抗菌薬開発では 「プル型インセンティブ」 の導入が鍵、 製薬協・村上氏
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HOKUTO編集部

2ヶ月前

抗菌薬開発では 「プル型インセンティブ」 の導入が鍵、 製薬協・村上氏

薬剤耐性 (AMR) を含む重点感染症対策において、 感染症治療薬の開発は必須である。 日本製薬工業協会 (製薬協) 国際委員会委員長の村上伸夫氏は、 AMRにおける研究開発の問題点と取り組みについて、 製薬企業の視点で報告した。

抗菌薬研究開発の問題点

いまだ魅力的な市場ではない?

■重点感染症の1つとされたAMRの備えは急務

本邦では 「新型インフルエンザ等対策政府行動計画 (以下、 政府行動計画) 」 が今年10年ぶりに改定され、 感染症対策における日本政府の方針が整った。 AMRは、 政府行動計画において定められた重点感染症の5分類の1つ (Group C) として位置付けられている。

最新の論文による推計では、 AMR菌により、 2050年に全世界で191万人が死亡し、 この死亡者数を含めたAMR関連死は822万人に上るとされており¹⁾、 備えが急務である。

■新規抗菌薬創出のためのエコシステムは破綻

こうした状況を踏まえて、 製薬協としては 「社会と患者さんのニーズに応えるため、 新規抗菌薬を創出していく必要がある」 と認識しており、 抗菌薬創出には迅速な開発・承認→厳格な適正使用の推進→事業の黒字化→再投資というエコシステムが重要と考えている。

しかし現状では、 適正使用の推進による抗菌薬の使用量の制限に加えて、 低薬価も影響して事業は赤字に陥り、 新規開発が困難になっている。 社会・ビジネスの両面でサステナブルな仕組みを作らなくてはならないにもかかわらず、 「この仕組みが破綻しているのが現状だ」 という (村上氏)。

■プッシュ型インセンティブによる支援進むも、 米国では厳しい現実

政府の支援や業界による取り組みとしては、 これまでにアカデミアによる技術シーズの探索や厚生労働省医療系ベンチャー・トータルサポート事業 (MEDISO) 等による起業支援などが行われてきた。

またプッシュ型インセンティブによる支援として、 製薬協は国際製薬団体連合会 (IFPMA) の主導で進められたAMRアクションファンドの設立に寄与。 AMRアクションファンドでは、 有志製薬企業などから総額約10億ドルを調達し、 感染症治療薬の開発をしているバイオテックに投資をしている。 AMRアクションファンドでは、 2030年までに2~4品目の新規抗菌薬の上市を目指しており、 これらが達成できる希望的観測もある。

一方で、 プッシュ型インセンティブにおける課題も浮き彫りとなってきた。 抗菌薬の研究開発に関わる人材 (研究者) の減少の問題である。

米国では、 プッシュ型インセンティブによる巨額投資を受けて抗菌薬を上市した企業の多くが、 1~2年以内に倒産や清算、 不良債権売却やレイオフに追い込まれ、 投資が活かされにくいという厳しい現実がある。 各企業がビジネスとして期待する成果が得られなかったためだ。

■魅力的ではない感染症市場の研究領域は、 研究者減少という悪循環に

また研究者の減少も深刻である。 抗菌薬開発を止めた企業の研究者の多くは転職を余儀なくされるが、 米国で2回の転職後も抗菌薬の研究を続けていた研究者はわずか1割だったとの報告がある²⁾。 残った研究者は強い情熱を持っているが、 投資の不足、 職業上のインセンティブの不足、 雇用機会の減少が研究者の情熱を奪っており、 この分野から去らせているという。

残念ながら日本の感染症研究も後退しており、 2019~21年発表の感染症分野の論文数はG7参加国中で最下位の世界12位であった³⁾。

打開策としてのプル型インセンティブの必要性

抗菌薬確保支援事業が導入されるもいまだ力不足

この状況を打開する施策として、 村上氏は、 従来のプッシュ型インセンティブに加え、 「プル型インセンティブの導入の必要性」 を強調した。 プル型インセンティブは、 市場参入への報酬やサブスクリプション制度、 売り上げ保証などをさす。

先進7カ国(G7) サミットおいても、 プル型インセンティブの実施は国際公約として謳われている。

こうした状況を踏まえ日本では、 プル型インセンティブの一つとして、 適正使用の推進により対象製品の売り上げが予測市場規模に達しなかった場合に差額を支援する 「抗菌薬確保支援事業」 が導入された。 ただし、 現在の支援額は、 世界が日本に期待するプル型インセンティブの上限額 (年間64.2億円) とは大きな乖離がある、 力不足だという。

魅力的なプル型インセンティブの導入を

そうした中で製薬協では、 AMR対策への取り組みとして、 国連のAMR対策の一環である日本医療政策機構 (HGPI) が主催するイベントに参加・協賛しているほか、 一般向けには新聞広告での啓発や公開講座、 若者を対象にしたAMR啓発動画コンテストの企画なども実施している。

最後に、 村上氏は 「日本の感染症対策を万全なものとするためにも、 感染症研究の担い手となる研究者の育成に加えて、 魅力的なプル型インセンティブが必要である。 製薬協としては、 支援を継続し、 持続可能な感染症創薬エコシステムの実現に貢献したいと考えている」 と述べた。

出典

1) Lancet. 2024 Sep 28;404(10459):1199-1226 

2) AMR Industry Alliance 2024.08.02発表資料

3) Digital Science. 2022.12.15: Pandemic exposes critical gaps in Japan’s health research

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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