「医療安全の仕事は“指摘”ではなく“橋渡し”」 近畿大学病院安全管理センター医療安全対策部・武本智樹部長代行 (前編)
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2日前

「医療安全の仕事は“指摘”ではなく“橋渡し”」 近畿大学病院安全管理センター医療安全対策部・武本智樹部長代行 (前編)

 「医療安全の仕事は“指摘”ではなく“橋渡し”」 近畿大学病院安全管理センター医療安全対策部・武本智樹部長代行 (前編)
医師の働き方改革が本格化した今、 医療安全のあり方が改めて問われている。 現場のマルチタスク化が進むなか、 見落とされがちな 「微細なインシデント」 をどう拾い上げ、 安全文化につなげているのか。 近畿大学病院安全管理センター医療安全対策部長代行の武本智樹氏に話を聞いた。 

安全管理センター 医療安全対策部 概要

病院長直轄の安全管理センター内に位置。 専従医師の武本氏、 専従看護師2人、 専従薬剤師1人、 兼任看護師1人、 兼任臨床工学技士1人の計6人が所属。 各診療科や各病棟には、 病棟看護師長などリスクマネジャーを配置し、 それぞれの部署で改善活動を進める。

さらに下部組織として、 主任クラスのコメディカル職員で構成する 「医療安全チーム会」 を設け、 グループワークやラウンドなど、 より現場に即した活動をしている。

一人で抱え込まない、 チームで支える仕組み

――働き方改革が進む時代に、 医療安全で求められることは何でしょうか。

「働き方改革が進み、 一人の医療者が患者さんを抱え込む時代ではなくなりました。 だからこそ重要になるのが、 チームで患者さんを支えるための情報共有やコミュニケーションです。 近畿大学病院では、 前医療安全対策部長の辰巳陽一先生が、 2012年から全職員を対象にTeamSTEPPS (チームステップス) によるノンテクニカルスキル教育を続けてきました。 心理的安全性などの考え方は院内に浸透し、 チームで患者さんを支える文化の土台になっていると感じています」

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※写真はイメージです

「標準化によって誰でも同じ業務ができるようになり質が安定する一方で、 現場の工夫や小さな違和感などは埋もれてしまいます。 複雑化した医療現場にはその声を拾い上げる仕組みが必要です。 私たちは、 その仕組みづくりに取り組んでいます」

ポジティブインシデント報告で、 マイナスイメージを減少

――現場の声を拾い上げるための具体策を教えてください。

「報告のハードルを下げるため、 インシデント報告の項目を最低限に絞り、 電子カルテ内のシステム上で報告が完結できるようにしました。 その代わり、 『なぜ次のレベルの事故に至らなかったのか』を記載する項目を設けました。 これにより、 ポジティブインシデント報告を増やす狙いです」

「インシデント報告は現場からの重要な情報発信です。 スタッフから報告が上がってきたら、 まず報告者にシステム上または電話で 『ありがとう』と伝えます。 そして、 レベルに関係なく全件に目を通し、 気になる内容があればすぐに部内で共有。 必要に応じて現場へ足を運びます。 私もできるだけ現場に顔を出し、 雑談という名の聞き取りで現場の声を集めるようにしています」

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――ポジティブインシデント報告について教えてください。

「従来、 インシデント報告には始末書といったマイナスのイメージがありました。 私も外科医時代は『また書かなければならない』と感じていました。 しかし、 医療安全はルールを作って守らせるだけでは成り立ちません」

「そこで近畿大学病院では、 2015年から、 事故を未然に防ぐための工夫や、 現場でうまく機能した実践に目を向ける『ポジティブインシデント報告』に取り組んでいます。 ただ、 同報告内容は、 報告者と医療安全部門の職員以外には見えません。 そこで個人や部署の取り組みを『ポジティブインシデント大賞』として表彰し、 全職員の前で共有・称賛する仕組みを設けました」

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2025年度のポジティブインシデント大賞授賞式の様子

「その結果、 集計を開始した2018年に116件だったポジティブインシデント報告は、 2024年に784件まで増加しました。 同時にインシデント報告も9,552件から12,153件、 アクシデント報告も244件から279件へと報告の全体数が増加しました。 職員が報告を前向きに捉える文化が根づいてきた結果だと感じています」

――現場の声を拾い上げるための定期的な活動はありますか。

「現在は、 Rapid response teamラウンドと、転倒・転落ラウンドを実施しています。 特に転倒は年間約800件発生しており、 患者背景や環境など複数の要因が関わるため、 画一的な対策だけでは防ぎきれません。 そこで2024年から、 80歳以上かつ転倒歴のある方を 『重点的に支援する対象』とし、 医師、 看護師、 薬剤師、 リハビリ、 施設管理事務員が連携してラウンドを行なっています」

「具体的な取り組み内容としては、 毎回同じ医師2人が同行し、 患者さんへ『トイレに行く時はナースコールを押してくださいね』などと声かけを実施するなどしています。 医師という立場ならではの影響力を活かすことで、 患者さんの行動変容につなげています。 その結果、 対象患者さんの転倒は減少傾向を示しています。 また、 ラウンドを通じて視点を現場スタッフへ安全への視点が広がったことで、 対象外の患者さんにおいても転倒の減少傾向がみられています」

医局の壁・職種の壁を越えた安全対策を実施

――取り組みをさらに発展させるうえで、 必要なことを教えてください。

「TeamSTEPPS研修やポジティブインシデント報告を通じて、 声を上げやすい文化づくりは進んできました。 次に越えなければならないのは『医局の壁』と『職種の壁』だと思っています」

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「大学病院には複数の疾患を抱える患者さんが多く、 一つの診療科だけで患者さんの全体像を診るのは難しくなっています。 さらに、 専門性が高まるほど、 医師は自身の専門領域を中心に診察する傾向があります。 そこで、 関係する診療科や職種が一堂に集まり、 病態を共有し、 今後の治療方針を話し合う場を設けるための仕組み『チーム医療依頼状』をつくりました。 これは困った時に、 誰でも医療安全対策部へ助けを求められる仕組みです。 依頼状を受け取った医療安全対策部は、 関係者をつなぐハブとして、 日程調整や話し合いの進行を担います。 開始当初は病棟看護師からの依頼が中心でしたが、 現在では医師からの相談も増えています。 成功体験が積み重なり、 診療科の壁を超えた連携が少しずつ根づいている手応えを感じています」

「また2024年からは、 褥瘡や嚥下、 疼痛管理など院内の専門チーム同士をつなぐ『チーム医療合同会議』を始めました。 お互い顔の見える関係をつくり、 それぞれの強みを持ち寄りながら患者さんを支える仕組みを育てていきたいと考えています」

(>>続く)

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HOKUTO編集部
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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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