HOKUTO編集部
2ヶ月前
本稿では肺癌領域における注目キーワードについて解説していく。 第5回となる今回は、MET遺伝子exon14スキッピング変異 (MET exon14 skipping mutation) について概説する(解説医師 : 国立がん研究センター中央病院呼吸器内科医長 吉田達哉先生)。
MET遺伝子は7番染色体長腕の7q21-q31に位置し、 RAS/MAPK、 Rac/Rho、 PI3K/AKTシグナル伝達経路につながる受容体型チロシンキナーゼをコードしている癌原遺伝子である。
これまでMET遺伝子に対する治療開発は、 METタンパク発現、 MET遺伝子増幅、 MET遺伝子exon14スキッピング変異、 MET融合遺伝子などをバイオマーカーにして行われてきた。 その中で、 肺癌領域においてもっとも治療開発が進んでいるのが、 MET遺伝子exon14スキッピング変異である (図1) ¹⁾。
MET遺伝子exon14は、 膜近傍領域をコードし、 c-Cbl E3ユビキチンリガーゼ結合部位 (ubiquitin ligase binding site) を含んだ領域である。
そのためMET遺伝子exon14そのものの欠失のほか、 イントロン/エクソン部分の遺伝子欠失や遺伝子変異が生じてMET遺伝子exon14がなくなることによって、 ユビキチン化や分解が抑制され、 結果的にMET遺伝子の活性化が生じると考えられている (図2-1、 2-2) ²⁾³⁾。
MET遺伝子exon14スキッピング変異とは、 このような異常をきたす遺伝子変異の総称である。
MET遺伝子exon14スキッピング変異は、 肺腺癌のおよそ3-4%を占め、 高齢者に多く、 性別、 喫煙とはあまり関係しない。 また、 他のドライバー遺伝子 (EGFR、 ALK、 ROS1、 BRAF、 KRAS、 HER2など) 変異とは相互排他的であると報告されているが、 MET遺伝子増幅は高頻度に伴う。
組織型については、 肺腺癌以外では肉腫様癌で頻度が高いことが知られている⁴⁾。
近年、 MET遺伝子exon14スキッピング変異を標的としたMETチロシンキナーゼ阻害薬 (MET-TKI) が複数開発されている。
現在、 本邦で承認されているMET遺伝子exon14スキッピング変異に対するMET-TKIの治療成績 (3種類)⁵⁾⁶⁾⁷⁾とコンパニオン診断薬 (CDx) について、 表1に記載した。
臨床試験の成績からは、 直接比較は難しいものの各薬剤の治療成績は全てほぼ同等と考えられている。 またMET遺伝子exon14スキッピング変異の変異部位*や変異種類**と治療効果との間に関連は報告されていない。
以上の臨床試験の結果に基づき、『肺癌診療ガイドライン 2023年度版』では、 MET遺伝子 exon14スキッピング変異例に対してはテポチニブまたはカプマチニブのいずれかの単剤療法が勧められている⁸⁾。
MET-TKIの特徴的な副作用としては、 末梢性浮腫、 肝機能障害、 消化器毒性 (嘔気、 嘔吐)、 血清クレアチニン上昇、 低アルブミン血症が挙げられる⁹⁾。 有害事象の管理としては、 原則として忍容不能なGrade2の有害事象が発症した際に休薬・減量を行っていくことである。
¹⁾ Int J Mol Sci. 2023 Jun 14;24(12):10119.
²⁾ J Thorac Oncol. 2016 Sep;11(9):1493-502.
³⁾ Clin Cancer Res. 2016 Jun 15;22(12):2832-4.
⁴⁾ 日本肺癌学会バイオマーカー委員会編: 肺癌患者におけるMETex14 skipping 検査の手引き 2020年9月15日 第1.0版
⁵⁾ N Engl J Med. 2020 Sep 3;383(10):931-943.
⁶⁾ N Engl J Med. 2020 Sep 3;383(10):944-957.
⁷⁾ EClinicalMedicine. 2023 Apr 6;59:101952.
⁸⁾ 日本肺癌学会編: 肺癌診療ガイドライン2023年版. 2023.
⁹⁾ Clin Lung Cancer. 2022 May;23(3):195-207.
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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