寄稿ライター
11ヶ月前
「大阪では女性医師が少ないな」 って感じたことありますか? とある健診クリニックの事務長がボヤいていました。
筆者は大阪の勤務医で、 「とある健診クリニック」 とは非常勤先のことです。 そちらのクリニックでは、 前任の婦人科担当女性医師が退職することになり、 急遽医師を確保しなければならないという状況でした。
面接の時、 事務長は私の顔をみて安心した表情を浮かべていました。 なかなか女性医師が見つからず苦労していたとのこと。 話を詳しく聞いてみると以下のような内容でした。
「普段は東京や東北で医師のリクルートを行っているが、 スムーズに医師が見つかる。 今までこんなに苦労したことはない。 大阪では女性の産婦人科医が全然いないですね」
個人的な実感としては、 大阪が女性医師が少ないと感じたことはありません。 医学部の同級生も4割が女性でした。 就職後も多数の女性医師と仕事をしてきました。 そこで 「本当に大阪では女性医師が少ないのか?」 について検証してみようと考えました。
まず、 日本全体での女性医師の割合は3割弱です。 厚生労働省の 「令和2年医師・歯科医師・薬剤師統計」 によると、 全国で医師は33.9万人。 そのうち男性は26.2万人と77.2%を占めています。 女性は7.7万人 (22.8%) でした。
医師免許を持っていても働き方は様々。 今回は臨床医について知りたいので、 実際に病院・診療所で働いている医師数を調べました。 医療施設で勤務している医師は32.4万人。 医師の95%は病院や診療所に所属しているのですね。
クリニックでバイトをするときには、 各科の専門医を持っていることは必須と言えます。 次に専門医の数についてみていきます。 今回は産婦人科専門医に絞って検討します。
日本産科婦人科学会ホームページによると、 2024年2月時点で東京都の産婦人科専門医は2369人。 そのうち1200人程度は女性医師です。 一方、 大阪府は専門医1107人で、 うち490人程度は女性医師です。
確かに人数で比較すると、 大阪における女性産婦人科専門医の数は東京の半分以下です。
ただ、 これは東京では人口やクリニック数が多いため当然の結果と言えるでしょう。 そこで、 医療介護情報局で産婦人科 or 産科 or 婦人科を標榜している診療所 (有床・無床) の件数を調べると、 東京は907件、 大阪は421件のクリニックが登録されていました。
つまり東京都には900件のクリニックに対して1200人の女性専門医、 大阪府には420件のクリニックに対して490人の女性専門医がいるということになります。 クリニック1件あたりに換算すると、 東京都は1.33人、 大阪は1.17人。
このように比較すると、 あまり差は大きくないように感じます。 大阪に産婦人科女性医師が少ないとは言い切れないと考えます。
では、 先述の事務長さんのボヤキは単なる勘違いなのでしょうか。 このボヤキは、 「平日の日中にクリニックで非常勤勤務できる医師の確保」 についてです。
平日日中にバイトをするのは、 病院や診療所で常勤で働いていれば不可能です。 医局に属している医師も難しいのではないでしょうか。
東京でも勤務経験がある私の肌感覚では、 東京と大阪の地域性が関連していると思っています。
東京は、 生まれも育ちも就職も東京という 「東京ネイティブ」 が多数いらっしゃるのは事実ですが、 仕事や研修のために東京にいる医師も多いです。 一時的に居住している医師も多く、 常勤ではないためクリニックでバイトできる医師が多いのかもしれません。
大阪では生まれ育ちや出身大学において、 大阪ネイティブの医師が多いです。 医局に属して働いており、 平日にバイトできる医師が少ないと考察されます。 また、 地元にいるので子育てや介護などの家庭の事情を持っている医師も多く、 平日日中に自由に動けない医師が多いのかもしれません。
都道府県や地域ごとの医師の数については、 人口あたりの医師数を示してよく議論されています。 このように単純に人数だけを比較して、 医師が足りているか、 足りていないかということは判断できないと思います。 その場所の特性について明らかにしていくと、 医師偏在についてより議論が深まっていくのではないでしょうか。
編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。
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