【解説】切除不能進行再発胃がんにおけるMSI検査/MMR-IHCは実施すべきか?
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Beyond the Evidence

10ヶ月前

【解説】切除不能進行再発胃がんにおけるMSI検査/MMR-IHCは実施すべきか?

【解説】切除不能進行再発胃がんにおけるMSI検査/MMR-IHCは実施すべきか?
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今回のClinical Question

切除不能進行再発胃がんにおけるMSI検査、MMR-IHCは実施すべきか?

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専門医の解説 「私はこう考える」

【解説】切除不能進行再発胃がんにおけるMSI検査/MMR-IHCは実施すべきか?
MSI-H/dMMRは、 切除不能進行再発胃がんで低頻度な集団であり、 コスト、 施設の実施体制により、 利害のバランスが異なることを考慮すると一律に推奨することは困難であるが、 実施する意義が高く、 可能なら積極的に行う。

切除不能進行再発胃がんの1次化学療法

CheckMate 649試験、ATTRACTION-4試験の結果を受けて、 切除不能進行再発胃がんの1次化学療法はニボルマブ併用化学療法となった¹⁾²⁾。 

本邦では、 PD-L1発現によらず、 ニボルマブ併用化学療法が保険適用となり、 日常診療ではPD-L1の発現に関わらず、 ニボルマブが併用されることが多いと思われる。

PD-L1検査と発現頻度

PD-L1検査は、 complementary diagnosisとして、 保険診療下で実施可能である。 しかしながら、 PD-L1 (28-8) IHCで、 CPS 5以上の集団はCheckMate 649試験では約6割であったが、 CheckMate 032試験や、昨年のASCO 2022で報告されたシンガポールからの解析では3割程度とされている³⁾⁴⁾。 自験例も後者に近く、 3月のJSMOで来日されたCheckMate 649試験のGlobal PIであるJanjigian先生自身も、 自施設で3割程度とお話されていた。

原発巣と転移巣、 治療前後での不一致なども報告されており、 PD-L1検査はニボルマブ併用化学療法の確立したバイオマーカーとは言い難い⁵⁾⁶⁾。 さらなる有用なバイオマーカーの探索が望まれる。

MSI-H/dMMRの立ち位置

そのような中で、 MSI-H/dMMRが、 ニボルマブなどのPD-1抗体薬の正の効果良好因子であることは、 がん種横断的に示されている。 胃がんにおいても各試験のサブグループ解析で一貫している⁷⁾⁻¹⁰⁾。 MSI-H/dMMRは、 免疫チェックポイント阻害剤の最も手堅いバイオマーカーであるが、 未治療例を対象としたMSI検査/MMR-IHCは保険適用上の扱いが不明確であり、 日常診療でも実施されていないことが多いかもしれない。

一次治療前に実施すべき、 院内検査が可能であればMMR検査を

個人的には、 MSI検査/MMR-IHCは、 切除不能進行再発胃がんの一次治療前に実施すべき検査であると考える。 さらに、 MSI検査の検査所要時間(TAT)を考慮すると院内で実施可能な施設では、 MMR-IHC検査がより望ましいだろう¹¹⁾。 

理由は、 事前にMSI-H/dMMRとわかれば、 ニボルマブをメインに行うことができるからである。 つまり、 殺細胞性抗がん薬の減量開始や、 オキサリプラチンを早期から休薬する治療戦略も選択可能になる。

胃がんにおけるMSI-H/dMMRは、 MLH1、 MSH2、 MSH6、 PMS2の生殖細胞系列の異常は少なく、 ほとんどがメチル化による不活性化で、 高齢者に多い¹²⁾。 高齢のMSI-H/dMMR患者であれば、 殺細胞性抗がん薬を減量開始することで忍容性を維持できることも想定される。

少なくともPD-L1検査実施時は、 MMR-IHCは行うのが合理的

筆者も、 診断時切除不能のリンパ節転移を伴う高齢のdMMR症例で、 殺細胞性抗がん剤を減量開始し、 切除可能となり、 原発・転移巣ともにpCRであった症例を経験した。 オキサリプラチンの末梢神経障害が遷延することは、 日常診療で多くの方が経験し、 難渋していることと思う¹³⁾。

繰り返しになるが、 MSI-H/dMMR検査の結果は、 オキサリプラチン休薬を早期に決断しやすい一因になりうる。 少なくともPD-L1検査を実施するのであれば、 MMR-IHCは行うのが合理的であると思う。

KEYNOTE-062試験

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CheckMate 649試験

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私の見解

本邦の承認状況から、 MSI-H/dMMRは治療選択に寄与しない検査という認識はある。 しかし、 “あり”か“なし”かの二者択一ではなく、 ニボルマブ併用化学療法は、 免疫療法と殺細胞抗がん薬という異なる特性をもつ治療の組合せであることに鑑み、 『治療の配合』を考慮することには寄与しうる有用な検査というのが個人的な見解である。

しかしながら、 頻度を考慮すると、 コスト、 実施体制など各施設の事情によっては、 利害のバランスは異なる。 日常診療では、 個別の事情に合わせて、 柔軟に対応できることが最適であると考える。

参考文献

  1. First-line pembrolizumab and trastuzumab in HER2-positive oesophageal, gastric, or gastro-oesophageal junction cancer: an open-label, single-arm, phase 2 trial. Lancet Oncol. 2020 Jun;21(6):821-831. PMID: 32437664
  2. Nivolumab plus chemotherapy versus placebo plus chemotherapy in patients with HER2-negative, untreated, unresectable advanced or recurrent gastric or gastro-oesophageal junction cancer (ATTRACTION-4): a randomised, multicentre, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial.Lancet Oncol. 2022 Feb;23(2):234-247. PMID: 35030335
  3. CheckMate-032 Study: Efficacy and Safety of Nivolumab and Nivolumab Plus Ipilimumab in Patients With Metastatic Esophagogastric Cancer. J Clin Oncol. 2018 Oct 1;36(28):2836-2844. PMID: 30110194
  4. Choice of PD-L1 immunohistochemistry assay influences clinical eligibility for gastric cancer immunotherapy. Gastric Cancer. 2022 Jul;25(4):741-750. PMID: 35661944
  5. Spatial and Temporal Heterogeneity of PD-L1 Expression and Tumor Mutational Burden in Gastroesophageal Adenocarcinoma at Baseline Diagnosis and after Chemotherapy. Clin Cancer Res. 2020 Dec 15;26(24):6453-6463. PMID: 32820017
  6. Discordancy and changes in the pattern of programmed death ligand 1 expression before and after platinum-based chemotherapy in metastatic gastric cancer. Gastric Cancer. 2019 Jan;22(1):147-154. PMID: 29860599
  7. Efficacy of Pembrolizumab in Patients With Noncolorectal High Microsatellite Instability/Mismatch Repair-Deficient Cancer: Results From the Phase II KEYNOTE-158 Study. J Clin Oncol. 2020 Jan 1;38(1):1-10. PMID: 31682550
  8. Assessment of Pembrolizumab Therapy for the Treatment of Microsatellite Instability-High Gastric or Gastroesophageal Junction Cancer Among Patients in the KEYNOTE-059, KEYNOTE-061, and KEYNOTE-062 Clinical Trials. JAMA Oncol. 2021 Jun 1;7(6):895-902. PMID: 33792646
  9. Current Strategy to Treat Immunogenic Gastrointestinal Cancers: Perspectives for a New Era.Cells. 2023 Mar 30;12(7):1049. PMID: 37048122
  10. Current Strategy to Treat Immunogenic Gastrointestinal Cancers: Perspectives for a New Era.Cells. 2023 Mar 30;12(7):1049. PMID: 37048122
  11. Comprehensive molecular characterization of human colon and rectal cancer. Nature. 2012 Jul 18;487(7407):330-7.PMID: 22810696
  12. Implementation of microsatellite instability testing for the assessment of solid tumors in clinical practice. Cancer Med. 2023 Apr;12(7):7932-7940. PMID: 36573309
  13. Final Analysis of 3 Versus 6 Months of Adjuvant Oxaliplatin and Fluoropyrimidine-Based Therapy in Patients With Stage III Colon Cancer: The Randomized Phase III ACHIEVE Trial. J Clin Oncol. 2022 Oct 10;40(29):3419-3429. PMID: 35512259

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編集・作図:編集部、 監修:所属専門医師。各領域の第一線の専門医が複数在籍。最新トピックに関する独自記事を配信中。

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