
本記事では、 NCCNガイドラインの最新版 (Version 1.2025) について、 Version 4.2024からの変更点にフォーカスし、 診療に活用しやすい情報を整理する。
本稿はNCCNガイドライン Version 1.2025を基に作成しています (閲覧日 : 2025年3月18日)

改訂のポイント
- 免疫エフェクター細胞関連血球毒性 (ICAHT) の概念が追加
- ICAHTリスクを予測するためのCAR-HEMATOTOXスコアが追加
- 免疫エフェクター細胞関連HLH様症候群 (IECHS) の定義が追加
CAR-T細胞療法の患者管理は?
治療前、 治療中、 治療後の患者管理の要点は以下のとおり。なお、 米国における診療体系と、 外来治療体制に制約のある日本の医療環境とでは、 運用上の相違が存在することに留意すべきである。
治療前・治療中
✅ ベースライン評価
- 心機能評価 : 心エコーを実施し、 必要に応じて循環器科にコンサルトする。
- 神経評価 : ICEスコアを評価し、 必要に応じて脳MRIも検討する。
- 腫瘍崩壊症候群リスク評価 : 適切な予防およびモニタリングを実施する。
- ICAHTリスク評価 : 血算、 CRP、 フェリチンを測定する。
🔢 CAR-HEMATOTOX スコア
- 感染症スクリーニング : HIV、 HBV、 HCVを確認し、 必要に応じてCMVも確認する。
✅ 投与準備
- 中心静脈カテーテル : 輸液および昇圧薬投与に備え、 ダブルまたはトリプルルーメンカテーテルを留置する。
- 抗けいれん薬予防投与 : 神経毒性リスクがある場合は投与当日より開始する。
例 : レベチラセタム500~750 mgを1日2回、 30日間投与
✅ 投与後モニタリング
- 心電図 : Grade 2以上のCRS出現時や、 臨床的意義のある不整脈出現時にモニタリングする。
治療後
✅ 管理体制
- CAR-T療法の経験を有する施設での入院管理を原則とする。 外来移植管理の十分な経験を有する施設においては、 極めて厳密な外来モニタリングも許容される。
- サイトカイン放出症候群 (CRS) または神経毒性の初期兆候 (発熱、 低血圧、 意識障害など) が認められた場合は、 速やかに入院管理へ移行する。
✅ 検査モニタリング
- CBC、 電解質 (マグネシウム・リンを含む)、 凝固系を毎日測定する。
- CRPおよびフェリチンは投与後2週間にわたり週3回以上測定し、 CRS発現時は毎日測定を考慮する。
✅ バイタルサイン管理
- 投与後1~2週はCRSリスクが最も高い期間であり、 バイタルサインは少なくとも8時間ごとに測定し、 変化を見逃さないよう留意する。
✅ 神経毒性評価
- 入院中は1日2回以上評価を行う。
- 退院後は2~4週ごとに定期評価を継続 (最大2ヵ月まで) し、 状態変化時には速やかに臨時評価を実施する。
✅ 長期フォロー
- CRS、 神経毒性、 その他の有害事象については、 製剤添付文書で推奨される期間 (4週間~最大3~6ヵ月) にわたりモニタリングを継続する。
✅ 生活指導
- 投与後少なくとも8週間は運転および危険作業を禁止する。
CAR-T細胞療法の合併症は?
主な有害事象

参考文献¹⁾を基に編集部作成
その他の有害事象
BCMA標的CAR-T細胞療法*では、 ICANSの定義に当てはまらない神経毒性事象が報告されている。発症時期は投与後11日から108日と、 ICANSよりも遅い。
*日本では、 シルタカブタゲン オートルユーセル (Cilta-cel) とイデカブタゲン ビクルユーセル (Ide-cel) が該当。
- Movement and Neurocognitive Treatment-emergent AEs (MNTs)
症状はパーキンソン病に類似し、 動作緩慢、 非対称性の安静および動作時振戦、 姿勢保持障害、 小声化 (低音症)、 性格変化、 記憶障害などがみられる。 リスク因子としては、 高腫瘍量、 グレード2以上のCRS、 ICANSの既往、 高度なCAR-T細胞拡張または持続が挙げられ、 報告例では男性優位が示唆されている。
最適な治療法はまだ確立されていないが、 軽症の場合はデキサメタゾン10mg/日の投与を考慮する。 症状が持続・重症化または難治性であり、 かつ高循環CAR-T細胞レベルが確認された場合には、 シクロホスファミドなどの化学療法でCAR-T細胞を除去する治療を検討する。 ただし、 これらの治療は経験が限られており、 感染症リスクなど安全性への配慮が必要である。
下位運動ニューロン性顔面神経麻痺、 他の脳神経麻痺、 末梢性感覚神経障害、 末梢性運動神経障害が報告されている。 軽症の場合にはステロイド投与を考慮し、 急性炎症性脱髄性多発神経炎 (AIDP) 様の病態が疑われる場合には免疫グロブリン静注療法を検討する。
CRSの重症度評価と対応は?
米国移植細胞治療学会 (ASTCT) の分類基準およびそれに基づく管理指針を以下に示す。
CRSマネジメントで頻用されるトシリズマブは、 消化管穿孔リスクがあるため、 治療開始前に活動性憩室炎の既往を確認し、 該当例では慎重に使用する。
トシリズマブの供給制限下では、 1回のCRSエピソードにつき投与は最大2回までとし、 併せてステロイドの積極的使用も検討する。

出典
- NCCN Guidelines®, Management of Immunotherapy-Related Toxicities, Version 1.2025
関連コンテンツ
📝 関連レジメン
- Tisa-cel (Tisagen lecleucel)
キムリア® : CD19-CAR-T
- Axi-cel (Axicabtagene ciloleucel)
イエスカルタ® : CD19-CAR-T
- Liso-cel (Lisocabtagen maraleucel)
ブレヤンジ® : CD19-CAR-T
- Ide-cel (Idecabtagene vicleucel)
アベクマ® : BCMA CAR-T
- Cilta-cel (Ciltacabtagene autoleucel)
カービクティ® : BCMA CAR-T
📖 CARーT細胞療法トピック
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