ESMO2025 泌尿器癌の注目演題を解説
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HOKUTO編集部

3ヶ月前

ESMO2025 泌尿器癌の注目演題を解説

ESMO2025 泌尿器癌の注目演題を解説
今年の欧州臨床腫瘍学会 (ESMO 2025) では、 泌尿器領域から4演題がPresidential Symposiumに採択されました。 ここ数年、 泌尿器癌領域の薬物治療における重要な研究成果はESMOで報告されることが多く、 今年も抗体薬物複合体 (ADC) 製剤、 ctDNA、 前立腺特異的膜抗原 (PSMA) と、 ここ数年の"HOT TOPIC"となっている内容が目白押しでした。 本稿では、 近い将来の日常臨床や治療開発の方向性を変える可能性のある重要な演題について、 私見を交えながら解説します。

解説医師

ESMO2025 泌尿器癌の注目演題を解説

KEYNOTE-905試験

CDDP不適格MIBCへの周術期EVP療法

筋層浸潤性膀胱癌 (MIBC)の標準治療はシスプラチン (CDDP) を含む術前化学療法後の根治的膀胱全摘除術 (RC) ですが、 腎機能障害や併存疾患によりCDDP不適格となる患者が約半数を占めます。 このような患者では周術期化学療法なしのRCのみが現行標準であり、 再発率が高く予後不良です。

第III相無作為化比較試験KEYNOTE-905では、 CDDP不適格または拒否のMIBC患者を対象に、 抗Nectin-4標的抗体薬物複合体エンホルツマブ ベドチン (EV) +抗PD-1抗体ペムブロリズマブ (以下、 EVP療法) の周術期投与の有効性・安全性が検証されました。 主要評価項目は無イベント生存期間 (EFS)、 主要副次評価項目は全生存期間 (OS)、 病理学的完全奏効率 (pCR)、 安全性などでした。

イベントリスク60%低減、OSも改善

EVP群に170例、 対照群に174例が1 : 1で無作為割付され、 観察期間中央値は25.6ヵ月 (範囲11.8–53.7ヵ月) でした。 EVP群において、 年齢中央値は74歳 (範囲 47–87歳)、 75歳以上が45.9%、 ECOG PS 0が60%、 男性が80.6%、 CDDP不適格83.5%、 拒否16.5%、 病期はT2N0 17.6%、 T3/T4 78.2%、 N1 4.1%であり、 患者背景は両群間で概ね均衡でした。

主要評価項目のEFS中央値はEVP群で未到達 (NR) であり、 対照群の15.7ヵ月に比べて有意にリスクが低下しました (HR 0.40、 95%CI 0.28–0.57、 片側p<0.0001)。 12ヵ月EFS率は77.8% vs 55.1%、 24ヵ月 EFS率は74.7% vs 39.4%で、 サブグループでも一貫してEVP群が良好でした。

OS中央値は、 EVP群がNRであり、 対照群の41.7ヵ月に比べ有意に延長しました (HR 0.50、 95%CI 0.33–0.74、 片側p=0.0002)。 12ヵ月OS率は86.3% vs 75.7%、 24ヵ月OS率は79.7% vs 63.1%でした。

またpCR率は57.1% vs 8.6% (片側p<0.000001) でした。 なお、 本試験でのpCRはpT0N0と定義され、 未手術例は非奏効に分類されています。

安全性は既報と概ね一致しており、 EVP周術期投与による手術実施率低下も認められませんでした。

EVP療法が周術期MIBCの新たな標準治療となる可能性

周術期EVP療法は、 CDDP不適格/拒否のMIBCにおいてEFS・OS・pCRを有意に改善しました。 手術実施率への悪影響はなく、 安全性も許容範囲内でした。 KEYNOTE-905試験は、 MIBCの周術期治療としてEVP療法が新たな標準となる可能性を初めて示した第III相試験です。

考察 : 本結果は予後不良例の"希望"、 検証課題の解析結果に期待

対照群の結果を見ると、 RC単独の場合は予後が悪いことをあらためて思い知らされます。 CDDP不適格コホートにおいて、 周術期化学療法のエビデンスが出ることは大きな希望です。

EVP療法は転移再発の尿路上皮癌 (UC) で既にパラダイムシフトをもたらしており、 本試験も予想どおりのPositive studyでした。 プラクティス・チェンジになる試験結果と評価しますが、 今後の検証課題として、 以下の3点が挙げられます。

  • CDDP適格例に対し、 CDDPベースの周術期療法と比較してEVP療法が優れるか (EV-304試験の結果待ち)
  • 術後に全例で療法が必要か (術後EVP・ペムブロリズマブ単独・経過観察の比較や、 リアルワールドデータの蓄積、 末梢神経障害の管理)
  • ctDNAを用いた層別解析の結果

KEYNOTE-905試験の詳細結果を確認する

(ESMO 2025 HOKUTO編集部レポート)

IMvigor011試験

術後ctDNA陽性MIBCへのアテゾリズマブ

第Ⅲ相IMvigor010試験¹⁾では、 MIBCに対する術後療法としての抗PD-L1抗体アテゾリズマブの有効性を示せませんでしたが、 その探索的解析において、 ctDNAが予後予測因子かつ免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の治療効果予測因子となり得ることが示唆されました。

そこで第Ⅲ相IMvigor011試験では、 術後ctDNA陽性コホートに限定してアテゾリズマブの有効性が検証されました。 主要評価項目は担当医評価による無病生存期間 (DFS) で、 副次評価項目はOSでした。

DFS、 OSを有意に改善

登録されたctDNA陽性MIBC379例のうち、 除外された129例を除いた250例が、 アテゾリズマブ群167例、 プラセボ群83例に2 : 1で無作為割付されました。 患者背景は、 年齢中央値69歳、 ほぼ全例がECOG 0–1、 pT3/4が約7割、 N+が約6割で、 初回評価でのctDNA陽性が約6割、 追跡中の陽転化症例が約4割でした。

担当医評価によるDFS中央値は、 アテゾリズマブ群9.9ヵ月 vs プラセボ群4.8ヵ月で、 HRは0.64 (95%CI 0.47–0.87、 p=0.0047) であり、 両群間に有意差を認めました。 12ヵ月DFS率は44.7% vs 30.0%、 24ヵ月DFS率は28.0% vs 12.1%でした。

また、 OS中央値は32.8ヵ月 vs 21.1ヵ月、 HR 0.59 (95%CI 0.39–0.90、 p=0.0131) と、 明確なアテゾリズマブ上乗せ効果を認めました。

一方、 1年間のフォロー期間において常にctDNA陰性だったコホートでは、 24ヵ月DFS率は 88.4%、 24ヵ月OS 率は97.1%と良好に経過しました。

ctDNA層別化で免疫療法の便益受ける集団抽出が可能に

ctDNAガイド下の術後アテゾリズマブは、 ctDNA陽性MIBCのDFSおよびOSを有意に改善しました。 非選択集団で有効性を示せなかったIMvigor010試験と異なり、 ctDNAによる層別化で免疫療法の便益を受ける集団を抽出できる可能性が示されました。

考察 : ctDNAベースの治療戦略が確立、 陽性例は強化治療の検討余地あり

IMvigor011試験は、 MIBC術後治療における 「ctDNAベースの治療戦略」 を確立した重要な第Ⅲ相試験と考えます。 他の周術期MIBCに関する大規模試験でも同様の傾向が再現されるか、 今後の検証が重要です。 また、 ctDNA陽性コホートではアテゾリズマブによる治療を実施してもなお再発が多い点から、 この高リスク集団に対する強化治療の検討余地があると感じます。

PSMAddition試験

PSMA陽性mHSPCへの177Lu-PSMA-617+標準治療

放射性リガンド療法177Lu-PSMA-617は、 第Ⅲ相VISION試験において、 ARPI治療後に病勢進行が認められたPSMA陽性の転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)における生存期間の延長を示しました²⁾。

そこで第Ⅲ相PSMAddition試験では、 ホルモン感受性転移性前立腺癌 (mHSPC) に対するアンドロゲン除去療法 (ADT) +アンドロゲン受容体経路阻害薬 (ARPI) への177Lu-PSMA-617追加の有効性・安全性が検証されました。 主要評価項目は画像診断による無増悪生存期間 (rPFS)、 主要副次評価項目はOSが設定され、 今回 rPFSは2回目、 OSは1回目の中間解析結果が報告されました。

rPFS中央値が有意に改善、OSは改善傾向

スクリーニング1,529例、 PSMA陽性1,232例のうち1,144例が、 177Lu-PSMA-617併用群と対照群に1 : 1で無作為割付されました。 年齢中央値は68歳 (範囲 36–91歳)、 70歳以上は43%、 ECOG 0–1が97%以上で、 高腫瘍量は68%、 新規診断mHSPCは52.1%でした。 また、 投与されたARPIはアビラテロン37.6%、 アパルタミド32.9%、 エンザルタミド22.1%、 ダロルタミド6%でした。

rPFS中央値は両群とも未到達 (NE) ながら、 HR 0.72 (95%CI 0.58–0.90、 p=0.002) と177Lu-PSMA-617併用群が有意に良好な結果を示し、 事前に規定されたサブグループでも一貫して177Lu-PSMA-617併用群の優位性が示されました。

OS中央値は両群ともNEであり、 HR 0.84 (95%CI 0.63–1.13、 p=0.125) と177Lu-PSMA-617併用群で数値的改善を示しました。

その他の評価項目も良好な結果

その他の主な副次評価項目 (177Lu-PSMA-617併用群 vs 対照群) に関しては、 客観的奏効率 (ORR) は85.3% vs 80.8% (完全奏効[CR]率 57.1% vs 42.3%)、 PSA値上昇までの期間は両群ともNR (HR 0.42[95%CI 0.30–0.59])、 48週時のPSA<0.2 ng/mL達成率は87.4% vs 74.9%、 mCRPC移行までの期間はNR vs 29.63ヵ月 (HR 0.70[95%CI 0.58–0.84]) でした。

安全性は既知の毒性プロファイルと一致し、 新たなシグナルは認めませんでした。 Grade≥3の有害事象 (AE) 発現率は50.7% vs 43.0%、 177Lu-PSMA-617併用群で認められた主なAEは口渇、 疲労、 悪心、 便秘、 食欲低下、 嘔吐、 下痢、 味覚異常、 血液毒性 (貧血28%、 好中球減少14.7%、 血小板減少11.2%) で、 治療関連死亡は認められませんでした。

考察 : PFS改善効果は明確、 OSの長期結果に期待

PSMAddition試験における対照群は、 現在の標準治療であるARPI併用療法であり、 比較評価が実施しやすい試験デザインです。 PFSの改善効果は明確で、 OSの長期追跡結果が注目されます。 日本ではmCRPCに対し177Lu-PSMA-617が承認されていますが、 mHSPCや実臨床での同薬の普及には引き続き時間を要すると考えます。

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(ESMO 2025 HOKUTO編集部レポート)

RC48-C016試験

未治療HER2発現進行尿路上皮癌へのDV+toripalimab

HER2陽性UCに対しては、 第Ib/II相RC48-C014試験において、抗HER2抗体薬物複合体disitamab vedotin (DV)が有効性を示しており、 抗PD-1抗体toripalimabとの併用 (DV+T) でも、 前治療歴を問わずORR 76%、 PFS中央値9.3ヵ月と有望な結果が報告されています³⁾。

そこで第III相RC48-C016試験では、 未治療のHER2発現 (IHC 1+以上) の局所進行/転移性UCにおける1次治療として、 DV+Tの有効性・安全性が化学療法と比較評価されました。 主要評価項目は盲検下独立中央判定 (BIRC) による PFSおよびOS、 副次評価項目は担当医評価によるPFS、 ORR、 奏効期間 (DoR)、 安全性などでした。

PFS・OSのいずれも有意に改善

スクリーニング811例のうち484例が、 DV+T群243例、 化学療法群241例に1 : 1で無作為割付されました。 DV+T群の年齢中央値は66歳、 ECOG 0–1が97%以上、 HER2 IHC 1+が22.6%、 2+/3+が77.4%でした。 内臓転移、 原発巣が上部尿路、 およびCDDP適格の患者は両群とも約半数でした。

BIRC評価によるPFS中央値はDV+T群13.1ヵ月 vs 化学療法群6.5ヵ月、 HR 0.36 (95%CI 0.28–0.46、 p<0.0001) で、 DV+T群が有意に良好でした。 12ヵ月PFS率は54.5% vs 16.2%でした。 事前規定されたサブグループ (HER2発現、 PD-L1、 臓器転移、 年齢、 PS) でも、 一貫してDV+Tは有効な結果を示しました。

OS中央値は31.5ヵ月 vs 16.9ヵ月で、 HRは0.54 (95%CI 0.41–0.73、 p<0.0001) と両群間に有意差を認めました。 12ヵ月OS率は79.5% vs 62.5%、 18ヵ月 OS率は64.6% vs 48.1%でした。

ORRは76.1% vs 50.2% (CR 率4.5% vs 1.2%)、 DoR中央値は14.6ヵ月 vs 5.6ヵ月で、 いずれもDV+T群が優れていました。

後治療を受けた患者割合は、 DV+T群27.2% (主に殺細胞性抗癌薬)、 化学療法群64.7% (うち抗HER2療法40.2%、 抗PD-1/PD-L1抗体50.2%) でした。

安全性では、 Grade≥3の治療関連有害事象 (TRAE) 発現率は55.1% vs 86.9%であり、 DV+T群で少ない傾向にありました。 DV+T群の主なAEはトランスアミナーゼ上昇、 貧血、 末梢神経障害、 発疹などで、 免疫関連AEのGrade≥3は18.9%でした。 全体としてDV+Tは化学療法よりAEが少なく、 許容可能でした。

DV+Tは未治療HER2発現mUCの新たな標準治療の候補

本試験は、 HER2発現mUCにおいて抗HER2抗体薬物複合体+抗PD-1抗体が、 化学療法に比べて有効であることを第III相試験で初めて示しました。 この結果から、 DV+Tは1次治療の新たな標準候補と位置付けられます。

考察 : EV+Pとの使い分けやADC同士の治療戦略も検討課題に

本試験の対象はHER2 IHC 1+以上であり、 実臨床での適格患者は少なくないと考えます。 中国単独で行われた第III相試験ではあるものの、 HER2発現局所進行性または転移性尿路上皮癌に対するDV+ペムブロリズマブを化学療法と比較評価した国際第III相試験SGNDV-001でも同様の有効性が示されるかが注目されます。

DV+TはHER2陽性UCの1次標準治療となることが期待され、 今後はEVP療法との使い分けや、 ADC同士 (DV↔EV) の逐次治療戦略についてもデータ蓄積が望まれます。 また、 毒性面ではDVが比較的マイルドである可能性があり、 プラクティスを大きく変える潜在能力があります。

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(ESMO 2025 HOKUTO編集部レポート)

まとめ

「CDDP不適格コホートにおける周術期膀胱癌の化学療法の確立」、 「膀胱癌に対するctDNAベースの術後化学療法のエビデンス確立」、 「PSMAベースの治療におけるmHSPCへの有効性拡張」、 「UC領域における1次治療での抗HER2抗体薬物複合体の登場」 と、 今回のESMOも非常にエキサイティングでした。 今後の長期フォローアップデータや探索的解析の結果にも要注目です。

出典

¹⁾ Lancet Oncol. 2021 Apr;22(4):525-537.

²⁾ N Engl J Med. 2021. 16;385(12):1091-1103.

³⁾ Ann Oncol. 2025 Mar;36(3):331-339.

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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