HOKUTO編集部
5ヶ月前
米国臨床腫瘍学会 (ASCO 2024) の泌尿器癌領域における注目演題について、 虎の門病院臨床腫瘍科部長の三浦裕司先生にご解説いただきました。
ASCO 2024の泌尿器癌領域では、 臨床を変えるような大きな発表はなく、 これまでに発表された第Ⅲ相試験のサブグループ解析の結果や、 全生存期間 (OS) のフォローアップ、 バイオマーカー探索の結果などが中心であった。
ここ数年、 メインの国際学会で狂騒のように繰り広げられた臨床試験の結果の合間に、 これまでの試験結果について、 少し落ち着いて、 時にはマニアックに、 皆で考える時間をもらった―。 泌尿器腫瘍医にとってはそのような印象を抱く学会だったと思う。
その中から、 今回は4つの演題について解説したい。
概要
淡明細胞型腎細胞癌に対する1次治療として、 抗PD-L1抗体アベルマブ+チロシンキナーゼ阻害薬アキシチニブ併用療法の有効性および安全性を、 マルチキナーゼ阻害薬スニチニブを対照に比較した第III相無作為化比較試験JAVELIN Renal 101である。
共主要評価項目の1つである無増悪生存期間 (PFS) では有意な結果が出ており、 国内でも保険承認されている1次治療であるが、 もう1つの共主要評価項目であるPD-L1陽性集団でのOSや、 副次評価項目である全体集団のOSの中間解析の結果がマージナルであったため、 欧州臨床腫瘍学会 (ESMO) や全米総合がんセンターネットワーク (NCCN) など国外のガイドラインでは推奨レベルが他の治療レジメンに比べ1レベル低いものとなっていた。
結果
今回実施されたOSの最終解析結果としては、 PD-L1陽性集団、 全体集団のいずれもOSの延長は認めないというネガティブな結果となった。 この結果は、 これまでの国外ガイドラインの推奨レベルをさらに後押しするデータであり、 アベルマブ+アキシチニブ併用療法を選択する根拠がさらに狭められたことを意味する。
しかしながら、 実臨床では同併用療法による副作用の頻度が比較的少なく、 程度が軽い (かつPFSでは効果を証明できている) という理由から、 フレイル症例、 透析症例、 循環器合併症を有する症例など、 何らかのリスクを持った症例に限っては、 効果と安全性のバランスを考慮した上で有用ではないかと考えられていた。
ただし、 今回発表された毒性の結果では、 スニチニブに比べて血液毒性や味覚障害の発現頻度は低いものの下痢や高血圧の発現頻度は高く、 手足症候群、 疲労、 悪心、 口内炎などの頻度はほとんど変わらず、 有害事象にも十分注意が必要であることが示唆された。
概要
ASCO 2024における腎癌領域では、 本演題が最も注目されていた。 Kidney Injury Molecule-1 (KIM-1)はその名の通り、 薬剤性腎障害や移植腎の拒絶、 自己免疫性腎障害など、 腎臓が障害されるさまざまな状態で上昇することが知られている分子である。 今回、 腎細胞癌の術後療法として抗PD-L1抗体アテゾリズマブの効果を検証した第Ⅲ相多施設共同プラセボ対照二重盲検無作為化比較試験IMmotion010の血清検体を利用して、 約3,000のタンパク質を対象とした網羅的なプレテオソーム解析が行われた。
結果
解析の結果、 再発時において有意に増加したマーカーとしてKIM-1が検出された。 その後、 治療開始前の血清KIM-1高値の集団が低値の集団に比べ、 再発リスクが高いのみでなく、 KIM-1高値 (≥ 86 pg/mL) 集団においてのみ、 アテゾリズマブがプラセボに比して有意にDFSを延長することが認められた (HR 0.72 [95%CI 0.52-0.99] ) 。 即ちKIM-1が予後予測だけでなく、 免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子になる可能性が示唆された。
今後、 前向きでの検証が計画されているとのことであるが、 現在の腎細胞癌への標準治療である抗PD-1抗体ペムブロリズマブでも再現性が得られるのか、 そもそもKIM-1が効果予測になりうるバイオロジーが何なのかなど、 まだまだ解決すべき課題が残されている。
概要
進行陰茎扁平上皮癌を対象にしたペムブロリズマブ+プラチナベース化学療法の有効性および安全性を探索した第II相単群試験HERCULES (LACOG 0218) が発表された。 陰茎癌は、 日本において罹患率が人口10万人当たり年間0.4人¹⁾のいわゆる希少癌であり、 治療開発が難しい癌種の1つである。 今回の研究は、 進行陰茎癌 (転移性50%、 局所進行性13.5%を含む) 37例に対して実施された。
結果
主要評価項目である全奏効率 (ORR) は 39.4% (95%CI 22.9-57.9%) であり、 PFS中央値は5.4ヵ月、 OS中央値は9.6ヵ月であった。 これまで実施されたプラチナベースの多剤併用化学療法の先行研究では局所進行例を対象にした試験が多いため直接比較は難しいものの、 ORR 30-50%のものが多く²⁾³⁾、 今回の結果からペムブロリズマブ上乗せにおける有効性について判断することは難しい。 しかしながら、 バイオマーカー解析において、 TMB-High、 HPV-16陽性例のORRがそれぞれ 75%、 55.6%であり、 特定の症例には効果が得られる可能性が示唆された。
概要
手術不能な再発または転移性尿膜管癌に対するFOLFIRINOX療法の効果と安全性を探索した第II相多施設共同単群試験ULTIMAが発表された。 尿膜管癌は膀胱腫瘍の1%未満とされており、 希少がんの1つである。 組織学的には大部分が腺癌であり、 病理学的には消化管癌に近い性質を持っていることから、 これまでにフッ化ピリミジン系やプラチナ系抗癌薬の併用療法を使用した報告が散見される。
ULTIMA試験では、 5-FU2,400 mg/m² (46時間かけて投与) +オキサリプラチン85 mg/m² (2時間かけて投与) +イリノテカン 150 mg/m² (1.5時間かけて投与) +ロイコボリン400mg/m² (2時間かけて投与) 併用療法 (modified FOLFIRINOX) が21例に投与された。
結果
解析の結果、 ORRは61.9% (完全奏効9.5%、 部分奏効52.4%) 、 PFS中央値は9.3ヵ月 (95%CI 6.7-11.9ヵ月) 、 OS中央値19.7ヵ月 (95%CI 14.3-25.1ヵ月) であった。 これまでに国内ではテガフール・ギメラシル・オテラシル (S-1) +シスプラチン併用療法が使用されることが多く、 いくつかの症例集積報告や症例報告が散見されるが、 これらの報告に比べて、 今回のmodified FOLFIRINOXの奏効割合は比較的高いように思われる。
しかしながら、 本研究ではG-CSF製剤かつレボフロキサシンによる発熱性好中球減少症の1次予防投与が実施されており、 副作用対策には注意が必要と考えられる。
¹⁾ 日本泌尿器科学会編 : 陰茎癌診療ガイドライン2021年版. 2021. 医学図書出版.
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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