清水真人先生)

1. 輸液療法とは

体内の内部環境を維持するために水分・電解質・栄養などを投与する治療法である。 一般的には血管内にカテーテルを留置し経静脈的に点滴することを指すことが多い。


2. 輸液療法の目的

輸液療法の目的は大きく、 ①体液管理②栄養療法③血管確保の3つに分類される。 病棟や外来での「輸液療法」といった場合、 一般的には①体液管理としての輸液を指すことが多い。

①体液管理

経口摂取不良の患者で、 下痢、 嘔吐、発熱などで不足した水分、 電解質などの補充を目的に行う。

②栄養療法

経口摂取不良の患者で、 絶食の状態が続けば、 糖、 アミノ酸、 脂肪などの栄養を経静脈的に投与することがある。

③血管確保

ルートキープ, ルート確保とも呼ばれるが、 救急外来や病棟において、 緊急時にすぐに薬剤の投与や使用できるように予め静脈注射の投与経路を確保しておくことがある。


3. 輸液療法の背景知識

維持輸液と補充輸液

輸液療法はその役割によって、 失われる水分・電解質を維持する目的に実施される 「維持輸液」 と、 不足している水分・電解質を補う目的に実施される 「補充輸液」 の2つに分けられる。 一般的には両者を組み合わせてプランを立てていく。 これらのプラン構築のためには体液恒常性と正常な水分・電解質バランスの理解が重要である。

体液恒常性

体液恒常性とは内部環境を一定の状態に保とうとする生体機能のことで、 ホメオスターシス (homeostasis) とも呼ばれる。

実際には、 飲食により摂取された水分や電解質、 栄養を、 一定量排泄・再吸収することで体内のバランスを保っている。 この調節能にはかなりの幅があり、 多少の過量輸液や過小輸液は体液恒常性により適当に処理される

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しかし、 急性期や高齢者では体液恒常性が破綻していることがあり、 投与量には注意を要する。

正常な水分・電解質バランス

実際に維持輸液を行うためには、 正常な水分・電解質バランスを知らなければならない。 次の項目で紹介する3号液 (維持液) は、 これらの割合を満たすように構成された輸液である。

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4. 輸液製剤の種類

様々な輸液製剤が世に出回っているが、 基本的には生理食塩水と5%ブドウ糖液の2つを混合したものと理解すれば良い。 生理食塩液と5%ブドウ糖液の大きな違いは、 投与後の体液分布が異なる点である。

体液分布について

人体の約60%は水分 (体液) で構成される。 このうち、 約2/3が細胞内 (細胞内液) に、 約1/3が細胞外 (細胞外液) に分布している。 さらに、 細胞外液のうち、 約1/4が血管内 (血漿) にあり,残りが細胞と細胞の間の水分 (組織間液) として存在している。

図1:体液分布と移動 (体重60kgの場合)

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体重60kgの場合、 体液量が36Lで、 そのうち細胞内液が2/3の24L、 細胞外液が1/3の12Lとなる。 さらに細胞外液量の1/4の3Lが血漿、 残りの9Lが組織間液として存在する計算となる。

生理食塩液は「細胞外」のみに分布

生理食塩液は細胞外液とナトリウム濃度がほぼ同様であり、 等張液輸液と呼ばれる。 等張液輸液は細胞内には移動せず、 細胞外に留まる。 そのため細胞外補充液とも呼ばれる。

図2:生食と5%ブドウ糖液の分布の違い

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つまり、 1/4は血漿に、 残りは組織間液へ移動する。 例えば生理食塩液を1L投与すると、 血漿として1/4約250mlが血管内し、 残りは組織間液へ移動することになる (図2a)。

細胞外補充液には、 生理食塩液以外にリンゲル液、 乳酸リンゲル液,酢酸リンゲル液,重炭酸リンゲル液などがある。 これらはカルシウムなど他のイオンやアルカリ剤も含み、 より生理的な細胞外液成分へと近づけることを目的に開発された。

 
生理食塩液…0.9%食塩液のことである。 細胞外にもNa以外の陽イオンがあり、 それらを足すと概ね154mEqとなる。 これは0.9%食塩の濃度と概ね同様であり、 これが生理食塩水とよばれる理由である。 

5%ブドウ糖液は「全体」に分布

5%ブドウ糖液に含まれるブドウ糖は、 血管内ですぐに代謝されるため、 溶質を含まない自由水として考えることができる。 自由水は血管内から細胞内まで全体に均等に行き渡る

したがって細胞内に2/3、 細胞外に1/3が入り、 血管内には1/12 (1/3×1/4) が留まる。 例えば1Lの5%ブドウ糖液を投与すると、 血管内に1/12約84mlが分布し、 残りが組織間液、 細胞内液へと移動することになる (図2b)。

5%ブドウ糖液…なぜ真水でなくて5%ブドウ糖液なのか。 これは、 真水の場合は血液の浸透圧が急激に下がり、 赤血球内に水が移動した結果溶血が起こってしまうためである。 

等張液輸液と低張液輸液

生理食塩液等の細胞外補充液を等張液輸液と呼ぶ一方、 細胞外液よりもナトリウム濃度より低いものを低張液輸液と呼ぶ。

これは生理食塩液と5%ブドウ糖液の2つを混合して作られ、 その比から1号液~4号液と呼ばれる。 生理食塩液の割合が大きい1号液は細胞外へ、 5%ブドウ糖液の割合が大きい4号液は細胞内への水分補給効果が大きくなる。

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①等張液 (細胞外補充液)

ショックなど相対的な血漿量減少が疑われる際の第一選択となる。

②1号液 (開始液)

細胞内か細胞外脱水かの判断に迷う際に始めるのに適切で、 開始液と呼ばれる。 カリウムを含まないため腎不全患者や腎機能不明の緊急時でも使いやすい。

③2号液 (脱水補給液)

細胞外にも十分に分布する一方、 カリウムやマグネシウムなど細胞内の電解質も一定量含む。

④3号液 (維持液)

前述した通り維持輸液として適した水分、 電解質組成であり、 1500〜2500mlの投与で健常人の一日必要量を補える。

⑤4号液 (術後回復液)

カリウムを含まないため、 腎不全患者の維持輸液などに適している。

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【輸液製剤の電解質組成一覧】についてはこちらの記事も参照下さい (HOKUTO編集部)

5. 輸液療法の実際

維持輸液

平均的な体型であれば、 1500ml〜2500mlの3合液 (維持液) を投与することで1日に必要な水分、 電解質を補えるとされる。

ただし、 漫然と3合液 (維持液) を利用するのではなく、 各々の病態にあった輸液製剤を選択する必要がある。 疼痛や侵襲の強い急性期には体液恒常性の破綻から、 低張輸液のみの投与では低ナトリウム血症を引き起こすことがある (※SIADHなど参照)。 また、 腎不全患者であればカリウムを含まない4号液 (術後回復液) が妥当かもしれない。  

補充輸液

急性期には、 脱水や感染、 出血、 ショックなどの病態も合併していることが多い。 このような病態では血漿循環量、 つまり細胞外液が欠乏しており、 補充輸液として細胞外補充液 (等張液) が投与される。

実際にどの程度細胞外液が欠乏しているかは、 血圧の低下、 脈拍の上昇 (特に起立時)、 腋窩や口腔内の乾燥などベッドサイドでの身体所見、 バイタルサインで評価を行う。 また集中治療室入室後や各種検査後には中心静脈圧の低下や、 動脈圧の呼吸性変動、 尿量、 乳酸値などで総合的に評価を行っていく。 また、 胃管や胆道ドレナージ、 イレウス管挿入時には、 それぞれの体液組成から喪失されたと考えうる電解質量を計算し、 補充輸液の一部として追加していく必要がある。

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参考:高張性、等張性、低張性脱水

脱水は、 血漿浸透圧により高張性、 低張性、 等張性脱水に分けられる。 米国ではdehydration (脱水:水分欠乏) とvolume depletion (体液減少:Na欠乏) を区別して使用することが多い

  • 高張性脱水は水分欠乏が主で、 高Na血症を伴う状態で、 尿崩症、 高温環境下における作業者などに発症する。
  • 低張性脱水は体液減少・Na欠乏が主で、副腎皮質機能低下症、 塩類喪失性腎炎などでみられる。
  • 等張性脱水は糖尿病やマンニトール投与後などの浸透圧利尿後に発症する。
水分欠乏が主な高張性脱水では、 3号液などの維持液類や5%ブドウ糖液などが投与される。 また、 Na欠乏型の低張性から等張性脱水では、 細胞外液に電解質を補うために、 生理食塩液や細胞外液補充液が投与されることが多い。

参考:小児の場合

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holiday-segarの輸液計算式が参考になる

輸液療法の再評価

輸液療法開始後に病態が変化する可能性や、 初期評価が不適当である可能性もある。 そのため、 体重や尿量、 バイタル、 採血結果 (電解質や腎機能など) を適宜確認し、 その都度最適な輸液製剤、 輸液量へ変更していく必要がある。 急性期であれば1日単位でなく、 数時間や数十分単位で再評価を要することもある。

最終更新:2024年4月1日
監修医師:聖路加国際病院 清水真人

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HOKUTO編集部
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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