Beyond the Evidence
1年前
「Beyond the Evidence」 では、 消化器専門医として判断に迷うことの多い臨床課題を深掘りし、 さまざまなエビデンスや経験を基に、 より最適な解決策を探求することを目指す企画です。 気鋭の専門家による充実した解説、 是非参考としてください。
NOM (non-operating management) を目指した切除可能直腸癌におけるTNT (Total neo-adjuvant chemotherapy)での最適なレジメンおよび放射線照射はなにか?
TNTはいくつかの第III相試験で有効性が報告され、NOMによる臓器温存も含め、注目される治療である。しかし放射線照射の線量や化学療法のレジメンに関して、これらの試験では異なっており、最適な線量やレジメンの標準治療は定まっていない。現時点での試験を参考に、臨床現場での個別な判断が求められるが、十分なエビデンスはなく、試験の成熟した生存データや新たな研究結果が待たれる。
切除可能直腸癌の本邦における標準治療は手術±術後補助化学療法であるが、 欧米においては術前化学放射線療法+手術±術後補助化学療法である。 近年、 直腸癌術後の術後合併症や全身状態不良により術後化学療法が十分に行えない症例が多くあることから、 術前化学放射線療法に加えて、 術後補助化学療法として行われる化学療法を術前に行うTNT(Total neoadjuvant chemotherapy)が欧米を中心に提唱されるようになった。
TNTは、 化学療法による遠隔転移の制御をより効果的に加えることができ、 放射線療法による局所制御とともに長期生存を期待できる治療戦略として注目されている。 PRODIGE-23、 RAPIDO、 STELLAR試験と3つの第III相試験において局所進行直腸癌(cT3-4および/またはN+)の異なるTNT戦略が報告されている。
▼PRODIGE-23試験¹⁾
標準治療であるCRT群に対してTNT群 (mFOLFIRINOX 6サイクル+フルオロウラシル併用長期照射+手術±術後化学療法) の優越性を検証した試験である。
▼RAPIDO試験²⁾
標準療法であるCRT群に対してTNT群 (短期照射 25Gy/5Fr+CAPOX 6サイクル or FOLFOX 9サイクル) の優越性を検証した試験である。
▼STELLAR試験³⁾
中国で行われたRAPIDO試験に類似したTNTの試験で、 標準療法であるCRT群とTNT群 (短期照射25Gy/5Fr+CAPOX 4サイクル+手術+術後CAPOX 2サイクル)を比較している。
これら3つの比較試験は全てTNT群で主要評価項目が達成され、 手術内容及び術後合併症に関しても標準治療群と比較して差を認めなかった。 これらの結果をもとにTNTはESMOやNCCN ガイドラインにおいて局所進行直腸癌に対する標準治療の1つであると記載されている。 そしてTNTにより術前治療で臨床的な完全奏効(cCR)が得られた患者に慎重な経過観察を行うことで、 手術なしで経過をみるNOM(non-operating management)にも注目がされている。 直腸癌における手術では術後の頻便が必発となり、 神経障害などの合併症も問題となるため、 臓器温存を目標としたこの治療ニーズは大きい。 しかしまだ十分なエビデンスがなく、 不明点も多い。
例えばこれらの試験において化学療法レジメンや放射線照射が異なっている。 レジメンに関してはPRODIGE-23試験においてはmFOLFIRINOXが使用されており、 試験治療が3剤併用療法を行ったことにより良好であった可能性がある。 またPRODIGE-23およびSTELLAR試験では術後に補助化学療法が行なわれており、 この意義に関しても不明である。
放射線照射に関してはPRODIGE-23試験ではフルオロウラシルを併用した長期照射が、 RAPIDOおよびSTELLAR試験では短期照射が使用されていた。 長期照射が使用されたPRODIGE-23試験では良好なDFSと高いpCRや局所再発制御割合が見られた一方でOSの延長は認めなかった。 短期照射が使用されたRAPIDOおよびSTELLAR試験においては一部異なる結果が報告されているが、 RAPIDO試験では局所再発率がやや高い結果となり、 STELLAR試験ではDFSの有意な延長はなかった。 しかしRAPIDO試験では良好な遠隔転移制御率が報告され、 STELLAR試験においてOSの有意な延長も報告されていた。
このことからNOMを目指した治療を検討する場合には長期照射による高いDFSとCRを期待した治療が選択肢となる可能性がある。 一方でcT4やcN2などでより進行した特徴をもつ対象の場合には、 手術を前提として、 短期照射による良い遠隔転移制御率やOSを期待した治療が選択肢となる可能性がある。 しかしこれらのエビデンスは十分ではなく、 試験の成熟した生存データや今後の新たな研究結果が待たれるところである。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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