【日本初】男性不妊症診療GLが発刊 : 委員長・辻村晃氏に聞く
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HOKUTO編集部

4ヶ月前

【日本初】男性不妊症診療GLが発刊 : 委員長・辻村晃氏に聞く

【日本初】男性不妊症診療GLが発刊 : 委員長・辻村晃氏に聞く
2024年2月に本邦初となる『男性不妊症診療ガイドライン2024年版』が発刊された。 その要点について、 同ガイドライン作成委員長で順天堂大学浦安病院泌尿器科教授の辻村晃氏に聞いた。

若年世代の性機能障害が増加か

―日本の男性不妊症の原因は

大きく 「精液所見の悪化」 「性機能障害」 の2点が挙げられます。

精液所見の悪化

日本人の精子数は1973~2011年にかけて緩やかに減少しています。 特に、 今後挙児を希望している、 あるいは結婚を予定している若年層においても、 およそ4分の1は世界保健機関 (WHO) が規定する精子濃度の基準値*に到達していませんでした。

*精子濃度の基準値 : 精液量1.4ml、 精子濃度1,600万個/ml、 精子運動率42%

性機能障害 / 若年世代の性欲低下

厚生省 (現厚生労働省) が過去2回 (1997年、 2015年) にわたり行った全国調査によると、 性機能障害の割合が約4倍(97年 : 3.9%、 15年 : 13.5%)に増加しています。

さらに、 日本性機能学会が2023年に行った日本人男性の性機能に関する調査からは、 「性欲をまったくまたはほとんど感じない / まれにしか感じない」 と回答した20代前半の男性が増えてきていることが分かっています。

性欲低下に関する調査結果
【日本初】男性不妊症診療GLが発刊 : 委員長・辻村晃氏に聞く
辻村晃氏提供資料を基に編集部作成

少子化対策の高まりから男性不妊診療の指針が急務に

―男性不妊症診療GL2024年版の発刊の経緯は

昨今の少子高齢化に伴い、 菅義偉元首相が2020年に不妊治療 (生殖医療) の保険適用化の早期実現を提示し、 翌年11月に 「生殖医療ガイドライン」 が発刊されたことを機に、 本邦では2022年4月から生殖医療が保険適用となりました。

ところが、 同ガイドライン内で男性側に関わるクリニカル・クエスチョン (CQ) はわずか5つと、 男性不妊症への標準治療を網羅した内容とは言えませんでした。 そのため、 男性不妊症の診療指針を示すガイドラインの必要性が以前から議論されていたものの、 この領域ではエビデンスの高い根拠となる多数例での無作為化比較試験がほとんど存在しなかったため、 長期にわたり作成を断念せざるを得ない状況が続いていました。

しかし、 少子化対策の高まりとともに妊活や生殖医療といった目的で泌尿器科を受診する患者が増えることも予測され、 男性不妊症診療ガイドラインの作成が急務と考えられたことから、 この度の発刊に至りました。 また上述した調査結果から若年世代の不妊症に注目が集まったことも、 今回のガイドライン作成に至った経緯の1つです。

総論や標準治療に関しても網羅

―GLの全体構成や特徴は

本ガイドラインは必ずしも男性不妊症を専門としない医師であっても標準的な診療に携われるよう、

  1. エビデンスが比較的多い内容に関する 「クリニカル・クエスチョン (CQ) 」 (13つ)
  2. 総論的な知識・情報として共有すべき 「バックグラウンド・クエスチョン (BQ) 」 (7つ)
  3. 現時点では標準治療とは言い難いものの将来的な課題と想定される5の 「フューチャー・クエスチョン (FQ) 」 (5つ)

の3分野から、 成書的な意味合いも含めて臨床疑問が記載されています。

外科的治療のCQ

精索静脈瘤に対する手術は推奨されるか

たとえばCQ7 「精索静脈瘤に対する手術は推奨されるか」 については、 精索静脈瘤が本邦の男性不妊症のおよそ3割を占める疾患の1つで、 手術もすでに保険収載されています。 生殖医療専門医の中では精索静脈瘤に対する手術は一般的な対応ですが、 今回はCQに落とし込んでいます。

CQ7に対するAnswer
【日本初】男性不妊症診療GLが発刊 : 委員長・辻村晃氏に聞く
出典 : 男性不妊症診療ガイドライン2024年版

NOAに対するmicro-TESEは推奨されるか

また、 CQ9 「非閉塞性無精子症 (NOA) に対する顕微鏡下精巣内精子採取術 (micro-TESE) は推奨されるか」 に関しては、 日本独自の実態を考慮した推奨グレードを設定しています*。 micro-TESEは米国や欧州などにおいて必ずしもエビデンスを基に高く推奨されている方法ではありませんが、 日本の男性不妊診療を標準化した本ガイドラインでは、 あえて高いグレードで推奨することとしました。

CQ9に対するAnswer
【日本初】男性不妊症診療GLが発刊 : 委員長・辻村晃氏に聞く
出典 : 男性不妊症診療ガイドライン2024年版
*日本人は精子採取率の高さ、 合併症リスクの低さ、 Sertoli cell only例が多いなどの特徴から、 本邦ではNOAに対し一般的にmirco-TESEが実施されている。

内科的治療のCQ

薬物療法に関しては"Ⅱ 内科的治療"のセクションにおいて、

  • 男性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に対するゴナドトロピン療法 (CQ4)
  • テストステロン低値例に対するクロミフェン投与 (CQ5)
  • 特発性男性不妊症への抗酸化薬投与 (CQ6)
  • アロマターゼ阻害薬使用 (FQ4)

に関して、 それぞれの治療指針を定めています。

また、 CQ12 「PDE5阻害薬は勃起障害 (ED) による男性不妊症に推奨されるか」 ではEDに対するPDE5阻害薬を推奨すること※とし、 本邦で男性不妊症の保険診療として使用できるシルデナフィルおよびタダラフィルの具体的な投与スケジュール等についても触れています。

※EDに対するPDE5阻害薬の適応には下記の条件を満たす必要があります。
① 本人が不妊症の診断を受け、 本人またはそのパートナーが6ヵ月以内に 「一般不妊治療管理料」 または 「生殖補助医療管理料」 の算定を受けていること
ED診療ガイドライン (第3版) の診断アルゴリズムに従って勃起不全と診断されたこと
また、 処方に際しては
1,1回の処方あたり1周期分・4錠を上限
2,繰り返し処方する場合は、 継続投与の期間は6ヵ月を目安
※6ヵ月~1年 : 必要と判断した理由を診療録及びレセプトの摘要欄に記載 
※1年超 : 原則、 繰り返し処方は不可
という条件が定められています。

専門医は不足も志望者は増加傾向

―生殖医療専門の泌尿器科医の割合は

生殖医療専門医1,084人のうち、 泌尿器科医の割合はわずか7% (79人) にすぎず、 残りの93% (1,005人) は産婦人科医です*。

現実問題として、 大学病院勤務の泌尿器科医であれば診療の大半は悪性腫瘍や排尿障害に対する外科的治療や移植医療であり、 生殖医療に携わる割合はごく一部にすぎません。 生殖医療専門医を取得せずとも泌尿器科医としてのキャリアを構築することは十分できるため、 専門医を目指す先生はあまり多くないのが実情です。

ただし先述の通り、 少子化対策が注目を集めており男性不妊症は治療が必要だという考えが広まりつつあること、 生殖医療専門医に希少価値を感じてくれた若手の先生が増えてきたことなどから、 徐々に希望者は増えてきていると感じています。
*2024年4月時点

非専門医も生殖医療の知識習得を

―HOKUTO泌尿器科会員へのメッセージをお願いいたします

2022年7月以降、 保険下で対応可能な生殖医療の幅が広がりました。 今後はさらに、 こうした医療を求めて一般泌尿器科を受診する患者も増える可能性は高く、 男性不妊症を専門としない泌尿器科医も生殖医療の基礎知識を身につけておく必要があるでしょう。

全国の患者が生殖医療の一般診療を受けられるようになるため、 男性不妊症診療ガイドラインをご活用いただけたらと思います。

解説医師

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出典

日本泌尿器科学会編:男性不妊症診療ガイドライン2024年版. 2024.メディカルレビュー社.

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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